第五話 ダンジョン探索
ダンジョン探索
ダンジョンの中に入ると、外とは違う空気感を感じた。
これがダンジョン特有の感覚なのだろう。
ダンジョン特有のヒカリゴケがしっかり根付いているようで、探索するには困らない明るさがある。
しばらく外との明るさの違いに目を慣らしてから、周囲を見渡すと、むき出しの岩肌で覆われた空間が広がっていた。
マップでダンジョン内が確認できるか探ってみると問題なく確認でき、どうやら一層目は、大部屋が一つだけらしい。
さて、どんな魔物がいるのだろうと、ミルフィと二人で身構えていると、大きなネズミの魔物、ビッグラットが現れた。
最下級に分類される魔物だが、意外にすばやいので、まとめて倒すことにする。
「ミルフィ、私の後ろに下がっていてね」
「うん」
ミルフィが下がったことを確認してから、魔法名を唱える。
「アイスフィールド!」
冷気が一気に押し寄せ、大部屋は氷の世界に一変した。
夢の中とは言え、現実世界とほとんど変わらない感覚で戦うのだから、安全マージンは取りすぎなほどに取っておくことにした。
「姉さま、やる気満々?」
「……、そうかもしれない……」
凍ったビッグラットは、そのまま砕け、魔石だけが残された。
ダンジョンで魔物を倒すと、素材は入手できず、魔石と金銭を入手できるのだが、現実世界なら金銭が出てくるのは不自然なので、魔石だけが手に入るのだろう。
魔石は、取引所などに持っていくと金銭に換えてくれる。
大部屋の中に無数に転がっている魔石をミルフィと手分けして集めてから、二層目へ続く階段を降りて行ったが、やはり大部屋が一つだけだった。
二層目もビックラットとあまり強さの変わらないウサギ型の魔物、キックラビットだけで、アイスフィールドで凍らせてから、魔石を拾い、三層目に降りて行く。
三層目も大部屋で、やはり最下級に分類されるイタチ型の魔物、ネイルウィーゼルが待ち構えていた。
爪が鋭く、キックラビットよりは強いが、最下級なのは同じなので苦戦をすることはない。
だが、安全マージンは取れるだけ取っておきたいので、一層目、二層目と同じように、アイスフィールドで凍らせて、魔石を拾うことにした。
このダンジョンは、あまり成長していないのかもしれない。
人が侵入してこないもりのなかにあるダンジョンなら、こんなものなのだろう。
三層目から四層目に降りると相変わらずの大部屋で、ウサギ型の魔物、ホーンラビットが群れを成して襲ってきた。
鋭い角で突進攻撃をしてくるが、一体なら初心者でも簡単に倒せる。
だが、集団になると初心者では手に負えない魔物になる。
「フレイムバースト!」
巨大な火の玉が現れ、ホーンラビットの群れを飲み込んだところで爆発を起こした。
ミルフィは私の後ろに隠れているし、自分の魔法では自分を傷付けられないようなので、これで大丈夫だ。
モザイクが必要な状態になったホーンラビットたちだったが、すぐに銀色の粒子に変わり、魔石だけが残された。
「姉様、強力な魔法、つかいすぎ!」
「でも、かじられたら痛いよ?」
「姉様の体って、このダンジョンにいるような魔物がちょっと頑張ったくらいで傷つけられるような体じゃないの」
「うーん、そうなんだ。実感があまりないから、やりすぎになっちゃうのかな……」
「気を付けるの」
「はい……」
なんて言うのか、見た目、十歳児に本気で説教されるのって、意外なほどにダメージがある……。
魔石を拾ってから五層目に降りると、大部屋だが、玉座がある部屋に辿り着いた。
玉座には、黄色と黒色の模様が入った大きなネズミ、サンダービッグラットが歪な姿勢で座っていた。
「これが最後っぽいの。ミルフィがやる!」
「うん、任せた」
ミルフィが徐々に近づくと、サンダービッグラットは、玉座から降り、雷を纏い始めた。
サンダービッグラットは、初心者が始めて商船するダンジョンでもボスとして現れる。
動きは素早いのだが、遠距離で攻撃していると、いつの間にか倒れている程にHPが低いのが弱点となる。
それでも近接戦闘では、スタン攻撃をしてくるのが厄介なところだ。
「ビゴォォォ!」
サンダービッグラットは、威嚇のつもりかうなり声のような声を出した。
ミルフィは、両手を重ね合わせ、サンダービッグラットに向き合う。
「ドラゴンブレス!」
え、ミルフィ、ドラゴンブレスって手からもだせたんだ!
