始まり
「頑張ること」とはいったい何?
私にはよくわからない。
だけどこれだけは分かる。
少し怖くなったり、つらくなったり、疲れてしまったら、
立ち止まってもいいんだということ。
我慢して、抱え込んでしまうんじゃなくて、逃げてもいいんだということ。
後ろに進んでも、違う道を行ってもいいんだということ。
だって、あなたがここにいるだけでいいから。
ここにいて、生きて、笑ってくれているだけでいいんだから。
誰にも認められなくても、みんなと同じでなくても、
あなたはあなただから。
何も、変わったりしないから―
1、
自分の席から、桜が見えたのを覚えている。
緊張感で体を強張らせていた私の心に、そっと舞い降りた花びら。
春の匂いがした。
中一の入学式。
受験して入った中学校。
私は、周りを気にしながら立ち上がった。
「藤本奈穂さん。」
1年3組の担任の先生が、私の名前を呼ぶ。
初めての中学校の体育館は、緊張と春の陽気が漂っていた。
一学期が始まってから中学校生活を送るにつれ、私たちのクラスは穏やかで優しい雰囲気のクラスになった。
それこそ、いじめなんて起こることもないような―
そんなクラスで、私は安心していた。
ここでなら、何とかやっていける。
春の生ぬるい空気の中で、そう、勘違いしていたようだ。
真夏が終わり、秋が姿を見せ始めた頃。
私は喘息で倒れた。生まれつき持っていた、小児喘息が再発したようだ。
どうやら重症だったみたいだ。病院に運ばれ、入院することになった。
―学校を、休んだ。
真っ白な病室は、薬の匂いがした。
ベットからほとんど動くことが出来なかった私は、何をしていいか分からない退屈な日々を過ごしていた。
時々、クラスメイトから、手紙が届くことがあった。
その手紙が来ることが嬉しくて、『早く戻りたい』そんな感情だけが私の胸に渦巻いていた。
退院して、やっと学校に復帰できるようになった。
もう2か月も休んでしまっていたけれど、わくわくで胸がいっぱいだった。
でも―
違った。
私は完全に、出遅れていた。
同学年の子たちは、もうとっくに前へ進んでいた。
入学当時には、まだバラバラだった友達グループも、私の入る隙も無いように決まっていた。
どうやっても理解することが出来ない勉強。
クラスの中で一人ぼっちで彷徨う私には、もう後がなかった。
勉強机には、新品の教科書が積み重なって、開かれることはなかった。
―学校に、行かなくなった。




