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096 幼女のお茶会

「あれが僕の予約したお店です!」


 予定どおりに合流した俺たちはデザートビュッフェのお店へやってきた。

 四人掛けのテーブルへと案内してもらい、俺と社長、姫井と神宮寺が並ぶかたちで座る。


『デザート全56種類食べ放題』


 そのような表示に度肝を抜かれる。

 全32種類と聞いていた気がするが……。


「フルーツやプリンもあるのです」


 姫井の言葉に納得させられる。


「本当に全種類のケーキとタルトを食べるのですか?」

「もちろんです」


 役割分担を決めてデザートの種類が被らないように取ってきた。

 ケーキは小さめにカットされており、これなら全種類を制覇できる気がする。


 ちなみにドリンクは完全セルフサービスだ。


「社長は何を飲みますか?」


 猫舌だからアイスティーがいい、とのこと。

 姫井と神宮寺も同じリクエストだったので、テーブルには同じ飲み物が四つ並んだ。


 俺はチーズケーキをフォークですくい取りそれを社長の鼻先に差し出す。


「ほら、お口を開けてください」


 ペットに給餌するみたいで意外と楽しい。


「次はミルクレープでいいですか?」

「わ〜い」


 笑うと可愛らしいえくぼができる。

 本物の子どもを相手にしている気分だ。


 続いて抹茶のロールケーキを食べさせようとしたときだ。

 じぃ、と視線を向けてくる姫井の存在に気づいた。


「社長と須田くんは本当に仲がいいですね」

「まあね。以心伝心なんだよ。ソウルメイトだよ」


 社長がこちらの腕をクッションのように抱きしめる。


「ですね〜」


 この手のアクションに照れてしまう俺は、本当に以心伝心なのか怪しいけどな、と野暮なことを考える。


 すると姫井の目つきが変わった。

 苺のショートケーキをフォークですくい取り、それを神宮寺に食べさせようとしたのだ。


「ほら、神宮寺さん。お口を開けてください。いつも頑張ってもらっているご褒美です」

「おい、無理するな。言葉尻と手が震えているぞ」

「気のせいです。僕もやればできます」

「やればできるって……仕事かよ」


 表情がガチガチになっている姫井が、渋々といった感じの神宮寺に食べさせてあげる。

 この不器用さは神姫コンビらしい。


 一番楽しそうにしているのは社長だ。

 どう? と声をかけて神宮寺に感想を促す。


「美味しいといえば美味しいけれども……」


 神宮寺は一旦アイスティーに口をつけた。


「先週、ゆり姫がつくってくれたフィナンシェの方が美味しいな!」

「はう!」


 姫井は興奮のあまり脚をバタバタさせると、褒め言葉をゆっくり消化してから、手でOKサインをつくった。

 受け答えとしては及第点らしい。


「神宮寺さん、いい幼女になりましたね」

「何それ? いい男みたいな褒め言葉?」


 気分を良くした神宮寺がくしゃりと笑った。

 お返しとばかりにガトーショコラを姫井に食べさせてあげる。


「今日はこのお店を選んで正解でした」


 お口をモグモグさせる姫井はとても上機嫌だ。

 職場ではなかなか見られないリラックスした表情といえるだろう。


「姫ちゃん、次はタルトを取りに行こうよ」

「はい」


 社長と姫井がタルトコーナーへ向かうと、近くにいた成人女性たちが興味を示した。

 知名度のある社長はともかく、姫井まで人気なのは容姿と性格のお陰である。


「あいつ、女性から好かれるよな。あのルックスで一人称が僕だからな。周りからすると面白いんだろうな」


 神宮寺が面白くなさそうな声でいう。


 すっかり女性客たちと打ち解けた社長は、チューブ入りのチョコレートソースを見つけると、店員さんに許可をもらってから、姫井に何かを耳打ちした。

 お皿をキャンバスの代わりにして、プレゼント箱のイラストを描かせたのだ。


『誕生日のご友人がいるとのことなので。僕からささやかなプレゼントです』


 即興のサービスに感激した女性の口から『いやん!』『可愛い!』という黄色い歓声が飛び出してくる。

 姫井の評価は爆上げであり『家まで連れて帰りたいわ!』という声まで聞こえた。


『私たちと一緒に食べましょうよ』

『同席したいのは山々ですが……』

『もしかしてお連れさんがいるの?』

『はい、僕たちは同僚の四人で来ているのです』


 姫井がこちらの席を指差しながらいう。


『余人を交えると嫉妬されます。あの茶髪の幼女から。今日は彼女を(いた)わる日なので……』


 神宮寺がアイスティーを吹きそうになった。


「あいつ……いいやがった……人をダシにしやがった……調子に乗りやがって……」


 こめかみの辺りに青筋を立てながら手元のおしぼりを握りつぶす。

 これだと本当に嫉妬しているみたいだ。


「そういえば社長と流川さんって……」


 俺はチーズケーキの残りを平らげながら話題を変えてみた。


「個人的には仲がいいのですよね? だったら一緒に会社を立ち上げようという話にはならなかったのですか?」

「ああ……それ……。ルカにゃんは好きだからね。いのりのことが。服装まで影響されちゃってさ」

「だったら尚更という気がします」

「だからだよ」


 神宮寺はすぐに切り返してきた。


「似た者同士だから。生まれつきのリーダータイプ。一個の組織をつくるより別々の組織をつくった方がいいって判断したんだろうな。そりゃ、トップを複数置くっていう選択肢もあるけれど、それじゃ上手にいかないんだよ。人っていうのは組み合わせが大切だから。あえて異なる道を選んだんだよ」


 神宮寺がケーキにフォークを突き立てながらいう。

 俺は、なるほど、と頷いた。


「須田ちゃん、さっさとケーキを食べちゃいなよ。一番量が多いんだから。早くしないと処理が追いつかなくなるぜ」

「……ですね」


 生クリームでギトギトになった口の中にケーキを押し込んでからアイスティーで飲み下す。


「おまたせ。ちょっと会話が盛り上がっちゃってさ」


 そういう社長のお皿には宝石箱のようにカラフルなタルトがのっていた。

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