204号室
いつもと変わらぬ景色。
窓から見える街並みは変わる事無く、時を刻む。
まるで心を無くした僕のように、無情な時が過ぎた。
風に揺られた草木が、自然の芸術とも呼べるさざなみを作り
風が止めば、また元に戻る。
薄れ行く意識の中、そんな景色を何度見ただろう・・・・。
今日も意識が朦朧とする。
純白の包帯で見えなくなった己の身体。
そんな僕の手を優しく包む君は
一体いつまで僕のそばにいるのだろう。
君は・・・誰?・・・・
包帯に巻かれた僕の手を
君は泣きながら握っている。
僕には君が誰なのか分からず、涙の意味さえも知らないまま。
君の瞳に溢れる涙が、何かを語っていた。
ほのかな香水の香が、何故か懐かしく感じる。
どこかで包まれていたことのあるような、不思議な感覚が僕に残っている。
泣きながら何かを呟く君は、どこか儚げに見えた。
無常な日々が、痛みを重ねる。
きっと僕はこの部屋で、一人命を無くすのだろう。
最後のときが近い事に、君は気付いたね。
見るも無残な僕の身体。
君は力強く抱きしめると、寂しげに震える。
君が誰なのか、せめて死ぬ前に教えて欲しい。
君がいなくなった部屋。
何故か冷たく感じるのは勘違いだろうか。
そばにいてくれる事を願っても
僕の灯火は消えようとしている。
君は・・・・誰?・・・
最後になってたった一つ、大切な人を思い出した。
見開いた瞳の奥に、君が映った。
必死で手を伸ばそうとしても、もう届かない。
冷たく冷え切った部屋。
君の涙に隠された事実。
「そうか・・・君は・・・・・」
燃ゆる炎。
これからは灰になり、君を思い出す・・・・