でも、それじゃ私とおなじだよ。
やりすぎだよ。
それって、邪神にもしっかりダメージが入るやつだよ!
「ビッ!」
断末魔なのか、サンダービッグラットの鳴き声が一瞬聴こえた気がしたが、もう終わったことだ。きにしないでおこう。
ダンジョンの壁にもダメージが入ったようだが、すぐに修復され元の姿に戻った。
ミルフィは、ちゃんと考えていてくれたようでドラゴンブレスの射程内から玉座の方向が外れるように調整をしてくれていた。
実は、玉座の後ろにはラグビーボール型のくぼみがあり、そこの中央に明らかに妖しい赤い宝玉が埋め込まれていたのだ、
サンダービッグラットの魔石を拾ってから、宝玉に近づく。
これが間違いなくダンジョンコアなのだと思うが、人の頭ほどの大きさの宝玉である以外には、特別な感じはしない。
とりあえず、埋め込まれているので、外すことが可能か試してみると、あっさりと取り外すことができた。
手に取っても、特に何も感じないので、ストレージにしまい込んだ。
もしかしたら、私の魔力を注ぐと、反応をするのかもしれないが、すぐに使う予定もないので、使いたくなったら改めて考えよう。
「姉様、もう終わっちゃったの」
「森の中だから、侵入者もいなくて、あまり成長が出来なかったのかもしれないね」
「そうなんだ。ダンジョンコアを手に入れたってことは、ダンジョンを作るの?」
「いまは、あまり考えていないかな。どこかで使えそうなら使うと思う」
しばらくミルフィと話していると、ダンジョン内が揺れ始めた。
特に何かが落ちて来ることなどはなく、ダンジョン内が変化しているだけのようだ。
気が付くと玉座もラグビーボール型のくぼみもなく、浅い洞窟になっていた。
洞窟からでると、外は暗く綺麗な星空が広がっている。
夢の中とは言え、こんな星空が見られて、ミルフィとも話ができた。
本当に良い夢を見られたと思う。
「ミルフィ、いろいろとありがとうね」
「姉様と一緒にいると楽しい。だからミルフィこそ、ありがとうなの」
二人で浅くなった洞窟へ戻り、マイルームの中に入り屋敷で夕食を食べながら、ミルフィの話を聞き、眠くなるまでの時間を過ごした。
話の中で、ミルフィが私のところにいる理由をミルフィの視点から聞き出すことができた。
ミルフィは、精霊竜、エレメンタルドラゴンと言われる種族のドラゴンで、エレメンタルドラゴンは、七種類いるそうだ。
火、土、風、水、光、闇、時の七種類で、ミルフィは光のエレメンタルドラゴンとなる。
これは、無属性を覗いた魔法の属性と同じなので、何か世界の理のようなものが関係しているのだろう。
エレメンタルドラゴンには、托卵の風習があり、親が何かしらの方法で、預けるに足る人物を選び、その人物の元へ卵を預けに行くそうだ。
そうして、私が托卵の相手として選ばれ、ミルフィは誕生した。
生まれたてでもエレメンタルドラゴンはある程度の知性があり、自分が托卵されていることを把握している。
そうして預け先の人物に世話になり、自らも預け先の人物を助け、成長していくそうだ。
ほとんどの場合、預け先の人物は、エレメンタルドラゴンが成長しきる前に、他界してしまうので、それからは、エレメンタルドラゴンの里にへ行き、大人になり、番をみつけるのだそうだ。
全くもって、記憶にない!
ミルフィは、ガチャで手に入れた存在としか認識していないので、そんな設定になっていたのか。
これからは、預かっていることを意識して、扱って行こう……。
それから、一応用意してあった自室のベッドで、ちいさくなったミルフィと一緒にねむりについた。
これで、夢から覚めるだろう。
明日から、いつもの日常が続く……。