群青の空
朝起きて、緑色のカーテンを開けた。
雲一つなくて、ただひたすら「青」が広がる空に、まぶしく光る太陽が浮かんでいた。
今日は、絶好のお出かけ日和だ。
私は、天気とは裏腹に、もやもやと心にかかる霧を、頭の中から追いやった。
すみれ色のキーホルダーを、お出かけ用の鞄に付け替えると、顔を洗うために一階に降りて行った。
今日のために用意していおいた、白いTシャツと紺色のジーパンに着替えて、髪を頭の上で高く結んだ。
「よしっ!」
キャップを被って、後ろの穴に髪の束を通す。
玄関の前に立って、誰もいないリビングに「行ってきます」と言って、ドアを閉めた。
ひんやりとした、冬の刺すような空気が入り込んできた。
冷たくて、でもどこか、寂しさがあるような、そんな匂いが鼻についた。
「奈穂ぉー!」
一華が、いつもより動きやすそうなズボンを履いて、満面の笑みでこっちに向かって走ってくる。
「おっはよー!」
「おはよう、一華。」
一華の笑顔を見ていると、嫌なことが全部頭から離れていく。
「今日は一段と元気だね!」
「うん!早く行こ!」
今から起こることにどれだけわくわくしているのか分かるような笑顔で、そう急かしてくる。
「うん!」
私も、一華と同じように笑ってみた。
足が、棒になりそうだ。
虫や自然物が多い山の中は、空気がきれいで、心も何処となく綺麗になっていく。
このままここに一華といたくて、ずっと明日にならなければいいと思った。
「疲れた。」
一華の、もう限界、と言いだしそうな声を聞いて、「クス」と笑った。
「何で笑うの。」
そう、不満そうに聞いてくる一華を見て言った。
「このままここにいたいな、って思ったから。」
「…?何それ?」
不思議そうな一華の顔。
「何でもないよっ!早く行こ!」
「うん!」
私は、まぶしく輝く太陽を見上げると、それに向かって足を進めた。
もちろん、一華と共に…。
「わぁ!」
必死に登った山の頂上には、群青の空があった。
青くて、真っすぐで、輝いていて、優しく、私たちを包み込んでいる。
上のほうは、少しだけ濃くて鮮やかな青で、下のほうは、太陽の光を浴びて澄んだ水みたいな色だ。
その下に、瑠璃色に輝く、海があった。
「きれい…。」
一華の感嘆の声と共に、私も無意識に言葉を発していた。
「登ってきて…、よかったね…!」
一華がそう言った。
「うん。」
私は涙で滲んでいく景色をじっと、見つめてた。
本当に、どれだけ辛くても、苦しくても、ここまで来てよかった、と思った。
毎日、夜が来るたびに死のうと思った。
この世界で生きていくことが、怖くて怖くて、死ねば楽になれる、と思って死のうとした。
―でも、出来なかった…。
死ぬことのほうが、怖かった。
死ぬことすらも出来ない自分を、目を瞑るたびに攻めた。
このまま眠るように死ねたらいいな、…って…。
でも、そんな夜を必死に越えてきて良かった。
これから、今まで歩んできた道とは比べ物にならないほど、険しい道を進んで行くかもしれない。
でも、それでも、前を向いて、日向の当たるほうへ進んで行きたい。
きっとその先に、こんな素晴らしい景色が待っている、と信じて―。
正直、こんな道を、一人で歩いていける自信なんてない。
でも、今の私には一華がいる。
一人ではない。
そう、教えてくれた。
だから、歩んで行けるような、気がした。
一華と一緒なら―
「一華!これからもずっと、友達でいようね!」
思わずそう言っていた。
「うん!」
今までで一番嬉しそうな、一華の笑顔を見た、気がした。




