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聖騎士の集い

 ウルリカ様達が楽しい休日を過ごしていたころ、ロームルス城の会議室は物々しい雰囲気に包まれていた。

 巨大な円卓を囲む八人の男女。この八人にエリザベスを加えた九人こそ、ロムルス王国最強の騎士“聖騎士”の面々である。


「全聖騎士に召集をかけるとは、ゼノン陛下も大げさなことをなされる。パルチヴァールもそう思わんか?」


「ガーランド様のおっしゃる通りですね。なんでもガレウス邪教団という連中から王都を守るためであると、ですが全聖騎士の力が必要だとは思えませんね」


「王都にも聖騎士はおるはず、その聖騎士に任せておけばよいものを。いやしかし王都の聖騎士は確か……?」


「……エリザベス様と取り巻き連中、明らかな戦力不足」


「おいおいトーレスよ、そうハッキリ言うと角が立つではないか!」


 談笑をしているのは、“ガーランド”、“パルチヴァール”、“トーレス”の聖騎士三人だ。一見すると会話を楽しんでいるだけのように見える、しかし言葉の端々からは一部の聖騎士に向けられた鋭いトゲを感じる。


「それにしても王都は平和なものだな、どうも俺の肌にはあわん。錆びついていくような感覚に陥ってしまう」


「このような平和に浸っていては、騎士としての腕も鈍るというものでしょう」


「……まったく同意、王都の聖騎士は鈍っている」


「はははっ、王都に居座り続ける聖騎士の気が知れんな!」


 王都の聖騎士をバカにしたような態度に、スカーレットは思わず円卓を叩きつける。


「ガーランドはずいぶん嫌味な言い方をするわね? もしかして私達への当てつけかしら?」


「弁えなさいスカーレット、ガーランド様に対して失礼ですよ?」


「なに言ってんのパルチヴァール、あんた達こそエリザベス様に対して失礼だわ!」


 スカーレットとパルチヴァールは円卓を挟んで睨みあう、ビリビリと空気を震わせるほどの凄まじい殺気だ。


「よせパルチヴァール、いちいち小娘の言うことに腹を立てるな」


「は? 小娘?」


 スカーレットはギロリと目を尖らせる、しかしガーランドは僅かとも動じない。


「お前のような小娘が聖騎士を名乗るとは、まったく時代も変わったものよ。俺達の時代はもっと──」


「ちょっとオジサン、昔話なら余所でやってくれる?」


「──口達者もいいが、まずは腕を磨くべきだな。小娘といい聖騎士筆頭様といい、王都の聖騎士は実力不足で困る」


「ガーランド、今の発言は撤回しなさい」


「なんだカイウス、この俺に意見する気か?」


 ガーランドは円卓に肘を乗せ、挑発的に身を乗り出す。対するカイウスは冷静な態度を崩さない、落ちついた様子で静かに両腕を組む。


「先ほどの発言はエリザベス様に対してあまりにも無礼、即時撤回しなさい」


「はっ、ずいぶんと生意気を言うようになったじゃないか!」


 どうやら聖騎士といえども一枚岩ではないらしい、むしろ一部の関係性は非常に悪いようだ。

 両者は円卓を挟んでバチバチと火花を散らせる、とそこへゼノン王とエリザベスが会議室へと入ってくる。


「すまんな、遅くなった」


 ゼノン王とエリザベスは、それぞれ円卓の対面へと腰かける。これにて用意された席はすべて埋まり、総勢九名の聖騎士と国王ゼノンが円卓を囲む。


「さて、前置きは省いて本題に入るぞ。お前達を集めた目的はガレウス邪教団から王都ロームルスを守るためだ。前もって伝えた通り王都ロームルスをガレウス邪教団の者が狙っている、よってお前達にはしばらく王都の警備を命じる」


「お話は分かりました、ですが全聖騎士で警備にあたる必要はないかと思われます」


「どういう意味だパルチヴァール?」


「ガレウス邪教団などという連中、ガーランド様とトーレス、そして私の三人で十分に対処可能です。少なくとも王都で平和ボケされた王女様方の力はご不要、むしろ足手まといでしかありません」


「おいパルチヴァール、私達を足手まといと言ったか?」


「ええ、聞き間違いではありませんよ」


「貴様……っ」


 挑発的なパルチヴァールの言葉を受けて、直情的なエリザベスは怒り心頭だ。バチバチと睨みあう両者に、ゼノン王は「はぁ」と深いため息をつく。


「お前達、少し落ちつけ──」


「まったくエリザベス様は短気でいかんな、聖騎士筆頭を名乗るならば冷静沈着に努めるべきだ」


「なんだとガーランド?」


「それにパルチヴァールの言うことは正しい、ガレウス邪教団の相手など俺達だけで十分!」


「……俺達は辺境にて強力な魔物達との戦いを繰り返している、平和な王都で錆ついたエリザベス様達とは経験も実力も雲泥の差」


「田舎者共は黙ってなさいよ! 私達の主はゼノン陛下で私達の筆頭はエリザベス様よ、ゴチャゴチャ言ってないで命令に従うべきだわ!」


 怒りのあまり身を乗り出すスカーレットを、トーレスはギロリと睨みつける。


「……そもそも俺はエリザベス様を聖騎士筆頭と認めていない」


「なっ!?」


「……俺達の筆頭は、真に実力と経験を兼ね備えたガーランド様であるべき。エリザベス様では力不足」


「トーレス! 不敬であるぞ!」


 あまりの物言いに、普段は冷静なカイウスまでも声を荒げる。

 エリザベス、スカーレット、カイウス。対するガーランド、パルチヴァール、トーレス。両勢力の睨みあいによって会議室は一触即発の空気に包まれる、その時──。


「いいかげんにしろ!」


 ──会議室に響くゼノン王の一喝。


「国民に危機が迫っているのだぞ! くだらんことで言い争うな!」


 ゼノン王の一喝によって両勢力は矛を収める、歴戦の聖騎士達すら静まらせる凄まじい威圧感だ。


「しばらくの間は全聖騎士に王都ロームルスの警備を命じる! これは国王命令だ、逆らうことは許さん!」


 ゼノン王の命を受け、九人の聖騎士は一斉に立ちあがる。


「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」


 こうしてゼノン王の鶴の一声によって、聖騎士達の集いは幕を閉じたのであった。

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