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第九話 魔女に弟子入り

 魔女に弟子入り


 屋敷の中に入ると、頭に花飾りを付けている、メイドらしき者たちが並んでいた。

 その中で、薔薇の花飾りを付けた者が私たちの様子を伺いながら、ドロシーに話しかけた。


「ドロシー様、訪問者なら私が参りましたのに……」

「ユー、あんたが出て行ったら、酷いことになっていたかもしれない。あたしが出て行って正解だったよ」

「どういうことです?」

「一言で言うと、この娘とあたしらが揉めたら、こっちが全滅するね」

「それほどの力がある方々だったのですか……」

「ああ、初めに見た時は、人に思えなかったよ。それにドラゴンまで連れている。もうお手上げだ。まあ、敵対心はなさそうだから、屋敷に連れてきたが、問題ないだろう」


 やはり、私の力を何らかの方法で知ることができるのは、間違いなさそうだ。

 もし、私にもできるのなら、覚えておきたいな。


「なるほど、わかりました……」


 ユーと呼ばれた人物は、こちらをしばらくじっと見つめてから自己紹介をしてくれた。

 彼女も私たちの力を見ることができるのか。

 ますます習得したくなってくる能力だ。


「ご挨拶が遅れたこと、申し訳ありません。ドロシー様のお世話をしておりますアルルーナのユーリシュカと申します。気軽にユーとお呼びください。それとこの娘たちは、私の配下のアルラウネになります。何かありましたら彼女たちに申しつけください」

「ユウナと申します。森で迷っていたところでこちらのお屋敷へ辿り着きました。無茶なことをするつもりもありませんので、どうぞよろしくお願いします」

「ホーリードラゴンのミルフィなの。果物が大好きなの!」

「ユウナ様とミルフィ様ですね。こちらこそよろしくおねがいします」


 アルルーナと言うのは、魔物の一種で、アルラウネの上位種とされていた。

 ゲームで登場したアルルーナたちは、肌は緑色、髪の毛は植物の弦をしており、牙の付いた花で、見境なく襲い掛かって来る魔物だった。

 だが、ここにいるアルルーナたちの肌は、人の肌色に近く、しっかりとした知性があるようだ。

 街の中で、遭遇しても、魔物と気が付かないほどの姿をしているので、彼女たちを魔物として見ない方が良いだろう。


「ここのアルルーナたちは、あたしが、育てた特別な魔物なのさ。他のアルルーナたちは、知性もないただの魔物だからね」

「彼女たちを育てたんですか?」

「ああ、昔にアルラウネの生息地を見つけてね、危ないから掃除をしたのさ。その時にまだ若葉だったこの娘たちを見つけて、自分で育ててみた」

「そんなこともできるんですか……」

「あんたとホーリードラゴンも同じような関係だろう。それと一緒だと思えばよい」

「なるほど、確かにそういわれたなら、そうなのかもしれませんね……」

「それじゃあ、ユー、あたしらは、リビングで話をしなきゃならない。紅茶と茶菓子でも持って来ておくれ」

「かしこまりました」


 ドロシーに連れられて、屋敷のリビングに通された。


 難いが、なぜか座り心地の良いソファーに腰を下ろし、ドロシーは、私たちの向かいに座った。


「さてと、それであんたたちは、何者なんだい?」

「先にお話しした通りで、気が付いたら、森の奥にいたんです。それ以外は、よくわかっていません」

「これでも宵闇の魔女なんて言う二つ名のあるあたしでね。そのあたしよりも圧倒的に多い魔力量を持っているなんて、普通じゃないんだよ」

「あの……、質問なんですが、他人の魔力量を見たりするのって、誰にでもできるんでしょうか?」

「ん、あんたなら、見れると思うんだが、できないのかい?」

「できません。もし、できるようになるなら、教えてもらえると助かります」

「なるほどね。ある程度、魔力のある者なら、だれでもできることができないってことは、本当に、よくわからないままここに来たってことなのかもしれないね」


 ドロシーは、何かが気になったようで、考え込み始めた。

 その間に、ユーリシュカが紅茶と、焼き菓子を持って来てくれたので、私とミルフィは、それらを頂き始める。

 もし毒が入っていても、私もミルフィも毒耐性がしっかりあるので、気にすることはない。

 紅茶も焼き菓子も見事な味で、しっかり堪能したところで、ドロシーの考えがまとまったようだ。


「見知らぬ先で気が付き、記憶もあいまいになっているってのなら、おそらくあんたたちは、転移事故に巻き込まれたのかもしれない」

「転移事故ですか?」

「この世界、といってもあたしが知っている範囲なんだが、転移魔法ってのは長い間、未完成でね。たまに物好きな者が、転移魔法の研究をしているのが現実さ。あたしも実用的ではないが、なんとか使えるレベルの転移魔法を作ってみたことがあるし、そのまま利用もしている」

