5. オーバースキルアタック
「まずね、初めてだから身体の前で神様に祈るような感じで両手を合わせてみて。そして目を閉じて意識を集中して、自分の周りにある……、そうね、ケイなら水素を探してみて」
ケイは言われた通りに集中して自分の周りにある水素を探す。
水素単独は、空気中に0.5ppm程度しかないが、一旦燃やすと二千度もの高温になる。
それを容易に集めて高温高熱の爆発を起こすのが、ケイのスキルアタックだった。
これはこの島に居る者たちなら、属性は違うが全員同様のことが行えた。
「さっ、それが見つかったら自分の前で一つにまとめて、前に放出するイメージを思い浮かべてみて」
「うーん、こうかな?」
ケイは炎を目の前の人型の模型にぶつけるイメージする。
「それを放出する瞬間にスキルネームを詠唱して! ケイなら『デ・ファイア』よ!」
「デ・ファイア!」
――ケイがそう唱えた瞬間、目の前の空間が歪み、そこから火炎が吹き出す。吹き出したその火炎は人型の模型を焼き払い、更に後ろの壁をマグマのようにドロドロに溶かした。
「ちょっと、ちょっと!」
「うわ、ヤバい!」
「これは、凄いですー!」
「え?」
第三魔法少女隊の全員が驚いて一同に驚嘆の声を上げる。
それを横目で見ていた山口が慌てて彼女たちの元に走ってきた。
「ちょっと、これどうしたの?」
「えっと、ケイにスキルアタックの仕方を教えたのですけど、初めてだったので上手くコントロール出来なくて暴走したみたいです」
「まさか、最初から『オーバースキルアタック』を教えたの?」
山口はソウコから端末を受け取り、その数値を確認したが計測不能となっていた。
「いえ、ただの『デ・ファイア』なんですけど……」
「こんな事って……。北川さん、ちょっとあなたこっちに来なさい。それから全員集合して」
集合の合図で、クラスの全員が集められた。
「今からちょっと試しに北川さんに『オーバースキルアタック』を使わせてみます。今は授業中でみなさんは『スキルスーツ』を着用していないため、ここに避難しててもらいます」
――スキルスーツは戦闘時に着用するもので、対物理、対スキルアタックに特化した強化スーツだった。それを装着している時は一般的な物理攻撃は無効化したし、スキルアタックも中程度のものならば完全に防ぐことが可能だった。
このスキルスーツは、日本軍がこの群島で極秘裏に開発・実験を行っていて、その結果、日本軍は世界で最強の防御力を誇るまでになっていた。
「では北川さん、ちょっと急だけど今から『オーバースキルアタック』をしてもらいます。この結果で、あなたのスキルレベルが明確になり、今後の指導方法に変更を加えないといけないのです。それを知るために、ここで『オーバースキルアタック』にトライしてもらいます。ただしかなりの高威力の攻撃になるため、他のみなさんには一時的にシールドを展開した場所にいてもらいます」
山口はオーバースキルアタック『アルティメット・シールド』を展開した。
「さ、北川さん、さっきと同じようにスキルアタックをする体制を整えて。そして今度は自分が今出来る最大の力を振り絞ってみて。それから次にスキルアタックを仕掛けるときに詠唱するのは、『ハルマゲドン・ファイア』というのよ」
「ハルマゲドン・ファイア?」
「ハルマゲドン・ファイア!?」
「うそ……」
ケイがそう言うのと同じタイミングで、クラスの何人かがざわつく。
「いいから、やってみなさい!」
山口にそう言われて、ケイはさっきと同じように身体の前で手を合わせ、指を絡ませて集中する――。
今度は言われた通り前回より多くの水素原子を出来るだけ大量に集め、自分の周りが水素で埋まってしまう程になったと思った時、思い切りそれを燃焼して放出するイメージを思い描く。
「ハルマゲドン・ファイア!」
ケイが詠唱した瞬間、先程とは全く違う、とてつもない大きな空間の歪みが発生して、その中心から爆音と共に紅蓮の炎がケイの前方向百八十度に渡って吹き出した。
後ろに下がっていた山口や生徒たちからは、前方にいるケイの向こう側には真っ赤な壁しか見えなくなる――。
――数秒後、彼女たちが見たものは、完全に溶けて無くなってしまった実習教室があった場所と、その隣にあったはずの化学実験室の瓦礫が無残な姿を晒しているものだった。
「これは……」
山口は唖然として言葉が出ない。
「あわわ、ど、どうしよう。みんな無くなっちゃった」と呟いた途端、ケイはその場に倒れて動かなくなってしまった。
「ちょっと、北川さん! 大丈夫? 誰か彼女を保健室に運んであげて……」
ケイは意識を失いながら、微かに呼びかける山口の声が遠くに聞こえた。
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