9. スウィート・エクスプレス
――その後、小一時間程ブラックフラッグスの怪人たちについてあれこれとメンバー内で話合っていたが、また突然モニターが点灯して関谷が画面内に現れた。
「第一高隊第三課の諸君、傾聴せよ」
その第一声で、ケイ達はモニターの前に集まる。
「うむ、全隊揃っているな。では通達をする。先刻第三高隊第二課の救護任務に当たっていた我が隊の第二魔法少女隊が敵と遭遇、戦闘状態となった。既に戦闘は終了しているが、負傷者が出ているとの報告があった。因って第一、第三、第四の各隊は、スキルスーツを着用し、現場に急行し負傷者の救出を行うように。以上」
関谷はモニター内で敬礼をし、通信を終わらせた。
「え? 今から行く……のね?」
ケイはまだブラックフラッグスについての情報を殆ど何も知らないままで、心の準備が殆ど出来ていない状態だったが、命令が出た以上は出撃しなければならないことも理解していた。
「そうよ。でも大丈夫だと思う。既に戦闘は終わっているし、戦場の空気を感じるには丁度良い任務だと思う」
和泉が安心させるようにそういった。
そしてクローゼットに向かいながら隊員に告げた。
「今から三、いや、今日は五分でいいわ。五分後、全員スキルスーツ装着し、寮のエントランスホールに集合!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「え? あぁ、了解しました!」
ケイだけ敬礼が遅れたが、初出動のため誰も何も咎めなかった。
――ケイ以外の隊員はスキルスーツに着替えるために自室に駆け出していく。
「ケイ、ちょっと待ってね。あなたにはスキルスーツの着用方法から教えるから」
和泉はクローゼットの中から黒色のスキルスーツを取り出して、あっという間に全裸になり、抜群のプロポーションを惜しげもなく披露し慣れた手付きで瞬時にスキルスーツを着用する。
その後、ブーツ、手袋、マントと次々と身に着けていき、最後に完全に頭部を覆う形状をしたフルフェイスのヘルメットマスクを装着。
――服を脱ぎ始めてから着替え終わるまで四十五秒だった。
スキルスーツを身に着けた和泉は、まさに戦隊モノのヒーローといった出立ちである。
全身漆黒のスキルスーツで、部分部分にゴールドの幅広のステッチが施され、ベルトの部分は全てゴールド。
フルフェイスマスクの額の部分についているシンボルマークはカタカナの『メ』の様な模様が稲妻となってあしらわれていて、その部分もゴールドに光っていた。
「――優ちゃん……。かっこいい……!」
「何呑気な事言ってるの! あなたもスキルスーツに着替えるのよ! さっ、一緒にあなたの部屋に行くわよ!」
ケイの手を取り引っ張ってケイの自室まで来た和泉は、「そのクローゼットを開けて。そこからあなたのスキルスーツと装備品を出しなさい、急いで!」とケイを煽った。
ケイは言われるがままにクローゼットを開けると、そこには真紅のスキルスーツと専用の装備品が鎮座していた。
「こんなのさっきまで入ってなかったのに……」
「そう、スキルスーツは司令官の許可が出た場合にのみクローゼット内に出てくるの。平時には奥に格納されていて装着出来ないようになっているわ。とにかく早く着替えなさい!」
そう急かされて、ケイはあたふたとスーツを着用しようとした。
「なにやってるの! 服は全部脱ぐの! 下着も全部よ!」
「え? そうなの?」
ケイは、さっき和泉が着替えているのを見ていた時、確かに全裸になっていたのを思い出した。
「うん、わかった」
ケイは着ている服も下着も全部脱ぎ散らかして、スキルスーツに袖を通した。
「ちょっとサイズが大きいような……」
「それはそう出来てるの、着易いようにね。完全に着終わったら自動で身体にフィットするように調整されるから、急いで着用しなさい」
言われるがままにスキルスーツを着用して、装備品を身に着けた後、最後にフルフェイスマスクを手にする。
ケイのスキルスーツは全部が赤色で統一されていてステッチの部分はブラックで、マスクには『炎』の漢字を崩したようなデザインのシンボルマークが施されていた。
「――これもかっこいい……」
「いいから、早く!」
玄関にあるエントランスホールに和泉と行くと、既に他の隊員は揃っていた。
みのりは全身青色のスーツに赤いステッチの装飾で、マスクにはカタカナの『レ』が三つ並んでいるようなシンボルマーク。
「あ、来た来た!」
ソウコは全身緑色のスーツでピンク色のステッチ。マスクには渦巻のようなシンボルマーク。
「遅いけど、今日は仕方ないか」
ジュンは全身桃色のスーツで、更に深い桃色のステッチ。マスクにはハートのシンボルマーク。
「ケイちゃん、かっこいいー」
「これで全員揃ったわね。では、第一高隊第三課第三魔法少女隊出動!」
和泉が颯爽とマントを翻し寮にある専用駐車場向かって駆け出すと、残りの四人も和泉を追いかけるように走り出した。
「駐車場に行くの?」
「うん。『スウィート・エクスプレス』があるから、それに乗っていくの」
「『スウィート・エクスプレス』はジュンたち第三魔法少女隊の専用車なんだよー」
「やっと乗れるねー。今まで火属性の子居なかったから私達ちゃんと出撃出来なかったもんね」
「そうそう、いつも別の班の火属性の子が同行だったから、なんだかしっくりこなくてね」
『スウィート・エクスプレス』に乗り込んだ五人は狭間島に急行した。
――『スウィートエクスプレス』は、六メートル程の長さと、三メートルを若干超える幅広の車体に、大きく迫り出したボンネットが特徴。
湾曲したフロントガラス等のガラス面は完全防弾仕様で、至近距離からのアルティメットナパーム(この弾頭一発で淡路島の四分の三が消滅する威力)の着弾にも問題なく耐えた。
車体には五人のイメージカラーのラインが前部から後部のエンジンルールまで引かれ、後部ドアからリアにかけて大きな天使の羽のようなモチーフが左右にあしらわれていた。
ルーフには高性能レーダーが完備。
武装は、ボンネットの上部に主砲として日本軍強襲車両標準装備と同等の荷電粒子砲、前に大きく迫り出したフロントグリル脇に副武装の十八ミリ重機関銃を二門装備。
車体後部に搭載のパワーユニットは、オールドタミヤ製のディターミネイティブモーター。それを三基搭載し三千馬力を発揮する。
その爆発的な馬力を地面に伝えるタイヤはスキルスーツの繊維を利用した素材で出来ていて、流れ出た溶岩の上や南極の永久凍土の上など、路面状態の如何を問わず走行可能だった。
更にマイクロ放射能除去装置も備え付けられていて、核爆発直後の爆心地でも支障なく移動及び行動可能というモンスターマシンだった。
ご意見や感想、ブックマーク、よろしくお願いします!