幸せと不安
3、
フリースクールに行くために買った鞄に、すみれ色のキーホルダーが付いたのは、一華に出会って、少し経ってからだった。
秋祭りの日から、だんだん二人で外でも遊ぶようになった。
ショッピングモールも、平日で一華と一緒なら行けるようになった。
そこで二人でお揃いで買った、すみれ色の細長い花の形のキーホルダー。
この花がどんな花なのか、どんな花言葉があるのか、知らないけれど、友達ができたことが無い奈穂には、「お揃い」ということがすごく新鮮だった。
最近、笑う回数が多くなった、と姉や母に言われることがあるくらい充実した日々を送っていた。
「おはよう奈穂!」
後ろから飛びついてきた一華に向かって、「おはよう一華!」と笑い返した。
もうすぐ冬本番、ということもあってか、日が照っていても外にいたら体中が冷え切っている。
「今年の冬は特に寒い」と、母が言っていたのを思い出した。
私は、かじかんだ指先に白い息を吹きかけて、少しばかり寒さを和らげようとした。
「奈穂!今日は何する?」
一華も前よりもっと笑うようになった気がしている。
出会った頃よりも自分を素直に出してくれているような気がして、私はとても嬉しかった。
「何でもいいよっ!っていうか、遊ぶ前に勉強しなきゃ、かおり先生に叱られるよ!」
「そうだった!」
一華の笑顔には、見ているだけで人を笑顔にさせられる、そんな能力があるように思える。
ただ見ているだけで、こっちまで嬉しくなってきて、幸せな気持ちにさせられるのだ。
「今日も元気だね!」
「うん!だってだって、週末が楽しみなんだもん!」
週末、二人で山に行く予定だ。
瀬戸内海の島の中にある小さな山に、二人で山登りに行こうと約束している。
そこには展望台もあるし、初めての山登り、ということもあってずっと楽しみにしている。
週末のことで頭がいっぱいの一華を、「早く行こう!」と促した。
そして、かおり先生の待つフリースクールに入って行った。
「ただいま!お母さん!」
そう元気よく言った。
ソファに身を投げて、ぐったりとしている母は、仕事から帰ってきたばかりのようだ。
父は単身赴任中で、お盆やお正月にしか帰ってこない。前は週末には必ず帰ってきてくれていたけれど、母と大喧嘩してからはなかなか帰ってきてくれなくなった。
そんな父から送られてくる生活費は、いつも一人分、母の分が足りないみたいだった。
母への嫌がらせなのか、それとも送り忘れているのか、分からない。だけど、そんな父のことを私はあまり好きにはなれなかった。
母は私たちのために、何年前に辞めた看護師の仕事を再開して、朝から晩まで働いている。
「お帰り奈穂。今日もフリースクール、楽しかった…?」
そう、心配そうに聞いてくる母に、私は正直に答えた。
「うん!とっても楽しかったよ!」
そう、今日あった出来事を思い出しながら言った。
「お節介かもしれないけど…、学校、行ってみたら…?」
母の口から出た「学校」という単語に、体が強張っていくのを感じた。
分かっている。
母は、学校に行けない私がいつか行けるようになると信じて、無駄な学費を払い続けてくれている。
母が無理をして働いてくれているのに、私はそれを無碍にしているのだ。
「うん…。」
そうあいまいな返事をして、俯いて部屋を出た。
どうしても、前に進まなきゃ駄目なのだろうか…?
このままここにいることは、出来ないのだろうか―。




