入学試験、開始!
晴れ渡る空の下、高くそびえ立つ立派な建物。
ロムルス王国最大にして最古の学園、ロームルス学園である。
今日は入学試験の当日。
緑の芝の校庭に、百人近い若者が集まっていた。
試験を受ける受験生達だ。
「見てくれよ! 試験のために父上が剣を買ってくれたのだ、装飾が美しいだろう?」
「僕は鎧を新調してもらったよ! 白銀の文様がこだわりなんだ!!」
「私の杖をご覧になって! 先端には天然の魔法石がはめ込んでありますの。魔法の力を高めてくれますのよ!」
校庭の真ん中に集まり、装備自慢をする受験生達。
一方ウルリカ様とオリヴィアは、校庭の端っこでポツンと立っている。
「ふむふむ……みんな元気じゃのう、いいことじゃ……ポリポリ……」
「ウルリカ様……試験前なのですから、もっと緊張感をもってくださいよ」
試験前にもかかわらず、クッキーをほおばるウルリカ様。
呑気なウルリカ様を見て、受験生達はヒソヒソとうわさ話をする。
「彼女はホントに十歳以上なのか? まだ子供じゃないか」
「従者付きだなんて、冷やかしに来てるんじゃないのか?」
「みすぼらしい装備だわ、どういうつもりなのかしら?」
「すみませんウルリカ様、まともな装備が用意出来なくて……」
謝るオリヴィア。
ウルリカ様の装備は、演習の時に使っていた木刀と、オリヴィアに貰った小さな杖だけだ。
他の受験生と比べると明らかに差のある装備だが、ウルリカ様はまったく気にしない。
「かまわんのじゃ、そもそも妾は武器など不要じゃからの! それに、あの者達の持っている様な粗悪品は使う気になれんのじゃ」
「粗悪品ですか? 凄く立派な武器に見えますが」
「あれらは練度の低い粗悪品じゃ、実用的ではない。あんなものを実践で使うとしたら、それはただの苦行じゃな」
指先でクルクルと杖を回して見せるウルリカ様。
「ほれ、リヴィがくれた杖の方が軽くて扱いやすいのじゃ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「うむ!」
杖をクルクル、クッキーをポリポリ、ウルリカ様はご機嫌だ。
そこへシャルロット王女が、取り巻きの子女達を引き連れてやってくる。
「あら、田舎者の魔王様はずいぶんみっともない装備なのね」
「シャルロットではないか! 今日はお互いに頑張ろう!」
「相変わらず失礼ね……」
シャルロット王女は持っていた杖をウルリカ様に向ける。
金色の細工と赤色の宝石が綺麗な、見るからに豪華な杖だ。
その杖をじっと見つめるウルリカ様。
「あら? ワタクシの杖が気になるのかしら?」
「うむ、シャルロットはその杖で試験を受けるのか?」
「その通りよ、試験のために用意した最高級の杖なの、あなたには一生縁のない代物ね」
ニヤニヤと笑うシャルロット王女。
ウルリカ様はというと、眉を八の字にして心配そうな表情だ。
「うむぅ……悪いことは言わぬから、今からでもまともな杖を準備した方がよいのじゃ」
「……は?」
「その杖は作りが雑すぎる、魔力がうまく通っておらぬのじゃ。しかも先端の石ころが魔力の通りを邪魔しておる。無駄の塊のような杖じゃ」
杖につけられた宝石を、ツンツンとつっつくウルリカ様。
それを見た子女達から、一斉に抗議の声が上がる。
「シャルロット様の杖に向かって、なんてことを言うの!」
「デタラメばかり言いやがって、正気じゃない!!」
「そうかのう? 見れば見るほど粗悪品なのじゃが……」
遠慮のないウルリカ様の言葉。
シャルロット王女はピクピクとこめかみを痙攣させている。
「ふんっ……まあいいわ、物の価値も分からない田舎者ってことよね。こんな田舎者の言うことなんて、真に受ける必要ないわ」
「そうか……シャルロットは強情じゃのう」
キッとウルリカ様を睨みつけるシャルロット王女。
その時、校庭に大きな声が響く。
「試験を開始する! 受験生は集まれ!」
「あら、そろそろ時間ね。そのみっともない装備で、せいぜい無駄に頑張ったらいいわ」
「シャルロットも頑張るのじゃぞ!」
「……ふんっ」
去っていくシャルロット王女と取り巻きの子女達。
残されたウルリカ様も、パタパタと校庭の真ん中へ走っていく。
「では妾もいってくるのじゃ!」
「はい、頑張ってくださいね!」
「うむ!!」
こうして、ウルリカ様の入学試験が幕を開ける。