表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/310

深夜の執務室 その三

 深夜。

 吸血鬼もスヤスヤ寝息を立てる時刻。


 荒れはてたゼノン国王の執務室に、うっすらと明かりが灯っていた。

 ボロボロのソファに腰かけているのは、ゼノン王とルードルフの二人。

 酒をあおりながら、ゆったりと会話をしている。


「こうして夜に飲むのも、ずいぶんと久しぶりですね」


「最近は魔物襲撃の対応で、なにかと忙しかったからな」


「いろいろと難儀されていましたね……しかし、落ちつくべきところに落ちついてよかったですよ」


「俺の執務室はまったく落ちついていないがな……」


 ヒュウヒュウと隙間風の入る執務室を見て、ゼノン王はげんなりとうなだれてしまう。


「しかしまあ、俺の執務室がボロボロになるくらい安いものだな。なにしろ一人の被害も出なかったのだ。全てはウルリカのおかげだな」


「またまた、ご冗談を……」


「ん? 冗談?」


「先を読み、策を練り、そして魔王すら動かしてみせたのは、他でもない陛下御自身ではありませんか。賢王の名は伊達ではありませんね」


「そんな大したことはしていない、ただ友達に頼みごとをしただけだ」


「フフッ……魔王と友達になられた時は驚きましたが……ここまでの“利”を見越していたのだとしたら……」


「よせ、そこまで俺は打算的な人間ではない」


 静かな執務室に、カランッとグラスの鳴る音が響く。


「ところで陛下、今回も吸血鬼を捕らえたそうですね?」


「ああ、早朝には王都を出発させ、監獄まで移送する。そこからは厳しい拷問だ」


「拷問ですか……なにか情報を聞き出すのですか?」


「ウルリカいわく、今回の吸血鬼も『あのお方』という発言をしていたそうだ」


「なるほど、その情報を聞き出すわけですね。それにしても、あのお方ですか……まだまだ予断を許さない状況のようですね」


「その通りだな、しかしその前に……」


 そう言うとゼノン王は、ゴソゴソと紙の束をとり出す。両手をいっぱいにするほどの、大量の紙の束だ。


「それは?」


「王都中のおかし屋から、大量の請求書が届いたのだ……」


 「あぁ……」と呆れた声をあげるルードルフ。一方のゼノン王は、顔を青ざめさせながら、請求書をじっと見ている。


「あー……大臣よ、この請求書は国庫から──」


「もちろん、陛下の私財できちんと支払ってくださいね」


「ぐうぅっ……ルードルフめ……」


 執務室に響く、哀れなゼノン王の声。


 こうして、ロームルス城の夜は更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