8. ブラックフラッグス
「――非常招集? とりあえず優ちゃんの所にいけばいいのかな、急がなきゃ」
全裸になっていたケイは急いで身支度を整えて和泉の部屋に向かった。
和泉の部屋は隣の隣、つまりみのりの部屋の隣だった。部屋から飛び出すとみのりやソウコも同時に廊下に出てきたところだった。
「非常招集ってなにかあったの?」
「多分ね。とりあえず優ちゃんの部屋に行ってみよ」
和泉の部屋の中はケイの部屋と特に違いは見当たらなかった。
ただ一点、和泉の部屋には非常招集時にだけ使用するテレビモニターが設置されていて、重要な命令はそこから各魔法少女隊に司令が伝達される仕組みになっていた。
非常招集時は担任の関谷は司令官となる。
そのモニターには真ん中に関谷、そしてクラスの全員が班ごとになりモニターの四隅に映し出されていた。
「第三魔法少女隊、遅い!」モニター内の関谷が言う。
確かにまだジュンが来ていなかった。
「――遅れましたぁ、ごめんなさぁい」
ジュンが大きな胸を揺らしながら和泉の部屋に駆け込んできた。
「よし、これで私の配下の全魔法少女隊は集結したな。……では伝える。本日物資護衛任務に当たっていた第三高隊第二課第一魔法少女隊所属のメンバー二人が行方不明になったとの連絡が先程入った。ブラックフラッグスに拉致されたものと思われる。今月に入ってまだ二週間しか経っていないのに、既に五人目だ。因って捜索隊を出すことになった。我が第三課からは第二魔法少女隊を送り出す。第二魔法少女隊は至急スキルスーツ着用。ただちに司令官室に来るように。残りの魔法少女隊はそのまま待機。次の通達を待て。以上だ」
ケイは関谷が言っていることがよく理解できなかった。
その不安げな顔をみた和泉が話しかけた。
「――司令官の言ってる事が分からなかった? じゃ教えてあげるわね。まず所属については、今回被害にあったのは『第三高隊第二課』に所属している人たちだって言ってたでしょ。あれはわかりやすく言うと、高校三年の二組って事。で、そこの第一魔法少女隊のメンバーがブラックフラッグスに拉致されたって話だった。私達に置き換えれば、第一高隊第三課第三魔法少女隊ってことになるわ」
「あぁ、そういうことなんだね。それで、今月に入って五人も拉致されてるって……?」
「そうね、ブラックフラッグスは物資を奪うだけではないの。それを護衛している私達の誘拐も行ってるみたい」
「どうしてそんなことを!?」
「それについては私もわからないの。毎回護衛任務は凄く危険が伴うから、精鋭部隊が選抜されているのだけどね……」
ソウコが横から口を挟む。
「それに拉致されたメンバーで帰ってきた人は誰もいないから、尚更原因が不明なんだって」
ジュンが小さな身体を震わせながら『怖いですー』と言う。
和泉はそんなジュンに『よしよし』と頭を撫でながら毅然とした態度でケイに言った
「でも私達も行けと命令されたら行かなければならないし、そのために毎日訓練をしてるんだからね。悪党どもは倒さなければいけないの。この国と世界のために。私達はそれが出来るのよ。がんばりましょう」
ケイはこれまで彼女も作ることが出来ず、三十年間も童貞のままで自分のことを下らない人間だと卑下していた。
しかし、エリザベスウイルスが発症したお陰で生きる目標が出来たし、誰か人のためになる、役に立つと知って、寧ろずっと童貞だった事に感謝した。
「……それなら、日本人全員がウイルス発症させたらいいかも……?」
ケイは何となく思ったことをつい口走ってしまう。
「ケイ、それだと日本は世界から孤立してしまうわ。あなた今日オーバースキルアタックしたでしょう? あんなのがそこらじゅうで使われたらどうなると思う? それに人間は良い人ばかりじゃないのはわかってるでしょう?」
和泉にそう言われて、ケイは俯くしかなかった。
確かにこの力は尋常ではない。
「あぁ、そうだ。優ちゃんちょっと訊きたいんだけど?」
「うん、なに?」
「私達ってスキルを使ってすごい攻撃が出来るのはわかるんだけど、敵もそれと同じことができるって事? そうじゃないとメンバーを拉致したりできないと思うんだけど……」
「私が知っている範囲だと、やつらはスキルアタックは使えないはず。ただ身体能力が異常に高くて、常に一体のリーダーと数名の闘員で行動してるわ。そのリーダーは動物や昆虫などの力を取り込んだ独特の攻撃をしてくるの……。写真あるから見てみる?」
和泉は自分の携帯端末を取り出して、その中に保存されているブラックフラッグスの画像をケイに見せる。
「こ、これって人間? なんて言うか……怪人?」
写真にはリーダー格の狼が人間と混ざったような恐ろしい風体のものと、それに付き従う全身真っ黒でピチッとした戦闘服を装備した忍者の様な戦闘員だった。
「そうね、怪人。こいつはウルフキラー。そしてこれがインセクトキング」
次に見せた写真にはカブトムシの頭、背中には光沢のある黒茶色の装甲のような殻を装備した別の怪人が写っていた。
「こんなのと戦うの?」
「そうよ、それが私達の使命だから。でも負けないわ。私達にはスキルアタックがあるもの」
ブラックフラッグスの実態を初めて目の当たりにしたケイだったが、それに臆することはなかった。
ご意見や感想、ブックマーク、よろしくお願いします!