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特訓!

 吸血鬼事件の翌々日。

 ここはロームルス城の地下訓練場。


「うむ! 揃ったな!!」


 集まっているのは、ウルリカ様、オリヴィア、シャルロット、ナターシャの四人。

 そして、ゼノン王である。

 オリヴィア、シャルロット、ナターシャの三人は、動きやすそうな軽装姿だ。


「では、お前達三人に改めて命じる。城下に潜む吸血鬼を速やかに討伐せよ!」


「「「はい!」」」


「ただし、今のままでは任せられん! お前達には吸血鬼と戦うための、強い力を身につけてもらう。今日はそのための特訓だ!!」


「「「はい!!」」」


 気迫のこもったゼノン王の声。

 シャルロットは肩をすくめながら、ゆっくりと手をあげる。


「質問があります。どうして地下に集まっていますの? それになぜ、お父様自らここに……?」


「今回の件、敵の吸血鬼に悟られないよう秘密裏に動く必要がある。故に、情報の洩れない密閉された地下訓練場を使っている。そして、すでに事情を知っている俺が、自ら監督に来ているのだ」


「理解しましたわ、ありがとうございます」


「力を身につけろと言ったものの、悠長にやっている時間はない。そこで今回は、魔王であり吸血鬼でもあるウルリカに指導係を頼んだ。ウルリカよ、よろしく頼むぞ」


「うむ! 任せるのじゃ!!」


 ゼノン王とウルリカ様のやり取りを見て、ナターシャはスッと手をあげる。


「あの……ウルリカさん一人で私達三人を指導してくださるのですか? 手が足りないのでは?」


「心配いらん、見ておれ……」


 次の瞬間、ウルリカ様の体は黒い霧に変化する。

 驚いている三人の前で、じわじわと霧は範囲を広げていく。

 そして、再び実体へと戻ると──。


「「「どうじゃ? これで三人同時に鍛えられるのじゃ!」」」


 そこには、三人に増えたウルリカ様の姿があった。


「ウルリカ様、これは……魔法ですか?」


「「「魔法ではなく霧分身じゃ、吸血鬼の能力の一つじゃな」」」


「吸血鬼はそんなことも出来ますのね……」


「「「高位の吸血鬼しか出来ん、そうそう使えるものではないのじゃ」」」


 「そうそう使えるものではない」と聞いて、ホッと息を吐くシャルロット。

 敵の吸血鬼も分身するのか? と不安に思ったようだ。


「「「では、早速はじめるかのう!」」」


 こうして、ウルリカ様による特訓が幕を開ける。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「ウルリカ様! よろしくお願いしますね!!」


「うむ!」


 訓練場の一角で、オリヴィアとウルリカ様は向かいあっていた。

 オリヴィアは片手に小さな杖を握っている。


「さてリヴィよ、お主の役割は一つじゃ」


「はい、治癒魔法での回復役ですね」


「うむ、半分正解じゃな!」


 「半分」と言われて、オリヴィアはキョトンと首をかしげる。


「治癒魔法を使う、これは正解じゃ。しかし回復役ではない」


「では一体……?」


「お主の役割は、吸血鬼への攻撃役じゃ」


「攻撃役!?」


 ギョッと驚くオリヴィア。


「あの……攻撃魔法はあまり得意ではないのですが……」


「安心するのじゃ、使うのは回復魔法じゃ。そのうえで攻撃役を務めるのじゃ」


「えぇ……えっと……」


 ウルリカ様の矛盾した説明に、オリヴィアはちんぷんかんぷんな様子だ。


「少しいじわるな言い方じゃったの。つまりじゃ、吸血鬼に治癒魔法をかければ、ダメージを与えることが出来るのじゃ」


「そうなのですか!? 知らなかったです……」


「吸血鬼もアンデットの一種じゃからな、治癒魔法は逆効果に働くのじゃ。リヴィは敵への攻撃と味方の治療、両方をこなせるということじゃ」


「なるほどっ、分かりました!!」


 グッと杖を握り、やる気十分なオリヴィア。


「では、治癒魔法を鍛えていくのじゃ、厳しくいくからのう!」


「はいっ、頑張ります!!」


 こうして、オリヴィアは静かに魔力を漲らせていくのだった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「はぁ……はぁ……くぅっ」


