一章 5side桃その壱
私は伏見彩奈、『指月桃奈』として女優業もしている。自分で言うのはなんだけど、今現在は多くのテレビ番組やドラマ、映画に引っ張りだこで、とても忙しくしている。
そんな私の裏の顔は『吉見桃』名義でやっているレンタル彼女である。女優として大成する前、モデルとして売れ出した頃になんとなく初めて今も続けている。人のお金で食べるご飯は美味しいし、その上お金だって手に入る。素晴らしい職業だと思う。
そんな私は今渋谷駅前にある青ガエルがあったの近くにいる。『青ガエルの方が人も少なからず少なくて分かりやすいでしょう』と言うことらしい。でもその肝心な青ガエルが撤去されてしまったのだから逆に分かりづらくないですかね?
……待ち合わせ時間が過ぎてしまった。私のような美少女を待たせているのだからイケメンじゃないと許さないんだから……
私は女優として売れる美少女。デート中と思われる何人もの男が、私を見た途端に頬を緩ませずっと眺めてくる。正直なところとてもキモい。そんなキモい男共は直ぐに彼女と思われる女性に頬を引っ張られて行った、いい気味だ。
それから少しして一人の男が声をかけてきた。その男は眼鏡を掛けていて、髪もボサボサで、イケメンが着ていたらとても似合うのだろうけども、ブサイクが着ていては服が死んでしまっていて見るに耐えず醜い。
「すいません、お待たせしました。桃さんであってますか?」
男が私に声をかけると、周りの男共のみならず同じ女性からも、厳しい視線が向けられているのが分かった。どうせ不釣り合いとかと言うことなのでしょう。そんなことはこの私が一番分かっている。今回の男は大外れなのだ。
私は一呼吸置いて、しっかりと営業スマイルをして返事をしてみた。
「そうです、吉見桃と言います。貴方が秀麻さんですね?じゃあ本日はお願いしますね」
私がそう言うと秀麻と言う男は一言も発することなく突っ立ていた。どうせ私の笑顔き見惚れてしまったとかそう言う口であろう。
余りにも無視をしてくるので、少しだけキョトンとした顔を作って男に声をかけてみた。
「あの〜無視されると困るのですが……」
「はっ、遅れてしまってすいません。一先ず移動しましょうか」
(ふふっ、絶対に緊張している。幾ら外れと言っても最近評価も落ち気味だからちゃんと接してあげないと駄目かな)私はそんな思いを持った。
「私達は恋人だから敬語は禁止ね。秀麻くんこれから何処へ行くの?」
「敬語禁止ですか……分かった。此れから行くのはショッピングモールだ。新しい服が欲しいからな」
「ふ〜ん、その服いいセンスしてるね。カッコいいよ」
「ーーツ…あ、ありがとう」
服だけはカッコいいのは認めてあげる。服だけは。正直カッコいいって言われて言葉に詰まっているし、この人も私のストーカーとかにならないわよね……
因みにこの後自分が秀麻のストーカーになるとは、夢にも思わない桃であった。
「秀麻さんは服が好きなのかな?私は服は大好きだから選ぶの楽しみ!」
「嫌いじゃないな……でもあんまりセンス良くなくてさ、これも他の人に選んで貰ったやつだから……」
「そうなんだ!じゃあ私がちゃんと選ばないといけないんだ〜」
やっぱり服は自分で選んでた訳じゃないのね……選んだのは店員の人かしら?こんな人がこの服を着るだなんて服が可哀想。私が貴方のようなブサイクに適した服を選んであげる。そう私は密かに決意した。