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戦闘開始!

 渦巻く暗雲に蓋をされ、地上は不気味な薄暗さに包まれる。


 ここはロアーナ高原。ロアーナの町北部に位置する、見晴らしのよい草原地帯である。

 地平線まで続く緑の大地は、見る者に穏やかな気持ちを芽生えさせること間違いない。しかしそれは平時の話だ。高原のあちらこちらでは、ロアーナ要塞の兵士達が陣形を組み魔物の襲撃に備えている。巨大な投石機まで配備されており、高原は戦い前の緊張感に満ち満ちている。


「はぁ……やっぱり戦場は苦手だわ……」


「戦前の緊張感……胸が高鳴る、心が燃える! なあ姉上!!」


「うぅ……燃えないわよ……」


 小高い丘の上に敷かれたロアーナ軍の本陣からは、クリスティーナとエリザベスが戦場を眺めている。

 魔物との戦を前に、ふつふつと戦意を向上させるエリザベス。一方のクリスティーナはずいぶんと憂鬱そうだ、数分おきに深いため息をついている。

 そんな中、最前線から兵士の声があがる。


「見えたぞ! 魔物の群れだ!」


「あれはウルフと……サーペントもいるぞ!」


「それだけじゃない! オークとグリフォンもいる、凄い数だ!」


「あの巨大な影は……トロルだ!」


 地平線を埋め尽くす、多種多様な魔物の群れ。

 かつてロームルス学園を襲ったオークやグリフォン。ウルフやサーペントといった、動物に近しい小型の魔物。人の背丈ほどもある棍棒を振るう巨大な魔物“トロル”。

 どの魔物も赤黒く変色しており、その光景は異様としか言いようがない。さらに──。


「おい待て! あの後ろにいる魔物は……まさかキマイラか!?」


「キマイラだと!? 討伐難易度Bの魔物だぞ!」


 獅子と山羊の頭に、蛇の尾を持つ凶悪な魔物“キマイラ”まで出現する。

 あまりにも異様、そして凶悪な魔物の大群に怖気づくロアーナ軍、そこにエリザベスから檄が飛ぶ。


「ロアーナの兵士達よ! お前達は勇猛果敢にして歴戦の兵士だ、魔物ごときに後れを取るはずはない! ロアーナ軍の誇りにかけて、ロアーナの町を守るのだ!」


 一度は怖気づいたロアーナ軍の兵士達、しかし総大将エリザベスの檄で一気に戦意を高揚させる。


「「「「「うおぉぉーっ!!」」」」」


「よし、では作戦通りいくぞ! まずは投石部隊、攻撃開始だ!」


「「「はっ!」」」


 エリザベスの指示を受けて、投石機から緑色の丸い物体が発射されていく。


「よし次だ! 姉上の出番だぞ!」


「分かったわ……風矢魔法、セミヨンアロー……」


 クリスティーナが放った魔力は、大気の矢となり戦場を駆け抜ける。無数に放たれた大気の矢はグネグネと軌道を変えながら、宙を舞う緑色の物体を射貫く。すると緑色の液体が魔物の群れへと降りかかり──。


「ウォッ!? ウオォンッ!」


「シャッ! シャアァァッ!?」


「ハッハッハッ! “超激臭、魔物避け爆弾”の威力は凄まじかろう!」


「うぅ……ここまで臭いが漂ってくるわ……」


 もがき苦しむ魔物の群れ。投石機から放たれた緑色の物体は、ベッポの店で売られている対魔物用臭い兵器だったのである。驚異の激臭は変異した魔物にも効果抜群だ。さらに──。


「投石部隊! 次だ!」


「「「はっ!」」」


 エリザベスの指示で、今度は紫色の丸い物体が発射されていく。


「さあ姉上! よろしく頼む!」


「うぅ……臭いわ……セミヨンアロー……」


 クリスティーナの魔法に射貫かれ、空中で弾け飛ぶ紫色の物体。飛び出た紫色の液体は、魔物の群れへと降りかかり──。


「グオォ……グオォォッ!!」


「クオォッ! クオォッ! クオォッ!」


 液体を浴びた魔物の群れは、敵味方の区別がつかなくなってしまったかのように、近くの魔物へと襲いかかる。


「ハッハッハッ、ベッポの店の商品は凄まじい威力だな! そして凄まじい臭いだな……」


 こちらもベッポの店で売られている対魔物用臭い兵器、その名も“悶絶激臭、魔物混乱爆弾”である。臭い兵器の直撃を受けて混乱した魔物の群れは、同士討ちで数を減らしていく。変異した魔物まで撃退してしまうとは、臭い兵器恐るべし。

 しかし中には臭い攻撃を突破して、ロアーナ軍の方へ向かってくる魔物もいる。


「やっぱり……抜けてくる魔物もいるわね……」


「しかし数は削った、十分すぎる成果だ!」


 そう言うとエリザベスは、剣を抜き放ち天高く構える。


「いくぞ兵士達! 魔物共を蹴散らせ!」


「「「「「おぉぉーっ!!」」」」」


 そして、大激突が幕を開ける。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 一方そのころ──。


「どうじゃ? 似合っておるか?」


「「「「きゃーっ! 可愛いーっ!!」」」」


 ロアーナの町では、下級クラスの生徒達が課外授業を楽しんでいた。

 色鮮やかな民族衣装に身を包み、クルクルと回って見せるウルリカ様。あまりの可愛らしさに、ヴィクトリア女王、オリヴィア、シャルロット、ナターシャの女性陣は大盛りあがりである。


「なあ……ヘンリーよ……」


「どうしましたシャルル」


「自分達はロムルス王国に伝わる民族衣装を見学に来たはず、なぜウルリカ嬢のお披露目会をしている……?」


「さあ……なぜでしょうかね……」


 女性陣とは対照的に、男子達はまったく盛りあがっていない。しかし大盛りあがりの女性陣は、そんなこと気にしない。


「次はこれを着てみてくださいですの!」


「いいえ! ウルリカ様はこっちの衣装が似合うと思います!」


「リヴィは分かっていませんね、ウルリカさんはあちらの衣装が似合いますよ!」


「違うわよみんな、ウルリカちゃんに似合う衣装は……これよ!」


「どれもステキな衣装じゃな、迷ってしまうのじゃ!」


 緊迫した戦場のことなどつゆ知らず、課外授業を楽しむウルリカ様達なのであった。

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