「未完成の転移魔法を、使っている?」

「ああ、魔力が膨大に消費されるだけで、それ以外のデメリットはないところまで完成させた。だがね、最低でもあたしと同等の魔力量を持っていないと、起動すらしない未完成な魔法さ」

「なるほど、私たちは、その不安定な転移魔法の実験に、なぜか遭遇して、記憶があいまいな状態になり見知らぬ森に転移してしまったということなのですね」

「まあ、可能性の一つだが、現実として、森の奥で記憶があいまいな状態で気が付いたのだろう。この理由にしておけば、不自然に思われないから、これからは転移事故で飛ばされて記憶があいまいってことにすると良いさ」

「わかりました。真実は別にして、転移事故の失敗の結果、見知らぬ森の中で記憶があいまいのまま気が付いたことにします」

「うんうん、そうしな。それで、能力の見方だったね。魔力を瞳に集めることはできるかい?」


 魔力の操作は、倉庫整理でポーションを作ったり、インゴットを作ったりしていたので、ある程度慣れることはできている。

 瞳に魔力を集めることは、初めてだが、問題なくできた。


「よし、できているようだね。次に見たい物をイメージする。今は魔力を見たいとイメージするのが良いだろう」


 魔力を見る……?

 感覚で瞳に、魔力が集まっているのはわかるのだが、自分以外の魔力となると、よくわからない。


 横を見ると、ミルフィも瞳に魔力を集めているようだ。

 なぜ、ミルフィの魔力が瞳に集まっていることがわかる?


 よくわからないまま、ミルフィの魔力を見るイメージを続けていると、黒っぽい何かが見え始めた。

 ドロシーを見てみると、赤色の何かが見える。

 慣れてくると、色は鮮明となり、私とミルフィは、黒色、ドロシーは、赤色の何かが全身を覆っていることがわかってきた。


「どうやら、成功したようだね。あんたが見ているのは、それぞれの魔力量になる。魔法士の場合なら、魔力量は、実力と直結する場合が多いから、これでだいたいの強さがわかる。だが、戦士は、低い魔力でも強いやつもいる。それでもだ、どれだけ剣の扱いが素晴らしかろうと、戦技を使うには、魔力がいる。本当に強い戦士は、それなりの魔力量があるから、相手の持ち物を見て、魔力を見れば、どれくらいの力量があるかわかる。もちろん、力量を隠す方法やそれを看破する方法もある。その内それも教えようかね」

「え、これからもいろいろと教えてもらえるのですか?」

「何ていうかね。エルフの寿命について、あんたはどれくらい知っている?」

「えっと、大体五〇〇年くらいの寿命で、二十歳頃までは、人と同じように成長しますが、その後は、若い姿で生き続け、死が近くなると十年程の時間を掛けて急激な老化をしていくとか……」

「よく知っているね。私の場合は、もう八〇〇年ほど生きているから、エルフの中でも長命なのさ。それでも、三年ほど前から老化が始まった。もうこのまま、アルルーナたちに看取られながら逝くのも悪くはないと思っていたんだが、最後に良い素材が、そっちから飛び込んできてくれた。これは、私に後継者を残せって天の神が言っているに違いないと思ったね。だから、あんた、私の弟子になりな。とはいっても、まずは一か月、様子を見て、嫌なら出て行けば良いし、その間に、こちらもあんたが知りたいことを教えてやる。悪くない話だと思うがどうだい?」


 死に逝くエルフの頼みってことなのかな。

 この世界の常識がないのは確かだし、魔力の使い方にもいろいろとあるようだ。

 特に魔力を使って戦うという戦技と言うのにも興味がある。

 おそらく武術系スキルのことなのだと思うが、ここでしっかり知るのも悪くはないだろう。

 まずは、一か月だけだというし、そのあいだだけでも、この屋敷で世話になろう。


「ミルフィ、私は、このお屋敷でしばらくの間、お世話になろうと思うのだけど、どう思う?」

「姉様が決めたなら、私もここにいる。この屋敷って、魔力が満ちているようで、居心地が良いみたいなの」


 魔力が満ちていると、ミルフィには居心地が良い場所になるのか。

 これも覚えておいた方が良いな。


「ドロシーさん、まずは一か月、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、時間はあまりないかもしれないが、私の後継者になれるかどうか、しっかり見させてもらうよ」


 そうして、私たちは森の中の屋敷に滞在することが決まったのだった。


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