第四話 ホーリードラゴンとダンジョン
ホーリードラゴンとダンジョン
マイルームから外に出る。
出発の前に、軽く周囲を改めて観察しておこう。
基本は針葉樹の森だが、広葉樹もそれなりにある。
木々の奥を覗くと、倒木もあり、人が入ってきている形跡は見当たらない。
少し森に入り、土も確認してみたが、見事な腐葉土のようだった。
気温は、体感だが寒くもなく熱くもない。
夜になると、それなりに冷え込みそうだ。
泉の周囲に木々がないのは、ここが魔物やらの水飲み場になっているからだろう。
かなり森の深い場所にいるのかもしれない。
今更ながら、なぜ私はこんな場所で目覚めたのだろう。
もし、移動方法が思いつかなければ、マイルームの中でずっと暮らしたくなっていたかもしれないな。
それじゃあ、本格的に出発しようか。
まずはバイクーガを呼び出した。
続いて、私がゲーム内で最も頼りにしていた相棒を呼び出す。
ストレージ内のアイテムたちを確認していた時、邪神との戦いのときは、一緒にいたホーリードラゴンのミルフィが、ストレージ内に収納されていたのを見つけてあった。
このミルフィは、いわゆるガチャで手に入れた私の最強の切り札でもある。
ちなみに、ガチャは、マーケットで買える期待の木の実と言う名前で売られていて、それを操作すると、専用の画面が現れ、やたらと煌びやかな演出の後、ガチャの結果が表示される仕様になっていた。
私は、積極的にガチャをする方ではなかったのだが、イベント的な感覚で、ガチャの値段が下がったり、出るアイテムの中身が豪華になったりする時があり、そういうときだけ、ガチャを購入していた。
「姉さま、おはようなの」
え、ミルフィってしゃべるの!?
それに私を姉さまって呼んでいたのか……。
驚愕していてもどうにもならないので、現状把握をする。
「えっと、おはよう。ミルフィ」
ミルフィの基本フォームは、肩に乗る程度の大きさで、翼の生えた白いトカゲの姿をしている。
ゲーム的には、従魔と言う設定だったが、本気を出したミルフィは、私でも楽に倒せるとは思えない力を持っていた。
いままで、基本的な行動を命令し、動いてくれていただけなので、意思疎通が出来ると、いろいろとやり易くなりそうだ。
「ここは、どこなの?」
「うーん、よくわからない森の中かな」
「そうなの……」
「ミルフィ、邪神を倒した時のことって、覚えている?」
「うん、邪神、悪い奴だった。二柱の神を一人で演じていた。あんなことされたら、皆が困るの」
邪神は二柱の神の姿を演じて、それぞれを信仰する勢力の双方が争うように導き、ゴッドブレスオンラインの世界は、プレイヤー同士が戦争をする世界だった。
そんな世界間のゲームなので、双方の領土の間には、いくつかの緩衝地帯が作られ、その地を戦争で、取り合う大規模PVPがゲームの売りの一つになっていた。
戦争に参加したくない非戦闘職などは、自領でのんびりと牧歌的なプレーもすることもできた。
タイトルにあるゴッドブレスは、神からの祝福の意味や幸福を祈るなどの意味があり、グランドクエストをすすめることで、邪神がどれだけふざけた存在なのかがわかって来るようにもなっていた。
ミルフィが邪神を討伐した時の記憶があるということは、邪神討伐後の世界と言う設定の夢を見ているのだろう。
「あ、ミルフィね。邪神を倒したときに、いっぱい、わああってなって、こんなことができるようになったの!」
ん、レベルがいくつも上がったってことなのかな。
ミルフィは、突然輝きはじめ、十歳ほどの白髪で金色の瞳の美少女に変身した」
衣服は白い鱗模様のワンピースドレスで、同じく白い鱗模様のブーツを履いている。
頭には小さな角が二本あり、ワンピースの後ろから少し白い尻尾が出ているのが、かわいらしい。
「姉様の姿とよく似てるの」
「う、うん。人化が出来るようになったんだね……」
「うん、姉様の役にもっと立てるの!」
「ありがとうね」
