表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/310

鬼の笑顔

 雲一つない青色の空。キラキラ輝く朝の陽ざし。

 気持ちのいい朝の風を浴びながら、ウルリカ様とジュウベエは、ロームルスの城下町へと向かっていた。


「ジュウベエよ! 約束通り、今日は一緒に遊ぶのじゃ!」


「はい! ウルリカ様と一緒に遊ぶ……楽しみです!」


「さて、なにをするかのう? おかし屋さん巡りはどうかのう?」


「うっ……おかし屋はお腹いっぱいですよ……」


 前日にゼノン王から“王都のおかし屋さん、永久に食べ放題礼状”をもらったばかりのウルリカ様。昨日はジュウベエを引き連れて、遅くまでおかしを食べ散らしていたのだ。

 おかげでジュウベエは、朝から胃もたれ気味なのである。


「うむぅ……まだまだ食べ足りないのじゃ……」


 ウルリカ様の丸い瞳に見つめられて、ジュウベエは「うっ」と言葉を詰まらせてしまう。


「ぐっ……なんと凶悪な瞳だ……しかし、今日は俺と遊んでもらう約束です! おかし屋さんは我慢してください!」


「むうぅ……仕方ないのじゃ……」


 ぷくっとほっぺたを膨らませるウルリカ様。つまらなさそうに小石をけっ飛ばす姿は、もの凄く可愛らしい。

 そんなウルリカ様の姿に、ジュウベエはデレデレだ。


「凶悪すぎる……なんて可愛らしいのだ……」


 喜んだり拗ねたり愛でたり、朝から楽しそうなウルリカ様とジュウベエ。そんな二人を、ふいに呼び止める声がする。


「そこの二人、待ってくれ!」


 声の主はエリザベスだ。スカーレットとカイウスをつれて、ウルリカ様の方へと走って来る。


「おや、スベリエスなのじゃ!」


「スベッ……私はそんな滑った名前ではない! エリザベスだ!!」


「ふむ?」


 キョトンと首をかしげるウルリカ様。まったく悪気のない様子に、エリザベスは怒るに怒れない。


「いや……まあいい……」


「ところで、なにか妾に用事かの?」


「ああ、実は二人に頼みがあるんだ」


「頼み? なんじゃろうな?」


「その……私達に、剣の稽古をつけてくれないか?」


「ダメだ! 断る!!」


 エリザベスのお願いを、ジュウベエは即答で切り捨てる。

 あまりにもバッサリと断られ、エリザベスは一瞬呆けてしまう。しかし、その程度で折れるエリザベスではない。


「ちょっと待ってくれ! 少しくらい考えてくれても──」


「俺は明日、魔界へ帰らなければならない。その前に今日は一日、ウルリカ様と一緒に遊ぶのだ。つまり、お前達に稽古をつける時間は一切ない」


「そこをなんとか──」


「却下だ、俺達の邪魔をするな」


 必死に食い下がるエリザベス。しかし、ジュウベエはまったく相手にしようとしない。

 そんなジュウベエの態度を見て、スカーレットとカイウスは不信感をあらわにする。


「止めときましょうよ、エリザベス様……なんだか怪しい男ですし、もう一人はただの子供ですよ?」


「スカーレットの言う通りですね、こんな子供に稽古なんて出来るはずありませんよ」


 二人揃ってウルリカ様への不満を口にする、次の瞬間──。


「人間……ウルリカ様を侮辱する気か?」


「「「──っ!!」」」


 ズシンッと圧しかかるような、ジュウベエの殺気。

 木々はザワザワと揺らめき、石畳の地面には大きな亀裂が走る。


 ジュウベエの強大な殺気を受けて、身をこわばらせる三人の聖騎士。

 そんな中、ピョンッと飛びあがったウルリカ様は、ジュウベエの頭を“コツンッ”する。


「こらジュウベエ! 脅かしてはダメなのじゃ!」


「ぐっ……しかしこいつら、ウルリカ様に失礼なことを……」


「妾は気にしておらんのじゃ」


「……そうですか……」


 ウルリカ様に“コツンッ”されて、ジュウベエはもの凄く不機嫌そうだ。

 そうしてしばらく不機嫌そうにしていたジュウベエだが、突然ニヤリと笑顔を浮かべる。見る者の背筋を凍らせる、邪悪な鬼の笑顔である。


「クックック……ウルリカ様、今日の遊びを思いつきましたよ……」


「ふむ、どんな遊びじゃ?」


「この人間達に稽古をつけてやりましょう……二人で一緒に……一日かけて……」


 ジュウベエの提案を聞いて、エリザベスは大喜びだ。パァッと表情を綻ばせて、ジュウベエにお礼を言う。


「本当かジュウベエ殿! 感謝する!!」


「なに、気にするな……」


 吊りあがったジュウベエの口から、ゾロリと鋭い牙が覗く。

 ここでようやくエリザベスは、ジュウベエの邪悪な雰囲気に気づく。


「お前達のせいで、ウルリカ様に“コツンッ”されてしまった。そのお返しだ……鬼の稽古というものを味わわせてやろう……」


「鬼の稽古!? それは──」


「では行きましょう、ウルリカ様! 人間達を徹底的に追い詰めて、死ぬまで血反吐を吐かせる遊びです!」


「うむ! お稽古なのじゃ、頑張ろうなのじゃ!」


「いや、ちょっと待──」


「問答無用だ、さあ来い! 百回は死ぬ覚悟をしておけ!!」


 そう言ってジュウベエは、三人まとめて強引に担ぎあげる。

 鎧を着た聖騎士三人を軽々と抱えて、意気揚々と訓練場へ向かっていく。


 このあと、ジュウベエが魔界に帰るまでの丸一日、地獄よりも辛い訓練が続いたという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