#5
「じゃあ、つゆりとゆうくんは何でもないんだね?」
「そう。桧山はつゆりに秘密を知られて言いなりになってただけだった。ちゃんと真実を聞き出したんだからもういい?」
全てを知って、れいに情報を渡した。
流石に、つゆりのお母さんが桧山のお母さんだなんて言えないけど…。
「ありがとう…あのさ、こっちゃん。」
「何?」
「告白…しようかな。ゆうくんに。」
予想通り。
まぁ、そうだよね。普通。
全然、止める気は無い。
れいは…私の知らない優雨を知ってる。
たとえこれで、れいと桧山が付き合うことになったって…。
「いいと思うよ。つゆりと何もなかったって事は、彼女居ないんだし。私なんかとっくの前に振られた身だよ?それに、気持ちは伝えた方が絶対良い。」
「こっちゃん!ありがとう。」
何故か、胸が痛かった。
私が桧山と別れた理由…それは、お互いに嫌いになったわけではない。
中学3年の6月、体育祭が終わった後。
桧山から言い出した。
桧山は体育祭の間もずっと保健室に居て、私達と一緒に競技に参加したりはしなかった。
そんな桧山が心配で、帰り際に保健室に寄ったんだ。
桧山は、窓からグラウンドを眺めていた。
運動委員会の人たちが、夕焼け空の下、グラウンド整備を行っている。
知らなかった。
保健室の窓からなら、丁度運動場が眺められるんだ。
窓の外を見ながら、何か考えている様子だった。
そして、しばらくして、桧山は口を開いた。
「俺がこんなんじゃ、心珀の事、ちゃんと見てあげられないから」
桧山は、そう言っていた。
だから、高校に上がって保健室登校を辞めたのも、強くなろうとしたからなのかもしれないって、思う時がある。
私は知っている。
優雨が、本当はそんなに強くない事。
今でも時々、音楽室でピアノを触っている事。
ピアノなら家にもあるだろうに何でって…まぁ、それももう分かってる。
音楽室にいる時、桧山が待っているのは母親じゃなくて、私。
桧山はきっと、母親からも逃げて、私からも逃げて…一人で苦しかったと思う。
ずっと、心の何処かで分かってた。
それなのに私は…
気づかないふりをしていた。
桧山はずっと、私の事を思っていてくれたのに…。
桧山から逃げたのは…私か…?
立ち向かってる桧山と逃げてる私。
あぁ、なんだ。
私、桧山よりずっと…弱いや。
「こっちゃん?どうかした?」
ちゃんと向き合おう。
桧山にも、れいちゃんにも。
「ううん、いってらっしゃい!れいちゃん。」
そう笑ってみせた。