再びの乱入
魔人ラドックスの襲撃から二日。
ロームルス城の応接間では、ロムルス王国と南ディナール王国の代表による会談が開かれていた。
ロムルス王国側の代表者はゼノン王とヴィクトリア女王、そして第一王子アルフレッド。南ディナール王国側の代表者は、エリッサと南ディナール王国元老院である。
「この度は私達の命を救っていただき、本当にありがとうございました」
厳かな雰囲気の中、エリッサはゼノン王へと恭しくお辞儀をする。
「ゼノン王、並びロムルス王国の方々には感謝してもしきれません」
「礼を言う必要はない、窮地と知れば駆けつけるのは当然のこと。それに……」
「それに?」
「エリッサ王女に万が一でも起きようものなら、俺はディナール王に殴り飛ばされてしまう。なにしろディナール王は俺以上の親バカだからな」
冗談交じりなゼノン王の言葉で厳かな雰囲気はほんのり和らぐ、しかしエリッサだけは畏まった態度を崩さない。
「あらためて深く感謝申し上げます。そして私の身勝手で無礼な振る舞い、あらためてお詫びを申し上げます」
「おお、ご立派ですぞエリッサ様……っ」
数日前とは別人のような凛々しいエリッサの姿に、元老院は一人残らず感激の大号泣だ。
「ではエリッサ王女よ、本題へ入ろうか」
ゼノン王の一言で話題は本来の目的へ、ロムルス王国と南ディナール王国の同盟締結である。
「ガレウス邪教団の脅威は身に染みました、本当に恐ろしい存在です」
「一国の力で立ち向うには強大な敵だ、人類全体で力を結集し立ち向わなければならない」
「ロムルス王国との同盟、謹んでお受けいたします。いえむしろ私達の方から同盟をお願いいたします」
「ああ、ガレウス邪教団の脅威から大陸の平和を守ろうではないか!」
打倒ガレウス邪教団に向け、ゼノン王とエリッサは固い握手を交わす。滞りなく同盟締結の運びとなり一安心、と思われたその時──。
「ゼノンー! どういうことなのじゃーっ!」
厳かな雰囲気をぶち壊す、燃え盛る火山のような叫び声。応接間の扉を蹴破り、怒り心頭のウルリカ様乱入である。
あまりにも突然の事態に騒然とする応接間、そこへ慌てた様子のシャルロットが到着する。残念ながらウルリカ様の乱入を止めるには一歩遅かったようだ。
「はぁ……はぁ……、間にあいませんでしたわ……」
「おいシャルロット、ウルリカは一体どうしたのだ?」
「ごめんなさいお父様、実は……」
「なぜ授業をしてくれないのじゃ!」
プンプンと頬を膨らませ地団駄を踏むウルリカ様。ラドックスを撃退したにもかかわらず、授業を受けられていないことにお怒りらしい。
「ごめんなさいねウルリカちゃん、あと数日は忙しくて授業を出来ないの。でも明後日には授業を再開するわ、約束するから少しだけ待ってて──」
「もう待てないのじゃ! 授業授業授業じゃー!」
ヴィクトリア女王の説得も虚しく、ウルリカ様の怒りは収まらない。授業授業と喚いて大暴れである。
「授業授業授業っ! 授業授業授業っ!」
「そうだウルウル、お詫びに異国の珍しいお菓子を箱いっぱい届けよう」
「授業授業授ぎょ──異国のお菓子を箱いっぱいじゃと?」
「とっても甘くておいしいお菓子だよ、それで我慢してくれるかい?」
「むぅ……仕方ないのじゃ」
アルフレッドの機転により、どうにかウルリカ様の怒りは収まる。落ちつきを取り戻す応接間、そんな中エリッサの様子がおかしい。
「はあぅ……」
「エリッサ王女? どうした?」
「え……あっ、なんでもありません!」
ゼノン王の呼びかけでハッと我に返るエリッサ。どういうわけかウルリカ様へと熱い視線を注いでいる、なにか気になることでもあるのだろうか。
「まあよい、では今後の話をしておこう」
「ええ、分かりました」
なにはともあれ、こうして晴れてロムルス王国と南ディナール王国の同盟は成立したのであった。




