第十二話 二国大公
二国大公
師匠の長い昔話が終わり、目の前の人物が、歴史を紡いできた人物なのだと実感する。
「師匠が英雄なのはわかりました。なら、なぜ、師匠は、この森に棲んでいるのですか?」
「あたしは、戦術に夜襲を良く使っていたから、宵闇の魔女なんて言う二つ名で呼ばれるようになったんだが、そんなあたしが住んでいる森だから、この森も今じゃ宵闇の森なんて呼ばれている。まあ、あたしもこれでもエルフでね、森の中に住んでいるのが一番落ち着くってことなのさ。それに、この森が例の隠れ里があった森で思い入れも深いのも理由さね」
「なるほど……。英雄なら、貴族やらにはならなかったのです?」
「もちろん貴族としての顔ももっているさ。自慢じゃないんだが、エストジアとミャンメイの二か国から大公の爵位を貰っていてね、二国大公なんて呼ばれている」
「なら、領地もあるのです?」
「ああ、エストジアでは、この森と森に面した草原になる。草原側にある城壁都市が、本来のあたしの居城だね。ミャンメイには、遠浅の海で繋がった諸島群が領地になる。どちらも代官に任せているが、あたしも転移魔法でたまに見に行っているから、統治はそれなりにしているつもりさ」
これは、すごそうな魔女の弟子になったつもりだったけど、それどころじゃない話になってきたのかもしれない……。
「私は、そんなすごい師匠の後継者になったと思って良いのでしょうか?」
「まあ、初めの一か月で、人柄と基本的な能力をみて、問題はないと確信しているし、そもそもあんたは、あたしよりも魔力が多いし、強力な魔法も打てるから、あたしの後継者として遜色なく、貴族の義務も果たせると思っているよ。その上で、疑問があるんだが、あんた、普通の人間種と何か違うだろう?」
こころあたりがありすぎて、どう答えるべきか悩む。
「初めて会った時に感じたんだが、あんたは、長命種とドラゴンの間の魔力っていうのか、そんな雰囲気の魔力を持っている。これは感覚でしか言えないんだが、そんな人間種、あたしの長い人生であったことがない。これがあんたを後継者にしようと思った一番の理由なんだ」
「それって、私が、人間種の寿命よりも長く生きる可能性が高いってことにもなるんでしょうか……」
「ああ、それもそうだね。長命種よりもドラゴンの方が長生きをするらしいから、並の長命種よりも長生きかもしれないね」
本気で後継者に渡しをしようとしている師匠なのだから、ある程度、本当の話をしても良いのかもしれない。
「実は、森の奥で目覚める前のことも、しっかり覚えているんです……」
その後、師匠に話した内容は、自分はこの世界に似た他の世界出身で、その世界の邪神によって、世界は争いの絶えない様相を見せていた。
そんな中で、邪神の思惑に気が付いた者たちが、邪神討伐に乗り出し、私とミルフィが邪神にとどめを刺すことができたと言うことを離していった。
「……、ってことは、あんた、神殺しってことになるのかい?」
「そういう言い方をするなら、そうなのだと思います。邪神を討伐してすぐに、こちらの世界にとばされたので、その後は、師匠にお話しした通りになります」
「なるほどね。あんたの魔力の質からみてまともな人間種じゃないとは思っていたが、神殺しをするような存在なら、納得だ。なら、あんたは、見た目こそ人間種だが、神に近い存在なのかもしれないね」
正直なところ、ゲームアバターだからなのか、いくつかこの体に不審な感覚を感じ始めている。
この世界に来て三か月と少しが経ったのに、爪や髪が伸びないのだ。
試しに髪を少し切ってみたところ、しばらくすると、元の長さに戻ってしまった。
腰まである長い髪なので、切れないのは、いつか不便を感じるかもしれない。
また、腕にナイフで傷をつけて、血がしっかり出るかの確認したが、まちがいなく人間の鮮血がでた。
だが、傷口のふさがり方が髪と一緒で異常に早いのだ。
多にも、自分の体型を毎日計って、変化を記録してみたが、毎日、どれだけ食べようが運動をしようが、変わらないのだ。
他にもいろいろと検証をした結果、私なりの結論として、この体は、不老の可能性があると結論をだしている。
なぜ、不老不死ではないのかと言えば、傷がつけば、痛みを感じるし、しっかり鮮血もでる。
おなかが減れば、動きが鈍くなる。
逆に、どれだけ食べても、スタイルが変わらない。
それに、髪は伸びないし爪も伸びない。
一見、不老不死のようにも感じるが、やはり痛みとおなかが減る点は見逃せないと思う。
実際に死ななければ、不老不死なんてわからないので、死ぬまでは不老と思うことにする。
「多分、私は、邪神を討伐した影響かわかりませんが、不老になっていると思うんです」
