向日葵色の希望
2、
窓からは何も見えない。
本当は、隣の家が、すぐそばにある道路が、空が、
見えるはずなのに。
カーテンを閉め切った窓からは、かすかな光が漏れるだけだった。
「ガタ。」
私は、部屋に置いてあるパソコンをベットの上に移動させた。
「カチカチ…。」
ベットに寝転がって、好きなドラマやYouTubeを見る。
面白いも何も感じることもなく、無表情で画面を凝視する。
ただそれだけで、一日が終わっていく。
部屋にいれば、姉の「疲れた」という声も聞かなくて済む。
家族以外の誰にも会うこともなく、口角を上げて笑うこともなく、
無駄な一日ばかり過ぎていく。
でも、これでいい。
もう、諦めてしまったら…、楽だから。
もう、泣かないで済むから―
ふと、冷たいものが頬に触れた。
―泣いていた。
雨みたい、と思った。
昼食を食べに、1階のリビングまで降りていく。
昼食の時はいつも一人だった。
一人ぼっちで食べるご飯は、何の味もしなかった。
母の作った弁当を、黙々と口に運ぶ。
いつからだろう、ご飯を食べることが、ただ「お腹を満たすもの」になってしまったのは。
「ガチャ。」
玄関で音がしたかと思うと、母が帰ってきていた。
「奈穂、ただいま。お昼ご飯美味しい?」
「うん。」
「お母さんも、今日は奈穂と一緒にご飯食べよっかな。」
母はそう言うと、朝作って持っていった自分のお弁当を机の上に出した。
「あのさ、奈穂。」
母が真っすぐに私を見つめて言った。
「フリースクール、に…、行ってみない?」
今日初めて顔を上げると、心配そうで不安そうな母の顔が傍にあった。
「学校に行けていない子たちが行く、自由な学校なんだけどね…。どう…?」
「……。」
「もし興味があるんだったら、見学だけでも、行ってみない―?」
そんなところに行っても、何も変わらないような気がした。
でも―、少しだけ、ほんの少しだけ、興味があった。
そこになら私の気持ち、分かってくれる人が、いるかもしれない―。
もう一度、笑えるようになるかもしれない―。
そんなほんの少しの、淡い期待が胸の奥に広がっていくと、「うん。」と応えていた。
太陽の光がまぶしい。
向日葵みたいにまぶしく輝く夏の終わりの太陽が、群青の空に浮かんでいた。
雲が、一つもなかった。
いつの間にか雲がどんな形をしていたか、秋色の混ざった夏の匂いが、どんなだったか。
分からなくなっていた。
私は、空を見上げているのをやめて、前を向いた。
緊張のせいか、外に出ていなかったせいか、すごく怖い。
周りが気になって、私以外の人がすべて、敵に見えた。
ふと、隣を歩く、母を見上げた。
「奈穂。大丈夫、だからね。」
ここに一人、味方がいた。
私の大切な、大好きな人。
「お母さんが、そばにいるからね。」
大丈夫―、母がそう言うと、本当に大丈夫な気がした。
「不安だったら、手、繋ぐ…?」
「いいよ!子供じゃないし。」
「えー、いいじゃん!繋ごう!」
母の笑顔が太陽を遮った。
「うん。」
笑った。
笑えた。
私の笑顔を見た母は、誰よりも嬉しそうだった。
思ったよりも、前を、向けるかもしれない―。
そう、思った。




