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友達だから

「う……うぅ……」


 掠れる視界、止まない耳鳴り、全身に広がる鈍い痛み、そして血の味と臭い。あらゆる感覚は休むことなく、苦痛ばかりをシャルロットに伝える。


「何が……そうですわ、確かアグニスに乗って……っ」


 それはヴァンナドゥルガから脱出し、大空へと飛び出した直後のこと。どういうわけかアグニスは、姿勢を崩して地上へ真っ逆さま。シャルロット達はアグニスに乗ったまま、地面に叩きつけられたのである。


「皆は……あっ、ヨグソード……」


 落下による痛みと痺れで、シャルロットは立ちあがることも儘ならない。やっとのことで顔をあげ、目の前に放り出されていたヨグソードを発見。痛む四肢を強引に動かし、ヨグソードの元まで這い寄ろうとするも──。


「人間よ、何をしている?」


「あ……え……?」


 二対四本の巨腕と凶刀、闇より深く濃い黒衣、全身を覆う骸の鎧。シャルロットは本能的に、立ちはだかる邪悪の正体を察する。


「まさか……邪神ガレウス……?」


「ほう、余を知っているのか」


 ガレウスは僅かに視線を下げ、足元のシャルロットを一瞥する。身も心も凍てつくような、この上なく冷やかな視線だ。


「して人間よ、なぜヨグソードを拾おうとする?」


「う……うぅ……」


「すでに勝敗は決したというのに」


「勝負は決した……? それは……どういう意味ですの……?」


「こういう意味だ」


 落ちているゴミでも拾うかのように、ガレウスはシャルロットを摘まみあげる。

 抵抗しようにも体は動かず、シャルロットは宙ぶらりんの状態へ。そして目にする、ガレウスの言葉が意味する光景を。


「あぁ……っ!?」


 グッタリと横たわるクラスメイト、ピクリとも動かないヴィクトリア女王、ゴーヴァン、ヴィエーラ。

 すぐ傍には氷漬けのアグニスと、短鞭を構えたザナロワの姿も。どうやらアグニスはザナロワに凍らされたことで、姿勢を崩し墜落してしまったよう。


「まさか皆……」


「シャ……ルロットちゃん……っ」


「えっ……ああぁ、アンナマリア様!?」


 裂傷や打撲は数知れず、白銀の髪は血に濡れて真っ赤。もはやアンナマリアなのか分からないほどズタボロな上、左の肩から先を完全に失っており──。


「だ……大丈夫っすよ、皆は生きてるっす……」


「でもアンナマリア様が……どうしてこんな、酷すぎますわ……っ」


「そうか、覚えておらぬなら教えてやろう。落下してきた貴様等を守るため、アルテミアは盾となり余の一撃を防いだのである」


「ワタクシ達を守って……?」


「き……気にすること……ないっす……。私は勇者っす……、勇者は……人々を守ってこそっす……」


「まったくもって愚かなり、弱者を守ったばかりに虫の息よ」


「はっ……さて、クソ神退治の……続きっす……!」


 なぜ生きているのか不思議なほどの深手、にもかかわらずアンナマリアはまるで戦意を失っていない。とはいえ肉体は限界を超えている、万に一つも勝ち目はないだろう。


「無様なものだな……結局のところアルテミアよ、貴様は弱者を守れないのだ」


「あうっ」


 ガレウスはこれ見よがしに、シャルロットを空中へと放り投げる。と同時に凶刀を払い、シャルロットの胴を真一文字に──。


「ダメーッ!」


「えっ、リィアうぐっ!?」


 両断することはなく、刃は音を立てて空を切る。迫る刃よりも僅かに早く、なんとリィアンがシャルロットを突き飛ばしたのだ。

 ほんの一瞬でも遅れていれば、間違いなくシャルロットの上半身と下半身はお別れしていた。


「はぁ……はぁ……。ごめんねシャルロット、突き飛ばしちゃった」


「なっ、何してるのリィアン! 一体どこから……信じられないわ、どうして人間を助けたの!?」


「ザナロワ……」


 まるで荒れる大海原、それほどにザナロワは取り乱していた。一方のリィアンは至って冷静、凪の如く静かで揺るぎない。


「ああぁ、申し訳ございませんガレウス様! 今のは何かの間違いです、どうかリィアンをお許しに!」


「ううん、リィは何も間違ってない」


「ほう、間違いではないと申すか……」


 強烈な殺気を向けられるも、やはりリィアンは揺るがない。それどころか固い意志の宿った目で、キッとガレウスを睨み返す。


「リィはシャルロットを守るの、だって……だって大切な友達だから!」

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