第十三話 挨拶回りへ
挨拶周りへ
私の学園行きが決まった夕食後、ミルフィに一年間だけだが、この地を離れることを話した。
「姉様、王都の学園ってところに行ってしまうの……」
「寂しいと思うけど、一年で帰ってこれるから、少しの我慢だよ」
「ミルフィね。ユーたちと一緒にいて、いろいろ考えたの。ミルフィはホーリードラゴンだから強いけど、いろんなことがユーたちに負けているの。まだ、ミルフィは子供だから、負けていてもしょうがないのかもしれないけど、ユーたちはいっぱい努力をして、今のユーたちになったの。ミルフィも、戦うだけの強さだけじゃなくて。もっとユーたちみたいな強さが欲しいの」
「そっかぁ。ユーリシュカたちに、良い刺激を受けたのなら、これからもユーリシュカたちからいっぱい学ぼうね」
「うん、姉様が学園ってところに行っている間にミルフィは、ユーたちみたいな強さを身に着けるの。だから、姉様は、安心して行ってくると良いの!」
「わかった。じゃあ、そうさせてもらうね」
ユーリシュカたちは、妖精種のようにも感じるけど、やはり違うのだろう。
あえて言うなら、魔人種と言ったところか。
ユーリシュカたちの狩りに何度かついて行ったことがあるのだが、魔物としての特性を使った狩りをしていた。
チャージボアと言う大きな体で突進してくるイノシシを見つけると、蔓を延ばし、全ての足を絡み取ってしまった。
そうして、耳や目などの体内に侵入できる部位に槍先のように固くした蔓を差し込んでいき、脳を破壊する。
その後は、全身の血液を吸い上げて血抜きと共に自らの栄養に変えているようだった。
その日の夕食に上がったイノシシ肉のステーキは、熟成をしていないのにしっかりと血抜きのされた美味しいステーキだったのを覚えている。
そんなまさに魔物らしい狩りをするユーリシュカたちだが、メイドとしての仕事もしっかりやっている。
食事はもちろん、紅茶の入れ方や、掃除の仕方など、私が見る限りも一流と言って良い仕事をしているのだ。
そんなユーリシュカたちなので、ミルフィが、あこがれの気持ちを持つのも十分に理解できる。
今の私とミルフィは、森の屋敷にある一室を寝室として使っており、マイルームは、工房で作業をする時くらいしか使っていない。
正直なところ、生活をするだけなら、マイルームの屋敷の方が快適なのだが、この世界で生きて行くことにも慣れていかなければならないので、森の屋敷を生活の場にしている。
そんな使い方をしているマイルームなので工房を使わないミルフィにとっては、無用な物となり、学園に持っていくことにした。
ミルフィの説得が、予想外に簡単に終わってしまったので、翌日から師匠の領地へあいさつ回りをすることになった。
行った先で、一泊することになるそうなので、お泊りセットも準備している。
まずは、一番近い草原の城郭都市だ。
師匠から、それなりの服装をを用意するように言われたので、魔導王セットを身に着けることにした。
ローブ、ロンググローブ、ブーツ、三角帽子、マントの装備で、全て黒い布地に豪華な刺繍がされている装備だ。
さらに、魔導王の杖を持てば完成となる。
この装備は、攻撃力特化の装備なので、防御力が低めなのが弱点となる。
今回は、守護のアクセサリーセットを身に着けることで、防御力を上昇させた。
ゴッドブレスオンラインには、セット装備を身に着けると、ボーナス補正が付くなどのシステムはなかったので、この魔導王セットをフル装備で使うことはなかった。
魔導王セットに聖王セットを組み合して使うのが、私の基本装備だった。
だが、魅せるなら、魔導王セットはよく映えるので、丁度良いだろう。
ちなみに、ローブの中は、ソフトアーマーを身に着けているので、守護のアクセサリーセットと合わせてかなりの防御力が期待できる。
こちらに来た時、ローブの中には、いわゆるクロスアーマーと言った感じの厚手の布鎧のような物を着ていたが、流石に通気性が悪いし、動き辛いので、もう使わないかもしれない。
「あんた、すごい装備を持っているんだね……。王よりも王らしい見た目だ。だが、それくらいの衣装を着こなせていなきゃあたしの後継者を名乗るには、物足りなく思われるだろうから丁度良いよ」
「見た目だけの衣装なら他にもあるんです。でも、実用的で人前に出ても問題のない装備となると、これとあと少しくらいしか持っていないんです」
「それ以外にもあることに驚きを感じるよ。あんたの収納やマジックバッグには、どれだけの容量があるんだろうね」
「……、私も良くわかっていません」
どうやら、この世界には、中が拡張されており、しかも中の時間が止まるマジックバッグがあるそうで、収納魔法もあるそうだ。
だが、収納魔法は、開け閉めをする時に魔力を使うそうなので、長期保存をする時などにしか使われないそうだ。
私のストレージを直接使っても問題はなさそうだが、万が一の時に備えて、マジックバッグ風のカバンを持ち歩くことにしている。
「それじゃ、行くかね」
師匠についていくと、地下室に来た。
師匠が地下室の扉を開けると、人一人が乗れる程度の大きさの魔法陣が載せられた台座がいくつも見える。
「この台座に乗せられた魔法陣が転移魔法の起動装置になる。魔力は一日で回復するから、行った先で一泊することになるね。まあ、あんたなら、一日で往復できるのかもしれないが、今回は泊まりだね」
「わかりました。泊りの準備もできているので、問題ありません」
「それじゃあ、あたしの城にある執務室の隠し部屋に跳ぶからね」
師匠が魔法陣の上に乗ると、魔法陣は光を放ちだし、師匠の姿が消えた。
なるほど、ゲームの時にもあった移動ゲートと同じ感じか。
実は、この森の屋敷に来てから気が付いたことなのだが、私とミルフィは、おそらく高次元生命体のおかげで、しゃべる言語には、困らないようにしてもらっているようなのだ。
とは言え、文字までは、そうはいかなかったようで、ミルフィは、この世界の文字を読むことが出来ない。
それなのに、私は、文字をしっかり読むことが出来てしまうのだ。
その理由は、ゲームのクエストで古文書を読解するクエストがあり、その時に獲得した言語理解スキルが影響しているのだと考えている。
このスキルを手に入れた当時、面白いスキルを手に入れたと、はしゃぎまくって、読むことのできる古文書を手当たり次第に読みまくり、気が付いた時にはスキルレベルが最大になっていた。
そんなわけで、魔法陣に書かれている謎の文字も簡単によめてしまうのだ。
基本は、時魔法だが、時の上位になる重力魔法も関わっているようだ。
魔力が多く使われてしまう理由までは、簡単に解き明かせそうにはないが、時間さえあれば、改良は可能に見える。
いろいろと落ち着いたら、師匠の残した魔法を完成させるなんて言うのも面白いと思うので、その内に取り掛かりたいな。
さて、私も魔法陣に乗ろう。
台座に昇り、魔法陣の中に入ると、すごい勢いで魔力が吸い取られ、光の中で、空気が変わったのを感じた。
光が収まると、地下室とは別の場所にいて、師匠がまっていた。
「あんた、遅かったね。魔法陣でも解析していたのかい?」
「えっと、その、はい。その通りです……」
「それで、どう思った?」
「そのですね……。改良の余地は、十分あると思いました。時間はかかりそうですが、手を付けて行きたいですね」
「そうかい。まあ、転移魔法は、扱いが難しいから、あたしが生きている内に教えられるだけ教えてやろうじゃないか。今は、学園が先だがね」
それから階段を上り、師匠が何か操作をすると、扉が開き始めた。