不安と恐怖
「ザー…」
雨音で目を覚ました。
目の両端に「ピリッ」と傷みを感じた。
最近泣きすぎていたせいで、目の端の皮膚が荒れて赤くなっていた。
雨のせいか、いつもよりどんよりと重たい空気。
私は、じんわりと濡れた感覚のあるカーテンを、心地いい音を立てて開けた。
不登校になって、こんなに朝早くから起きていることが少なくなっていた。
始めのうちは、起きよう、という気持ちがあって、アラームはかけていた。
でも最近は、起きることも苦痛になってきて、大体11時くらいに起きることが多くなった。
そのせいか、まだ眠気が残っている。
「奈穂ー!起きてよー!」
母の心地の悪い声が、2階中に響き渡っているのが鬱陶しい。
ピリピリと頭の奥からイライラが襲ってきて、止められない。
「奈穂―!」
「はい、はい…!」
心の中で母への暴言を吐きながら、1階に続く階段を降りていく。
それから無言で身支度を済ますと、母の藍色の車に乗り込んだ。
学校のことを考えるだけで、イライラした気持ちが消えていって、その代わりに今から殺されるような不安と恐怖に襲われた。
車が学校に近づいていくたびにその気持ちはだんだん強くなっていく。
私は、震えの止まらない手を強く握りしめた。
「大丈夫…?」
母が頭上の鏡越しに、心配そうに私を見つめている。
「うん…。」
と情けない返事をした。
本当は、大丈夫じゃない。
今すぐここから逃げたくて、どうしようもない恐怖が胸に染み付いたままで。
でも私が今ここで、「大丈夫じゃない」と言ったところで、逃げられるはずがない。
もう後戻りなんて、出来ないんだ。
「着いたよ。」
母の短い言葉と共に、私は顔を上げた。
久しぶりに見る学校。
気付けば、目の中にはたくさんの雫が浮かんでいて、指先は酷く冷たくなっている。
「大丈夫、お母さんも、里紗もフリースクールの渡辺先生も、みんな奈穂のこと応援してるから。
…頑張ってね。」
その時思った。
―一華も。
応援してくれてたらいいな。
って。
「うん。」
私はそう返事をすると、震える手をもう一度強く握り締めて、車のドアを開けた。
冬の学校は、酷く肌寒かった。




