一章3『秀麻ナンパを撃退する?』
俺は鏡の前に立つと、眼鏡からコンタクトレンズにかえ、手短に寝癖でボサボサしている髪の毛をワックスを使い整えた。
俺のことを知っている人が見れば、『そこそこマシになったな……』という印象を抱かせる容姿にはなった気がする。(実際には他を圧倒するほどのイケメン)
ただその代償に此処までで五分程かかってしまった。この五分にもお金がかかっているのにも関わらず……
トイレから出ると何やら騒ぎが起きているようである……その中心には桃さんがいた。怯えた様子の桃さんを取り囲むように数人の男がいる。
桃さんの「辞めてください!彼と来ているんです!」という言葉が聞こえ、桃さんがナンパされていて困っているという事実に気づくと俺は無意識のうちに桃さんへと駆け寄った。
「桃さんっ!!」
桃さんは驚いた様子でこっちを見るとたちまち困惑した顔となった。
こんなイケメンでもなんでもない人間に助けられるのが恥ずかしいのだろうか……少しだけ目から水が出そうだ。
気負いをしつつも桃さんの手を握った。
そうすると男共が、「おいてめぇ何邪魔しやがる!」と怒鳴ってきた。
本当に面倒くさい。一先ず俺は桃さんを引き寄せる事にした。
「きゃっ」と可愛らしい声が聞こえると、桃さんはあからさまにまるで林檎のように、頬を赤くした。
引き寄せ、肩が桃さんと触れ合い、俺の腕は桃さんの肩を抱いた。
「俺の連れに何か用がありました?」
つい柄でもないことを口走ってしまった。恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。
リーダーの男だろうかが、顔を真っ赤にして怒りを露わにした。殴ってくるんだろうなぁと考えていると、本当に男は腕を振り上げた。
「てめぇ顔が良いからって調子にのるなぁぁぁあ」
いや全然顔は良くないんですよ?なんなら学校一ブサイクだっていう自信もあるんですから。
振り上げた腕は俺の顔目掛けてやってくる……しかしその腕は明らかに武術に乏しい者が振るう腕であった。遅く、力の入れ具合も全く持って違う。俺は男の腕を軽く掴むと、男の勢いを活かしてそのまま投げた。
男は地面に叩きつけられると「うぇっ」と短く声を出して、小刻みに震えつつ気を失ったようだ。
少しばかりやり過ぎたかなぁと思いつつも、俺は桃さんの腕を持ってその場を後にした。