ミルフィは、良い娘だなぁ……。
ミルフィのこの姿は、ドラゴニュートと呼ばれていたNPCの種族の姿に似ている。
ドラゴニュートには、ドラゴンになる設定はなかったはずだが、ミルフィの方が、ドラゴニュートの始祖の姿に近いのだろう。
「人型に成れたのなら、何か武器はいる?」
「うーん、今のところは、いらないの。これがミルフィの武器!」
ミルフィは、小さな手を前に突き出すと、爪が鋭く伸びた。
「この爪でざっくざっくなの」
「う、十分戦えるね」
「がんばるの!」
ふんぬ、と気合を入れているミルフィに癒されるが、本気の戦闘モードになると迫力のあるホーリードラゴンの姿になるんだよね。
「折角、人型の姿を見せてくれたのに、申し訳ないんだけど、いつもの小さい姿に戻ってくれる?」
「うん、普段は、小さい姿の方が楽みたいなの」
そういうと、ミルフィは翼のあるトカゲの姿になり、私の肩に乗った。
「姉様、いまから何するの?」
「この乗り物に乗って、移動をするの。大きな音が出るけど、気にしないでね」
「わかったの」
バイクーガに乗り込み、南に向かって走り出す。
「面白い乗り物! 楽しいかも」
「うん、今から大きな音が出るよ」
ブラストキャノンで薙ぎ払った道の最終地点まで到達したので、再びブラストキャノンを放つ。
破壊音が轟き、再び道が開かれる。
「姉様、すごい、すごいの!」
「これを繰り返しながら進んで行くんだよ」
「うん、わかったの」
バイクーガの燃料は、太陽充電の電力なのだが、太陽に直接当たらなくても陽が出ていれば問題なく充電できるようだ。
それからも道を切り開きながら、走り続けているとマップに人工物のような反応が確認できた。
そこまで行ってみると、洞窟のような穴が開いている岩塊があった。
人工物のようにマップで表示されたのは、この岩塊の形が四角形に近い形だったからのようだ。
「ミルフィ、これってダンジョンだと思う?」
「うん、ダンジョンだと思うの。潜ってみる?」
「折角だから、少し覗いてみよっか」
ゴッドブレスオンラインのダンジョンは、魔物が洞窟などに住み着いたダンジョン、邪神が作ったダンジョン、ダンジョンコアがあるダンジョンの三つがあった。
魔物が住み着いたダンジョンは討伐クエストなどで良く利用され、邪神が作ったダンジョンはグランドクエストのストーリーで使われていた。
三つ目のダンジョンコアのあるダンジョンは、ダンジョンの最深部にいるラストガーディアンを倒すと、ダンジョンコアが入手でき、そのダンジョンコアを使って、プレイヤーがダンジョンを作ることが出来た。
プレイヤーが作ったダンジョンは、専門のNPCからインスタンスダンジョンとして入ることができ、様々なプレイヤーダンジョンがあった。
だが、プレイヤーダンジョンを維持管理するのは、それなりに面倒なことだったので、実質はプレイヤーの集団であるクラン専用の狩場になっていたり、クランハウスと同じような扱いにもなっていた。
このダンジョンは、おそらくダンジョンコアのあるダンジョンだと思われる。
魔物が住み着いてできたダンジョンは、もっと自然な形で存在していたので、こんな岩塊に穴が開いたようなダンジョンは、見たことがない。
二つ目の邪神の作ったダンジョンは、もっと装飾があり、こんな岩塊だけの姿をしていない。
そうなると消去法で、ダンジョンコアのあるダンジョンとなる。
ダンジョンコアのあるダンジョンは、難易度が低く、ダンジョンコアの入手がしやすくなっているので、今から探索しても大丈夫だろう。
この夢がいつ終わるのかわからないが、夜になり、私が眠ってしまえば、おそらく夢は終わる。
その前にクリアしてしまいたいな。
ポーション類は元々しっかり持っているし、装備も防御型だが、問題はない。
「ミルフィ、行こう」
「うん!」
バイクーガから降りて、ミルフィは、人型になった。
そうして、私たちはダンジョンの中に入って行った。