ぼくたちチェック・メイト
シャーロックホームズみたいな格好をして松さんが現れた。昼間の田舎町の駅が途端に探偵映画の一場面みたいに変貌する。
「やあ、待った?」
「ううん。今きたとこ」
ぼくはそう言いながら、松さんの服をほれぼれとしながら見つめた。
帽子もコートもズボンもすべてグレンチェックで揃えている。さすがだ!
「ケイちゃんの格好も素敵だね」
松さんが褒めてくれた。
「赤いタータンチェックのワンピースか。それなら返り血を浴びても目立たないね」
「目立ちますよ〜。もー、松さんたら、推理小説マニアなんだから!」
ぼくが笑顔でツッコむと、松さんはパイプを片手にホッホッホッと笑った。
駅の出口からまた一人、現れた。
可愛い白と黒のギンガムチェックのワンピースをロリロリに着こなしてる。しーちゃんだ! たぶん、きっと、しーちゃんだ!
「こんにちは〜」
甲高い声で話しかけてきた。
「松さんとケイちゃんですかぁ?」
「やっぱりしーちゃん?」
「ホッホッホ。わたしの推理があたったようだ」
「会えたね〜! なんか二人とも、イメージ通り! ケイちゃんも想像通りの『ボクっ娘』で、可愛い〜い↑!」
ぼくたちは『チェック・メイト』だ。チェック柄をこよなく愛するコミュニティーをネット上で形成している。
お互い顔は知らなかったけど、今日初めて会うことになった。
ネットで知り合った人とリアルで会うと後悔するってたまに聞くけど、そんなことはまったくなさそうだ。
松さんはネットでの印象通りの『変だけどいい人』だし、しーちゃんもネットでは10代かなって思ってたのが40代だったけど、可愛いことには間違いない。
楽しいオフ会になりそうだと、その時までは思ってました。
「ぼくと、松さんと、しーちゃんと揃ったね。あとはゲンさんだけだね〜」
「ゲンさんはどういう人か、想像つかないよね」
「ホッホッホ。わたしの推理ではきっと50代くらいの痩せ型の紳士ですぞ」
ゲンさんは一番発言回数の少ない物静かな男性で、話題のやたら古い人だ。
駅の出口をみんなで見つめて待っていると、背後から声がした。
「あの……。わたしゲンさん。もうあなたたちの後ろにいるの」
みんなで振り向くと、そこに影のない透き通った男の人がいて、昭和っぽい緑色のチェック柄のシャツを着てふわふわ浮いていた。
「えーと」
「んーと」
「ゲンさん! 会えたね!」
ぼくらは駆け寄り、青白い顔を笑わせるゲンさんと握手をした。チェック・メイトになれば、誰でも仲間だよ!