3. スキルアタック
――キンコンカンコーン
「――今日の授業内容は今後、島で暮らしていくのに知っておかなければならない重要なものです。みなさん、忘れないように」
「ね、ケイ。次の授業なんだっけ?」
佳祐は女子高生化してからは、北川佳祐ではなく、北川ケイとなっていた。
話し方がいつの間にか女の子っぽくなっていたが、思考した言葉が口から出ると自然とそうなっていた。
しかもその事には何の違和感もなく、当然のように話をしていた。
そんなケイに話しかけたのが『相生実』だ。
中肉中背のごく普通の体型で、可愛いたぬき顔のショートカット。
みのりはその柔らかい見た目と違ってはっきり物を言う性格で、普段は大人しめなケイだったが、何となく馬が合っていた。
「次はね、えっと、実習ってなってるよ?」
ケイは補給品である専用の端末で次の授業内容を確認して、みのりにそう言いながら『実習』の内容が分からずにいた。
「実習か。ケイは実習初めてだっけ?」
「うん。なにするの?」
「んとね、簡単に言うと魔法の練習、みたいな?」
「魔法?」
「そだよ、ケイも何か使えるでしょ? あんたは『火属性』だから、ばーっと燃やしたりとか?」
「え? 燃やす?? 何を?」
「そりゃ、燃やしたいものなんじゃないの?」
「……?」
「――二人とも、早く移動しないと間に合わなくなっちゃうよ!」
そう言いながら小走りで教室を出ていくのは『綾小路草子』。
華奢でツインテールにした髪が特徴で、ミニスカートからスラッと伸びた脚が健康的な、まさにスポーツ少女といった雰囲気の可愛い女子だった。
「ちょっと待って、私トイレに――」ケイが言いかけた。
「あ、私トイレに行く。待っててくれる? あ、ケイも行くのね。じゃ一緒に行こ」
みのりに誘われて二人でトイレに行くことになったが、これがケイにとってはまだ馴染めない一番のことだった。
今までは立って用を済ませ、『ブルンブルン』と振切って、さっさと戻れば良かったのだが、今では全然違う。毎回便座に腰掛けるし、終わった後一々拭き取らないといけないのである。
――面倒くさい……。
それに、股間に何も付いてないことが不安になる瞬間でもあった。
『いつになったらコレに慣れるんだろうな、私――』
――――――――――――
実習教室は体育館のような建物だった。
ただ一般の体育館と違うのは、全面が分厚いコンクリートのようなもので囲まれていて、所々に焼け跡やえぐられたような跡が幾つもあり、体育をするような場所ではないことは一目瞭然だった。
実習教室には既にケイ達以外の全員のクラスメートが揃っており、実習教官の山口が腕を組んで立っていた。
「さて、今日は先日入学してきた北川のお陰で、ようやく第三魔法少女隊が完成し本格的な訓練が可能になった。因って今日は実践的な訓練を開始することにする。北川はまだ何もわからないだろうから、和泉、ちゃんと面倒をみてやれ」
山口にそう言われ、和泉はケイの方を見て『はい』と応える。
ケイのクラスは二十人のクラスメートがいるが、その全員が魔法少女隊という班に分かれていた。
ケイはその中の第三魔法少女隊に所属することに決まってた。
同じ魔法少女隊にいるのは、和泉優子、相生みのり、綾小路草子、相間ジュン。そしてケイの五人編成だった。
ケイは事態がよくわからず、和泉に尋ねる。
「どうして私がこの魔法少女隊……、に?」
「ケイは火属性でしょう。私達第三魔法少女隊には火属性の人が居なくて、グループとして活動することが制限されていたの。転入生が来ると先生から聞かされた時、私が最初に聞いたのは『新人の属性はなんですか?』だった。それが火属性だと判った時……、私は本当に嬉しかったの!」
そういって嬉しそうにケイを見つめる和泉の熱視線で、背筋が寒くなる気がした。
「――と、ところで私が火属性で、というのはいいんですけど、他の人も?」
「いいえ、そうではないの」
「私は属性で言えば『闇属性』よ。みのりは『風属性』、草子は『水属性』。そしてジュンは『愛属性』になるの」
「じゃ、みんなバラバラの属性なんですね?」
「そう。というかこの五属性が揃って初めて魔法少女隊が組めるの。それと、敬語は止めてね、同じ魔法少女隊なんだし。それから私の事は優子でいいわ」
「はい、あ、うん、わかったよ、優子……、優ちゃんでいいかな? それで、なんでその五属性が揃わないとだめなの?」
「それはね……」
と和泉が説明をしようとしたところで、山口が本日の実習内容の説明を始めた。
「今日は、このクラスの全魔法少女隊で五属性が揃ったので、『フォーメーションアタック』を含めた属性攻撃の練習を行うこととする」
――属性攻撃?
ケイは属性について何となくそういう能力みたいなものがあるとわかったが、『攻撃』というところに引っかかった。
――攻撃をするということは何かと戦うということ……?
「優ちゃん、ね、優ちゃん」
「ん? なに?」
「もしかして、私達って誰かと戦ったりするの?」
「そうよ、私達は黒島の『ブラックフラッグス』と戦わなければいけないの」
「ブラックフラッグス?」
ケイは聞き慣れない言葉に戸惑った。
「やつらは、狭間島に到着した物資を強奪するし、光島の島民を拉致したりするの。だから私達がそれを防がないといけなのよ。それが私達の使命。魔法少女になってしまった私達の宿命っていうのかな……」
「宿命……?」
「そう……だと思うわ。もう私達はこの群島から出ていくことは出来ないし……。それに『ブラックフラッグス』を倒さないと、やつらは、いつか外界に出て世界を混乱に陥れる。それは絶対に阻止しないと――」
和泉は整った美しい顔をした美少女だったが、そう話す彼女の瞳の奥に強い意志を感じた。
「そういうことなのかぁ……」
ウイルスが発症して自分の意思に関係なく性転換してしまったが、可愛い巨乳の女子高生となり、ちょっと楽しい気分だったし、何でも出来る気になっていたのかもしれない。
『ブラックフラッグス』などと言う悪党どもと戦わなければならない宿命が待っていたとは思いも寄らなかったが、「なんとかなるかな」と、どこか他人事のような気楽な気持ちのケイだった。
しかし、その後『ブラックフラッグス』と思ってもいない運命の出会いが待っているのを、今はまだ知らないケイだった。
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