異変
授業中止の知らせから数時間後。
ウルリカ様とシャルロットは、ロームルス城の会議室を訪れていた。
ルードルフを先頭に、三人は会議室へと足を踏み入れる。
「お待たせしました陛下、シャルロット様とウルリカをお連れいたしました」
「ご苦労、オリヴィアとナターシャはどうした?」
「二人は寮に帰しております」
会議室の中で待っていたのは、ゼノン王とヴィクトリア女王、聖騎士ゴーヴァン、生徒会長ハインリヒ。
そして、黒いローブを着た中年の女だ。
「生徒会長? それと……ラヴレス副学長ですの?」
「お久しぶりね、シャルロット様」
立ちあがり、ローブを脱いで挨拶をする中年の女。
彼女こそ、ロームルス学園の副学長、ラヴレスである。
「久しぶりですわね、ラヴレス副学長」
シャルロットとラヴレス副学長は、互いに礼をして挨拶を交わす。
一方ウルリカ様はというと、黙ってうつむいたままだ。
そんなウルリカ様を心配して、ヴィクトリア女王は声をかける。
「ウルリカちゃん、なんだか元気ないわね?」
「授業をな……中止にされてしまったのじゃ……」
「あぁ……それは落ち込んじゃうわよね……そうだわ!」
ポンッと手を叩いて、机の下に手を入れるヴィクトリア女王。
とり出したのは、色鮮やかなマカロンである。
「美味しいマカロンはどうかしら?」
「マカロンじゃと! 食べるのじゃ!!」
パァッと笑顔を浮かべるウルリカ様。
マカロンを貰って、ちょっとだけ元気をとり戻したようだ。
「パムパム……美味しいのじゃ!」
「フフフッ、よかったわ」
「コホンッ……そろそろ本題に入ってもいいか?」
ゼノン王の言葉を合図に、ウルリカ様とシャルロットは席に座る。
注目の集まる中、ゼノン王は口を開く。
「実は昨夜、パラテノ森林の警備隊が全滅した」
「全滅!? 本当ですの?」
ガタンッと立ちあがるシャルロット。
突然の悪い知らせに、動揺を隠すことが出来ない。
「間違いない、ゴーヴァンに調査をしてもらったからな」
ゼノン王はゴーヴァンへと視線を送る。
「ゴーヴァンよ、改めて調査結果を報告してくれ」
「かしこまりました。では、パラテノ森林での調査結果を報告します」
ゼノン王からゴーヴァンへと、全員の視線が移る。
「順を追って報告しましょう。今朝早く、陛下から命令を受けた俺は、パラテノ森林の調査に向かいました」
「警備隊全滅の一報を受けてな、即座にルードルフへと調査命令を出したのだ」
「森では明らかな異変が起きていました。生息する魔物はどれも凶暴化しており、討伐難易度EやFの魔物とは思えないほど強力になっていました」
静かな会議室に、ゴーヴァンの声が響く。
「また、パラテノ森林には生息していないはずの、大型の魔物も発生しておりました。確認出来たのは、オーク、グリフォン、そしてレッサードラゴンです」
レッサードラゴンと聞いて、顔を青くするシャルロット。
「体は赤黒く変色しており、普通ではない様子でしたね。周りには警備隊の死体が散乱していましたよ……」
シンっと静まり返る会議室。
「魔物の位置からして、明日にはパラテノ森林を抜けてロームルス学園に現れると思われます。現時点での調査結果はここまでです」
そう言ってゴーヴァンは報告を終える。
重苦しい雰囲気の中、再び口を開くゼノン王。
「魔物の凶暴化、そして強力な魔物の出現、これは明らかな緊急事態だ。国家として慎重に、かつ早急に対処しなければならない」
「授業の中止もこのためなのよ。ロームルス学園はパラテノ森林から近いでしょう? だから生徒の安全を守るために、急いで授業を中止してもらったの」
ゼノン王とヴィクトリア女王の説明を聞いて、ウルリカ様はコクコクと頷く。
「ふむ、そういうことじゃったか……パムパム……つまりその魔物を滅ぼせば、学校は再開するのじゃな? ならば滅亡魔法で森ごと消滅──」
「待てウルリカ! 早まるな!!」
ウルリカ様の物騒な発言に、顔を青くするゼノン王。
シャルロットは大慌てで、ウルリカ様の口にマカロンを押し込む。
「ほらウルリカ、マカロンですわよ!」
「なんじゃ? むぐぐっ……むぐむぐ……むぅ……」
口いっぱいにマカロンをほおばって、大人しくなるウルリカ様。
ゼノン王は冷や汗をぬぐい、「ふぅ」と息を吐く。
「さて、話を戻そう……とにかく例の魔物達を討伐しなければならない。そこで今回は、王国騎士団とロームルス学園で合同作戦を立てる」
再び緊張感に包まれる会議室。
その時、勢いよく扉が開かれる。
「父上! 遅くなりました!」
凛々しい声とともに、一人の女性が飛び込んでくる。
純白の鎧に身を包んだ、美しい女騎士だ。
全員の注目を集めながら、女騎士は大きな声で名乗りをあげる。
「聖騎士、エリザベス・メイ・ランス・ロムルス! ここに推参!!」