「不老は、あたしの後継者になるのなら、大きな問題はないし、むしろ歓迎だね。あんたに感じていた違和感がわかって、すっきりできた」
「いままで、黙っていてすいません。話しても信じてもらえるとはおもわなかったので……」
「まあ、そうだろうね。あんたの異常性を理解しなきゃ、信じられないだろう。さて、あらためてあたしの後継者と認めたあんたに、学園の話だ」
「はい!」
「二国大公の爵位をついでもらうためには、貴族の義務ってのを学んでもらわなきゃいけない。それに、礼儀とかマナーってやつも必要になる。とは言っても難しいことはない。どうせ村人が興した国さ。それ故に、礼儀やマナーを大切にしないと、まとまる物もまとまらない」
「無秩序のままでは、確かにまとまりをとるのはむずかしそうですからね」
「そんなところだね。まあ、二国大公の仕事も学んでもらう必要もある。応用編のようなところは帰ってからやるとして、貴族としての基本は、同じだから、学園で学べばよい。後は、二国大公ってのは、二か国の初代王と同格の存在とされている。まあ、これはあたしに限ってなんだろうけど、それでも二代目のあんただって、当代の国王と同格と見なされるわけだ」
えっと、初代王と同格の二国大公から二台目の指名を受けた私は、最低でも当代王と同格なのですか?」
「そういうことだね。その辺りの扱われ方も学んでおいで」
とんでもない話にしか思えない……。でも、折角だし、学園には行った方が良いんだろうな。
「まだ師匠の体調が良いうちに、学園に行ってみようと思います。ですがミルフィはどうなるのでしょう?」
「その事なんだがね。ミルフィは、あんたに依存しすぎているところがある。あれじゃ、ドラゴンなのかドラゴニュートなのかよくわからない存在になっちまう。あんたの学園への滞在期間は一年を予定している。一応留学って形だね。その間にミルフィの中にあるドラゴンの意識をもっと強くさせるつもりさ。それをやれば、人の姿になってもむしろ人らしくいられるようにもなる」
確かにミルフィは、トカゲなのかドラゴンなのかよくわからないところがある。
人の姿の時なんて、ますますわからない。
師匠に一年間だけなら預けても良いのかもしれない。
「どうだい、行く気になったかい?」
「二国大公の立場が良くわかっていませんが、学園には行った方が良いと思います。ミルフィのことも師匠に任せたいと思いました。よろしくお願いします」
「あいよ。準備を含めて全部任せておき。それと、あんたの設定なんだが、流石に森の奥から現れたじゃ困っちまう。他の大陸から渡ってきた魔法士の一族の娘が縁あってあたしの養女になったってことにしたいと思う。そこで、あんたの家名を考えておきな。邪神を倒すような魔法士のあんたなんだから、家名くらいあるのかもしれないし、なんでも良いさ」
「家名ですか……」
地球の日本での家名は、佐伯なんだよね。本名も佐伯優菜だし、これはこれで悪くはないんだけど、佐伯優菜は、地球で生きていると信じたい。
だから佐伯は使わない!
魔法士や魔女が似合いそうな名前や単語に心当たりはないだろうか……。
スペルキャスターやウィザード、ソーサラー、ウォーロックとかは、ゲームで良く出てくる名前だよね。
これ以外だと、マギカやウィッチとか……。
あ、ワルプルギスってのも魔女とかかわりのある言葉だ。
ワルプルギスの元になっているのは聖人の名前なんだよね。
それがどういうわけか、ハロウィンと同じような意味になってしまって、ワルプルギスの夜なんて言葉が生まれたんだった。
ワルプルギスの夜は、魔女の集会や、謎のオカルト儀式をやる夜のように扱われて、元になっている聖人の方にとっては、迷惑な話だと思う。
それはさておき、ユウナ・ワルプルギス、悪くないかもしれない。
「師匠、ユウナ・ワルプルギスなんてどうでしょう?」
「ちなみにどういう由来の名前なんだい?」
「私がいた世界の聖人の名前が由来ですね」
「良いじゃないか。なら、あたしが逝くまでは、ユウナ・ワルプルギス・エイストニアって名乗りな。あたしがいなくなった後は、エイストニア何て名前は捨てちまいな。どうせアルブニアの面倒な一族の家名なんだ」
「師匠の家名は、捨てた方が良いのですか?」
「ああ、あたしがいることで、エイストニアの名は、盾にも槍にもなったのだけど、余分な面倒をアルブニアから招くこともあったんだ。だから、あたしが逝けば、不要な家名なのさ」
「……、わかりました。そうさせて頂きます」
そうして、私は、ユウナ・ワルプルギス・エイストニアとなり、異世界の学園に通うことになったのだった。