一華の記憶
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最初に感じたのは、「あぁ、またか」という呆れだったのかもしれない。
でも、日を追うごとに、悲しさや虚しさが胸の奥で広がって、消えないくらい濃く沁みついていった。
何度も裏切られてきたはずなのに、こんな気持ちになるのは初めてだった。
奈穂だけだった。
こんなに辛くて辛くて、後悔と自責の念ばかりに心を支配されたのは。
いつも、いつも、裏切られてきたくせに―
小学校の頃。
私より幸せそうな奴らが、羨ましくて仕方なかった。
両親はいつも喧嘩していて、ある時父が出て行った。
母は父が出て行ったショックで精神障害を起こし、しばらく寝込んでいた。
でも、家計が厳しくなってくると、毎日ボロボロになるまで働くようになった。
だから私は、学校の行事に家族で参加したこともなかったし、毎日家の手伝いばかりで、友達と放課後や休日に遊んだことがなかった。
いつも参観日や運動会で笑顔で手を振りあっている親子や、遠足の日にお母さんにお弁当を作ってもらえるクラスメイトたちが、羨ましくて仕方なかった。
ある日。
遠足の予備日で給食が止まっていた日。
私は一人、お弁当を持たずに登校した。
「あっ!一華ちゃん、お弁当持ってきてない!」
「ホントだー!忘れたんだ!」
いつも一緒にいた、二人の友達が言った。
―だらしないよね。絶対親にプリント見せてなかったんだよ。
そんな声が、小さく聞こえた。
二人には、母のことも、父がいないことも話していた。
だから今日、お弁当を分けてくれる、とも約束してくれた。
「どうして…?」
そう、独り言のように小さく二人に問いかけた。
「あんたに、私たちのお弁当なんて、あげるわけないじゃん!」
「もしかして、分けてもらえるとでも思ってたの?かっわいそー!」
小さく薄笑いを浮かべた二人。
私の中でだんだん怒りが膨らんでいくのが分かった。
「ガタンッ!」
そう音を立て、椅子から立ち上がって教室から出ようとした。
「逃げんなよ。」
そう、真っ黒な声で言われた。
それでも抵抗して出て行こうとした私を、二人は無理やり教室に引き戻した。
思いきり腕を掴まれた。
私はとっさに腕を振り払い、逃げようとした。
「痛い!」
さっきの何倍も甲高い声が教室中に響き渡った。
「先生!一華ちゃんが、リカちゃんとミホちゃんをいじめてます!」
そう、誰かの声が聞こえると、私はこの教室で―この世界で―
居場所をなくしていた。




