♯1
「えっ!つゆり彼氏と別れたの?!」
彼氏、というのは、学年1女子人気の高い桧山優雨のこと。
つゆり自身も男子人気の高い女子ランキング1位である為、このカップルはある意味最強だった。
それが、最近別れたという噂が漂っていた。
当の栗花落は、
「別れたっていうか、そもそも付き合ってるっていうのがデマっていうか?部活一緒なだけで付き合ってると思ったの誰まぢ。」
と大笑いしている。
「そりゃだって、男子1人だけで調理部なんて彼女でも居ないと普通入らんっしょ!」
取り巻きたちもそう言って騒ぎ立てている。
一方桧山の方も、
「付き合ってないよ。」
と少々めんどくさそうに言う。
どういう事かと問いただすと、訳あって無理やり栗花落と同じ部活に入部させられ、言う通りにさせられていたとか。
ところで、何故私がこの2人の事を探っているのかというと、ある人に頼まれたからだ。
それも、半ば強制的に。
というのも、ある理由でその頼みを断れなくなったのだ。
ある理由、それは、私が桧山の中学時代の元カノだという事。
そして、私にお願いをしてきたある人こそ、その事を唯一知っている桜河れいである。
れいは桧山の幼なじみなのだが、小1の頃、親の転勤でしばらく都会に出ていて、最近帰ってきたという。
運がいいのか悪いのか、まさか桧山の幼馴染とは知らずに、れいと仲良くなってしまった。
れいに桧山と付き合っていたことを話したのも、単なる話の流れだった。
そして、れいの桧山に対する想いも知ってしまった。
でもこれは、完全に片思いだ。
話を戻すが、こんな訳で私はれいの言う通りに、桧山に事情を聴くこと…をしている。
クラスでもパッとしない私が桧山の元カノでした…なんてバラされでもしたら、今後の高校生活に支障が出るからだ。
「久しぶりだね。心珀。」
「うん…高校、一緒なのにね。」
本当は私が関わりたくなくて話しかけなかった…なんて言えない。
以前、れいにこんなことを聞かれたことがあった。
「こっちゃんさぁ、ゆうくんのことまだ好きなの?」
「私は…。ううん、好きじゃないよ。」
大嘘だ。私は、まだ…。
けど、今更そんなこと言って迷惑かけたらもっと嫌だから。
だから私は桧山と距離をとった。
近づけばきっと、気持ちを隠しておけないから。
それなのに…。
「ごめん、もう行くね。」
「心珀っ…嬉しかった…話してくれて。その…嫌われたと思ってたから。」
「嫌ってなんか…ないよ。」
それだけ言って、私は逃げるようにその場から去った。
れいは、ここまでして何がしたいのか。
いや、それはもうわかってる。
要は桧山とつゆりが付き合っているのかいないのか問題。
この真実を知りたがっている人は、おそらくれい以外にも山ほどいる。
最も、私には関係ない話だ。
もう私と桧山の間には…何も無いんだから。