♯2
雨音が聞こえる…。
どうやら今日の天気は雨らしい。
こんな日は何となく、布団から出たくなくなる。
ーブブッ…ブブッ…
枕元のケータイが、しきりに振動する。
…朝から誰。
徐ろにケータイの画面に触れる。
志野…。
『桧山?近くまで来たから今から行くから。』
今からって…。
父さんは…いる気配がしない。
もう仕事に行ったんだろう。
家は一人…か。
仕方がない…。
怠い体を起こし、着替えると、インターホンの音が響いた。
「桧山ー?いるんでしょう?早く出なさいよ!」
外から叫ぶ声。志野だ。
「志野、急にどうしたの?」
ドアを開けると、傘をたたみながら、この雨の中私を待たせるつもり?とブツブツ言いながら、強引に玄関に入ってきた。
「何か用?」
「言っとくけど、私はそっちが何か聞きたい事があるんじゃないかと思ってわざわざアンタの父親がいない時を狙ってきてやったのよ?そんなこと言える立場なの?」
上から目線で話す志野。
こんなのでも一応お客様なので、それ相応の対応をする。
リビングに進み、お茶を出すと、
「お構いなく。っていうか、今ならなんでも答えるけど、聞かなくていいわけ?」
と言う。
「別に。…母さんの事なら、もういいよ。」
「そうやって、口では何とでも言える。おばさまがいなくなってから、本当に癒えてないのは自分なのに。」
ふー、とカップを冷ます。
「おばさまって…母親だろ。」
「私、認めてないから。お父様も麗華も、新しいお母さんだってすんなり認めて…。急に知らない女の人が家族だって言われても、私は認められないわ。」
「志野…まさかとは思うけど…。」
「ええ、私はすきあらばおばさまを桧山家に突き返したいと思ってる。何か文句でも?」
そう言って、カップのお茶を一気に飲む。
さっきから一向に目を合わせない。
「…嘘、下手だね。」
「は?」
「そうやって、俺の本音を誘おうってつもりなんだろうけど、残念ながら俺は今の母さんが幸せなら、無理に家に来てもらおうなんて思ってないよ。」
自分のカップを揺すりながら言った。
「それに…俺は良くても、父さんは良くないでしょ?」
「そう。わかったわ。今日はこの辺にしておく。あと、調理部、退部させておいたから。」
そう言って、志野は出て行った。
志野は本当はもう、母さんの事を本当の母親と認めてる。
母さんも、今の志野の家庭で上手くいってる。
ずっと…悩んでるのは…自分だけなんだ。
強くならないと。
カップを片付けながら、そう心に決めた。