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むすかり  作者: やきぶたたまこめし
18/30

変われない自分

「ジャリッ。ジャリッ。」

小石の混ざった黒くて堅いコンクリートに、ローファーの擦れる音。

見慣れた校舎で、窓から聞こえる生徒たちの声に、私は少し体を強張らせた。

中学に入って、初めてローファーというものを履いた時は、すごく嬉しかったのを思いだした。

公立の中学はダサい白靴だけど、私立のここは制服も可愛くてローファーも履けて、高校生になったような気分になれた。

始めは、姉に少しでも近づきたくて、この学校に入った。でも実際に学校で過ごして、大変ではあったけど素直に楽しくて、特別な気分になれた気がした。

でも―

あの頃も今も、変わらず臆病な自分に、いい加減嫌気がさす。

変わりたい―と思ったあの時の自分の気持ちは、どこに行ったのだろうか―?

私は人気のない砂利道を、保険室に向かって歩き出した。

「ガコンッ」と音を立てながら、靴箱からシューズを出す。

「ワハハハハ!」

すぐそばの教室から聞こえた笑い声。

皆が、私のいないクラスで笑っているのを聞くと、胸に「チク」と傷みを感じた。

まるで私の存在なんて、最初からなかったみたいで、私には帰る場所がないことを、思い知らされるみたいで。

「コツ…コツ…コツ…。」

目の前に誰かの気配を感じて、顔を上げた。

なぜこんな時間にここにいるのか、分からない。

今はどこのクラスも、授業中はずだ。

―でも

何故か、私の目の前に立っている。

「コツコツコツ…。」

1年3組の、同じクラスの子。私の腰ぐらいまでありそうな、長くて艶のある髪を後ろで束ね、ゆらゆらと揺らしながらこちらに向かって歩いてくる。

「あぁ…、奈穂ちゃん、久しぶりだね!」

すぐ目の前まで来たその子は、作ったような笑顔で私に話しかけてくる。

足元から氷で固められたように動けなくなった。

それでも、振り絞って、震える声で言った。

「うん…。久しぶり、佳穂ちゃん…。」

そんな私に、佳穂ちゃんは顔色を変えて言った。

「何で、学校、来ないの?」

「え…。」

「あー、ごめんね、体が弱いんだったけ?嫌味みたいに聞こえたらごめんね!」

そう前置きをしたかと思うと、早口で話し出した。

「正直迷惑なんだけど、委員会の仕事も、クラスの役割とかもさ、自分でやりたい、って決めた癖に最後まで出来ないとか、代わりに押し付けられる私たちの身にもなってよね。」

真っ向から私を鋭く睨めつけると、イライラした様子で貧乏ゆすりを始めた。

「学校来れないんだったら、さっさと退学して、公立にでも行ったら?そのほうが案外、誰にも迷惑かけずに済むかもよ。

ホントに、お姉ちゃんと正反対で、何にも出来ないんだね。」

佳穂ちゃんは、私に背を向け、反対側に歩いていった。

私は、廊下の冷たい床に、足の裏を貼り付けられたみたいに動けなくて、ただ突っ立っていた。


姉は、この学校の生徒会長をしていた。

もう卒業してしまったけれど、良く学校に尽くしてくれた、ということで卒業しても知っている人が多かった。制服の制度を変えたり、校則を見直したり、と歴代で一番優秀だった、と言う人たちも多かった。

1年生の、まだ学校に通えていた頃に言われた。

―お姉ちゃんは、みんなに頼りにされてて、すごく優秀だった。奈穂ちゃんも頑張ってね!期待してるからね!

―奈穂ちゃんも、生徒会長になるんでしょ!

―お姉ちゃん頭いいから、奈穂ちゃんも頭いいんでしょ!

―奈穂ちゃんすごいね。お姉ちゃん生徒会長で、名門校に入学したんでしょ!


誰一人、私を私として見てくれなかった。

私は藤本里紗の妹だけど、一人の人間で、何もすごくなんてないのに。出来ないものを背負わされて、勝手に期待されて。

結局、何も出来ないまま終わってしまう。

努力はした、つもりだった。

必死に、自分に出来る限りの、期待に応えたくて。

期待されたのなんて、初めてで、嬉しかった、から―

でも、やっぱり、私には出来ない。

何もできない。

姉のようになれない自分が、大嫌いだ。

何度謝っても、頑張っても、変われないことも、姉のようにはなれないことも、もう身に染みて分かっている。

だからもう、やめて欲しい。

もう、何も重い荷物を、背負わせないで欲しい。

弱いから。

姉みたいに、強くないから。

もう―


お願いだ。




それから私は、いつ居場所をなくしてもいいように、必死に生きた。

何度辛い夜が来ても、乗り越えられるように、生きていられるように。

何も感じないように、考えないように―生きた。

あの時までは―

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