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ドワーフ童話「髭長姫」

作者: woodenface

 むかしむかしあるところに、貧しいドワーフの夫婦がいました。

 夫婦は長い間子供を授かることがありませんでしたが、ある時やっと子宝に恵まれます。


 妊娠したドワーフの妻は悪阻(つわり)こそ酷くはありませんでしたが、事あるごとに養生酒(ようじょうざけ)[※]が欲しくなってたまりませんでした。


 ※:ドワーフの妊婦が赤子への栄養の為に酒をたっぷり飲む習慣。人間はマネしてはいけない。


 しかし貧しい夫婦の持つ財産では養生酒を用意できません。

 妻とようやく授かった赤子が可愛くてたまらない夫は、悪い事とは知りながら酒蔵へ忍び込み、酒をいくらか盗んできました。

 酒を飲んだ妻の体調はすこぶる良くなり、赤子も栄養のおかげかお腹の中で元気に育ちます。


 元気になった妻は、今度は三倍の量の酒が欲しいと夫にねだりました。

 夫はまた酒蔵に忍び込みますが、樽ごと盗んだのでさすがに蔵の主人にバレてしまいます。

 捕まえた夫から事情を聴いた蔵の主人は"好きなだけ蔵の酒は飲んでもいいが、生まれた子供は老いた私のところへ養子に出すこと"と約束させました。


 その後、妻は元気な女の子を産みましたが、約束に従って酒蔵の主人に養子に出さねばなりません。

 夫婦はたいそう悲しみましたが、無事に生まれてくれたこと、暮らしに困らぬところで育てられるのだからと涙を呑んで見送りました。



 引き取られた女の子はバーバラと名付けられ、酒蔵の主人の下でとても大切に育てられました。

 年頃になった彼女はその名にふさわしい美しく長い(バルバ)を備え、町のドワーフの誰もが振り返るほどの美人です。

 当然、多くの縁談が持ち込まれましたが、養父である酒蔵の主人は"この子より美しく長い髭を持つ男しか認めない"と言いました。

 バーバラは(ちまた)で"髭長姫"と謳われるほど。

 その長い髭には、必死で伸ばした男たちの髭も敵いませんでした。


 酒蔵の主人はバーバラを大切に育てましたが、それ故に彼女は屋敷の外を知らず、塀に囲まれた庭で独り遊んでいました。

 ある日、屋敷の(へい)の隙間から町の男の子が忍び込んできて、バーバラと仲良くなります。

 会った時はまだ小さかった二人も、髭の生える年頃になるにつれ、やがて恋仲へなりました。


 バーバラは恋仲になった青年の事を養父に伝えましたが、彼は激怒します。

 話に聞く青年はバーバラよりも小柄で、髭も比べるべくもありません。

 養父は彼女に"お前より長く美しい髭の持ち主でなければ認めない"と言い、(へい)の隙間も塗り固めてしまいました。

 青年に会えなくなったバーバラは悲しみましたが、決して諦めませんでした。


 ある朝、養父がバーバラの部屋を訪れると、そこには無残に美しかった髭を切り落とした彼女が居ました。

 あまりの出来事に混乱する彼に、バーバラは"今の私より彼の方が美しく長い髭を持っています"と言い、婿入りを承諾させました。


 後に行われた結婚式では"髭長姫"と謳われた彼女はどこにもいませんでしたが、誰よりも幸せそうな花嫁がいたのでした。



 めでたし、めでたし

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルから全て話の面白さが持っていかれた気がしましたが、最後めっちゃいい終わり方ですね…。 髭長姫が幸せになれて本当に良かったです。 髭は伸ばし続けるのではなく、さっぱり切ってしまうのが…
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