「ほれ、動きが鈍っておるぞ!」


 一方こちらは、ナターシャとウルリカ様。

 訓練場の中央で、激しく動き回っている。


 体を霧に変えながら、ナターシャへと襲いかかるウルリカ様。

 対するナターシャは、剣を振り回して必死に防御している。


「くぅっ……あっ!」


 バキンッと音を立てて、宙を舞うナターシャの剣。

 ウルリカ様の手刀で、ナターシャの剣は根元から折られてしまったのだ。

 正真正銘の鉄剣を、片手でへし折ったウルリカ様。手には傷一つついていない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 膝をついて倒れこむナターシャ。

 青い顔で息も絶え絶えだ。


「サーシャよ、お主の役割はリヴィとロティの盾となることじゃ」


「はぁ……はぁ……盾……」


「剣での攻撃は吸血鬼には効きづらい、霧に変化して回避されるからじゃ」


 片手を霧にして見せるウルリカ様。


「しかし吸血鬼といえども、攻撃の際は実体化せねばならん。つまり剣で防げるのじゃ」


「はぁ……はぁ……実体化……」


「魔法攻撃であっても、剣で弾くことは出来る。どんな攻撃がこようとも、お主の剣で防いでしまえば、仲間は傷つかずに済むのじゃ」


「仲間を……傷つけずに……」


「それが剣士の……前衛の役割じゃな!」


 そう言うと、訓練場の端から新たな剣を持ってくる。


「妾はあえて霧に変化しながら相手をするのじゃ。吸血鬼が霧になる感覚、そして実態に戻る感覚を体に叩き込むのじゃ」


 ナターシャのそばに剣を置き、距離を取るウルリカ様。


「では、少し休憩してから──」


「いいえ!」


 剣を拾い、ゆっくりと立ち上がるナターシャ。

 体はフラフラだが、瞳には強い意志が宿っている。


「休憩は必要ありません! 次をお願いします!!」


「うむ!」


 ゆっくりと、しかし確実に、ナターシャは力をつけていくのだった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 訓練場の端。

 邪魔にならないところで、シャルロットとウルリカ様はじっと座っていた。

 ついでにゼノン王も一緒である。


「あの、ウルリカ……?」


「ふむ、どうしたのじゃ? ……ポリポリ……」


 不安そうなシャルロット。

 ウルリカ様は呑気にクッキーをほおばっている。


「ワタクシはあの二人のように、訓練をしなくていいのですか?」


「そうじゃな、ロティに訓練の必要はない……ポリポリ……」


 ウルリカ様の答えに、シャルロットだけではなく、ゼノン王も驚いてしまう。


「訓練の必要はない? どういうことだ?」


「理由は二つあるのじゃ。まず一つ目、ロティは剣術も魔法もそれなりに出来るのじゃ、ロティの役割を考えれば十分な実力なのじゃ」


「いえ……そんな……」


 褒められて少し嬉しそうなシャルロット。

 ほっぺたをおさえて照れている。


「二つ目の理由は、ロティの役割にかかわっておる。ロティは自分の役割をなんだと思っておるのじゃ?」


「えっと……それは……二人と一緒に戦うことかしら?」


「間違ってはおらん。が、正解でもないのじゃ」


 キョトンと首をかしげるシャルロット。

 ゼノン王はハッと気づいた顔をしている。


「ロティの役割は、リヴィとサーシャをうまく戦わせることなのじゃ」


「ふむ……つまり司令塔というわけだな」


「その通りじゃ、流石はゼノンじゃな! 常に戦場から一歩引いて、二人を効果的に動かし、時には自分も戦いに加わり、そうやって戦いそのものを勝利へと導く役割なのじゃ」


 ウルリカ様の説明に、シャルロットはコクリと頷く。


「ワタクシの役割は分かりましたわ。それで、ここに座っていることとは、どういう関係がありますの?」


「ロティはあの二人の実力を知らんじゃろう? 司令塔は自身の駒のことを、徹底的に知っておかねばならん。でなければ司令塔は務まらん」


「ウルリカの言う通りだな」


「全神経を研ぎ澄ませて、リヴィとサーシャの動きを観察するのじゃ。動きの癖、長所と短所、あらゆる要素を頭に叩き込むのじゃ」


「なるほど……分かりましたわ!」


 そう言ってシャルロットは、食い入るように二人の特訓を見つめる。

 ウルリカ様の指導っぷりに、ゼノン王は感心だ。


「しっかり訓練してくれている、なかなか見事な手際だな」


「まあのう、これでも王じゃからのう……ポリポリ……」


 クッキーをほおばりながら、小さな声で答えるウルリカ様。


「この訓練が終わったら、妾から三人に贈り物をやろうかの」


「贈り物?」


「うむ、それは終わってからのお楽しみじゃ!」


 こうして、吸血鬼討伐の準備は、着々と進んでいくのだった。

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