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ヘンリーの作戦

 太陽の天使、降臨。

 光り輝く神々しい姿を、誰もが呆然と眺めている。


「よし……完全に場の空気を掌握しました……!」


「ヘンリーの狙い通りですわね……今こそ勝機ですわ……!」


 シャルロットは片手をあげて号令を出す。


「ナターシャ! シャルル! ベッポ! 次ですわ!!」


「次は紫の玉だ! どんどん投げろ!!」


「はいっ、投げまくります!」


「投擲だ! 投擲だ!!」


 戦場を舞う紫色の玉。

 ぶつかった球は粉々に破裂し、紫色の液体を撒き散らす。

 そして戦場に、さらなる地獄が広がっていく。


「うぎゃあぁぁっ!? 臭すぎるぞ!!」


「げえぇぇ……し……死ぬ……」


「私もうダメ……意識が……」


 阿鼻叫喚に包まれる人々。

 一方、液体を浴びた魔物にも変化が現れる。


「クオォ……クオオォッ!!」


「グルル……グルオォッ!!」


 唸り声をあげる魔物達。

 そして──


「クオオォ……クギョァッ!?」


「グルオオォッ……グギャゥ!?」


 グリフォンの首に食らいつくレッサードラゴン。

 そのレッサードラゴンの顔に、爪を突き立てるグリフォン。

 他の魔物も目を血走らせて、近くの魔物へと襲いかかる。


 緑色の液体と紫色の液体にまみれて、同士討ちをする魔物達。


「決まった! これぞ父の商会で作った特別製品、“悶絶激臭、魔物混乱爆弾”だ! 魔物避け爆弾を超える臭いのせいで、一つも売れなかった超問題商品だぞ!!」


 こぶしを握り、天へと突きあげるベッポ。

 ヘンリーはキラリとメガネのふちを光らせる。


「魔物除けで動きを止め、混乱薬で同士討ちを狙う。作戦通りです」


「戦わずして勝つじゃな、素晴らしいのじゃ! ……ポリポリ……」


「流石ヘンリーですわね、見事な作戦ですわ!」


「“研究書大量教室”に置いてあった、兵法書と魔物図鑑のおかげですよ」


 ヘンリーの立てた作戦によって、大量にいた魔物は一気に数を減らしていく。

 形勢逆転かと思われたその時、戦場の端から鋭い鳴き声があがる。


「シュルロロオォッ!」


 炎を身にまとい、突進してくるサラマンダー。

 全身を包む炎によって、緑の液体も紫の液体も蒸発させてしまったのだ。


「そんなっ、ゴーヴァンはやられましたの!?」


 慌ててゴーヴァンを探すシャルロット。

 サラマンダーのすぐそばで、ゴーヴァンは肘をついている。


「この液体はなんだ……目に入って前が見えん……それに臭すぎるぞ……うげぇ……」


 どうやらサラマンダーにやられたわけではなさそうだ。

 しかし、緑と紫の液体にまみれて、とても動ける状態ではない。


「よかった、一応生きていますわね」


 ホッと息をついたシャルロットは、騎士団へと指示を出す。


「騎士団は隊列を組んで、サラマンダーを止めますわよ! ナターシャとシャルルも協力して!!」


「はいっ、協力します!」


「承知した!」


「「「「「はっ!!」」」」」


 バラバラに動いていた騎士団も、王族であるシャルロットの命令に従ってサラマンダーへと向かっていく。

 続けて指示を出そうとするシャルロット。


「学園の方々は魔法の準備を、あなた達の魔法こそ勝利のカギですわ! 一斉攻撃でトドメを──」


「お待ちなさい!」


 しかし、ラヴレス副学長に止められてしまう。


「残念ながらシャルロット様、学園の者にまで命令を下す権限はありませんよ。ここは私に任せてもらいましょう」


「なっ、今はそんなことを言っている場合では──」


 シャルロットの言葉を無視して、ラヴレス副学長は杖を構える。


「──雷撃魔法、サンダースピアー──」


 杖の先端から迸る雷。

 鋭い雷の槍は、サラマンダーの皮膚を突き破り肉を焼き焦がす。


「シュルロオォォ!?」


「フッ……サラマンダーごとき、我々の敵ではありません。さあ、誇り高き学園の諸君、私に続きなさい!」


「「「「「おぉっ!」」」」」


 ラヴレス副学長に続いて、次々と魔法を放つ学園の魔法使い達。

 パラパラと降り注ぐ魔法の雨で、騎士団はサラマンダーに近づくことが出来ない。

 動きを止めたサラマンダーへと、魔法使いの包囲網が迫っていく。


「相手は弱っていますよ、このまま一気に──」


「シュルロオオォー!!」


 次の瞬間、突如として膨れあがる青白い光。

 サラマンダーの全身から、凄まじい勢いで炎が噴き出したのだ。


「なっ!? ぎゃあぁぁっ!!」


 渦巻く炎に飲み込まれて、ラヴレス副学長は吹き飛ばされていく。

 学園の魔法使い達も、熱波と衝撃で気を失ってしまう。


「ラヴレス副学長! そんな……一瞬で全滅ですわ……」


 慌てて応戦する騎士団。

 ナターシャとシャルルも、果敢にサラマンダーへと挑んでいく。

 しかし、炎をまとったサラマンダーは、あらゆる直接攻撃を寄せつけない。


「マズいですね……強力な魔法の一斉攻撃でなければ、サラマンダーにトドメは刺せませんよ」


「魔法使いは全滅してしまいましたわ……どうすれば……」


 重い空気が流れる。

 その時、背後から低い男の声が聞こえる。


「強力な魔法ですかな? ならばワシの出番ですな」


 振り向くシャルロット。

 その瞳に、杖をついた老人の姿が移る。


「ほっほっほっ、待たせたようですな」


「ノイマン学長!」


 そこには、ニヤリと笑う賢者の姿があった。

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