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剣術とお料理

 青く晴れ渡った空の下、ここはロームルス学園の校庭。

 広い校庭の真ん中には、下級クラスの生徒達が並んでいる。加えて、新たに下級クラスの先生となったエリザベスも一緒だ。


「ではこれより、剣術の授業を開始する!」


 この日はエリザベスによる、下級クラスでの初授業である。気合十分なエリザベスに、負けじと気合十分な生徒が一人。


「ハーイなのじゃ! エリザベス先生!!」


 元気いっぱいのウルリカ様である。ピョンピョンと飛び跳ねて、とても楽しそうだ。

 そんなウルリカ様とは対照的に、他の生徒達は浮かない顔をしている。


「あの……エリザベス先生、質問をしてもよろしいでしょうか?」


「ん? どうしたヘンリー?」


「どうしてボク達は、剣を持たされているのでしょうか?」


「剣術の授業をするのだ、剣を持つのは当然だろう!」


 生徒達は一斉に、手元の剣へと視線を落とす。ズシリと重たい、鉄製の剣へと。


「あの……授業では木刀を使うものでは? どうして本物の剣を使うのですか?」


「いいかベッポよ、木刀では魔物に勝つことは出来ないのだ! だから鉄製の剣を使うのだ! 授業とはいえ、常在戦場の心構えで挑むのだ!」


「しかしエリザベス先生、いきなり本物の剣は危険かと──」


「甘い、甘すぎるぞシャルル! そんな甘い考えでは、世界一の騎士にはなれないぞ!!」


 初授業に気合を入れすぎて、暴走気味なエリザベス。いつの間にやら世界一の騎士を目標にしている。

 猪突猛進な姉に、シャルロットはほとほと呆れるばかりだ。


「お姉様……脳筋すぎますわよ……」


「……シャルロットよ、なにか言ったか?」


「いえ、なんでも……」


「よし、ではまず基本の素振りからだ! 剣を振れぇ!!」


 校庭に響き渡る、エリザベスの号令。それに答える可愛らしい声。


「ハーイなのじゃ!」


 そして──。


「それっ!」


 世界を斬り裂く、ウルリカ様の()()()


 放たれた斬撃は、校庭を真っ二つに割り、パラテノ森林の奥まで突き抜けていく。巻きあがった竜巻は、周囲の木々を根っこから吹き飛ばしてしまう。

 素振り一回の威力とは思えない、とてつもない破壊力だ。


「うむ! どんどん素振りをするのじゃ~」


「「「「「「「待ったぁ!!」」」」」」」


 再び素振りをしようとするウルリカ様を、全員がかりで一斉に止める。


「ウルリカは素振り禁止だ! このままでは世界が真っ二つになってしまう!」


「なんでじゃ!? せっかくの授業だというのに……」


「くっ……ならばウルリカは、向こうで私と特別授業だ。もっと面白い授業をしよう!」


「もっと面白い授業! それは楽しみなのじゃ!!」


 ご機嫌になったウルリカ様を見て、エリザベスはホッと息をなでおろす。

 こうして、どうにか世界を真っ二つにすることなく、エリザベスの初授業は行われたのだった。


 ちなみにこの後、無残にも斬り裂かれた校庭を見て、ラヴレス副学長とハインリヒは絶望に打ちのめされたという。しかしそれは、別のお話である……。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 エリザベスの初授業を終えて、次はヴィクトリア女王の授業だ。

 下級クラスの教室塔には、賑やかな声が響いていた。


「それじゃあみんな、授業をはじめましょう!」


「ハーイなのじゃ! ヴィクトリア先生!!」


 満面の笑顔で生徒達に呼びかけるヴィクトリア女王。ウルリカ様も満面の笑顔でお返事をする。ブンブンと両手を振り回して、とてつもなく楽しそうだ。

 そんなウルリカ様とは対照的に、他の生徒達は浮かない顔をしている。


「あの……ヴィクトリア先生、質問をしてもよいでしょうか?」


「はいオリヴィアちゃん、なにかしら?」


「教室を間違えていませんか? ここは“世界の珍味教室”ですよ?」


 オリヴィアの言う通り、集められた教室は、教室塔の八階“世界の珍味教室”だ。ナターシャの要望で作られた、魔界の謎生物でいっぱいの摩訶不思議な謎教室である。


「間違えてないわ。今日はみんなで、お料理の授業をやるのよ! 調理実習よ!」


 「調理実習」と聞いて、生徒達は一斉に首をかしげてしまう。


「お母様は歴史や教養の先生ではありませんの? なぜ調理実習ですの?」


「それはね、みんなと一緒に楽しくお料理したいからよ……私が!」


 「私が」と強調するヴィクトリア女王。どうやら今回は、自分がお料理をしたいだけのようである。

 自由奔放な母に、シャルロットはほとほと呆れるばかりだ。


「お母様……自由人すぎますわよ……」


「……あらシャルロット、なにか言ったかかしら?」


「いえ、なんでも……」


「あの……もう一つ質問です。食材は……その……どうするのですか?」


「あらオリヴィアちゃん、食材なら周りに沢山あるじゃない。この教室は素敵な食材でいっぱいだわ!」


 そう言ってヴィクトリア女王は、教室に向かって両手を広げる。魔界の謎生物でいっぱいの、混沌とした教室に向かって。

 ウゾウゾと蠢く食材達を見て、生徒達の食欲は地の底である。とてもお料理を作る気にはなれない。


 そんな中、ヴィクトリア女王に負けじと、元気いっぱいな生徒が二人。


「珍味でお料理、ワクワクします! ヴィクトリア先生、早くはじめましょう!」


 “世界の珍味教室”の生みの親、ナターシャである。なぜか珍味に大興奮するナターシャを見て、クラスメイト達はいよいよげんなりである。

 そしてもう一人、授業の開始を待ちきれない様子のウルリカ様。


「うむ、妾も楽しみなのじゃ! 早速みんなでお料理するのじゃ!」


「ええ! では調理をはじめましょう!」


 こうして、摩訶不思議な教室で、摩訶不思議な調理実習が行われたのだった。


 ちなみに、この時作られた料理は、この世のものとは思えないほど美味しかったという。しかしそれは、別のお話である……。

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