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095 社長ふたり

「今日は神宮寺さんたちと話せて楽しかったです。では瀬古先輩によろしく伝えておいてください」


 デモへ参加する流川たちが移動をはじめる。

 その時、龍造寺の目が何かを見つけた。


「おっ! 見てくださいよ、流川さん。あそこに金髪ロリ娘がいますよ。一人前にドレスを着ていやがります」


 渋谷。

 金髪ロリ。

 そしてドレス姿。


「……参りましたね」


 こちらに近づいてくる人物に気づいた流川が足を止める。


 龍造寺が気にしたのは姫井の存在であった。


 今日は頭には白色のリボンをつけており、全身を青色のドレスで武装している。

 それがブルーサファイアの瞳によく似合っている。


 襟元から伸びているのはミルク色の首だ。

 その上にイギリス産の顔がのっている。

 その視線が龍造寺をとらえた。


「はう! 見てください、社長! あそこに奇抜な幼女がいます! まさかの白髪です! しかもひと房だけ黒い! ミニスカートのサムライガールです!」


 ツインテールの人物が苦笑いした。


「私は姫ちゃんの方が奇抜だと思うけどな。確かに彼女もイカしているよね。んん? あれは確か……」


 姫井がパタパタと小走りにやってきて龍造寺の顔を見上げる。

 ロリコンセンサーが反応したらしい。


「ウィッグではない? 本物の髪? なかなか興味深いヘアスタイルです。最高に可愛いです」

「そりゃ、ど〜もっす。可愛いといわれたのは初めてですが……。お嬢さん、今日は渋谷でお買い物ですか?」

「いえ、社用でやってきました。これから同僚とケーキ&タルトを食べに行きます」

「社用? その服装で? これは随分と洒落ているな〜」


 龍造寺がもう一人の存在に気づく。

 それを姫井と見比べた。


「誰かと思えば瀬古さんじゃないですか。何すか? このお嬢さん、瀬古さんの部下なんすか? ということは? 瀬古さんが渋谷まで仕事で? 珍しいこともあるんだな〜」


 社長は今日もベージュ色のジャケットを着ている。

 もちろん下はタイトなスカートだ。

 それが流川と対になっている。


 取引先との打ち合わせは首尾よくいったらしい。

 爽やかなスマイルを浮かべて手を振った。


「久しぶりだね、龍造寺くん。彼女は姫ちゃんだよ。私の会社の経理担当だね」

「部下にすごい服装をさせますね。瀬古さんはこういうロリータ調が趣味なんっすね」

「いやいや、私が押しつけたわけじゃないよ。姫ちゃんが好きでやっているんだよ。もっとも……」


 社長は姫井の体を抱きしめると、周囲に自慢するように頭をナデナデしてあげる。


「とても大切な存在なんだ。一緒に会社を立ち上げた仲だからね。いまでも随分と助けてもらっているよ」

「へぇ〜。神宮寺さんや加賀美以外にもね、こんなロリータ娘がいるんすね」


 龍造寺は感心したように口笛を鳴らす。


「ゆり姫を舐めてもらっちゃ困るよ」


 横から口を挟んだのは神宮寺だ。


「うちの会社のリーサルウェポンだからね。IT企業に勤めているくせにパソコンの操作が苦手。病的なロリコン癖が玉に(きず)。怒らせるとメチャ怖い」

「ちょっと神宮寺さん。それだと僕がポンコツ兵器みたいじゃないですか。あと一般人並みのパソコンスキルは備えていますので悪しからず」


 姫井が相手の胸ぐらを掴みながらいう。

 かなり怒っている証拠なのだが……。


「長所を褒めろって?」

「そうです。先週の神宮寺さんみたく」

「それなら……」


 神宮寺は姫井の腰に腕を回すと、地面から10センチほど持ち上げた。


「先週に泊まったときに気づいたけれども、体重がメチャクチャ軽い! ほれ、幼女の私でも持ち上げられるぞ! ちゃんと飯を食っているのか心配になる軽さだ!」

「はぅ! ちょっと……」


 宙に浮いた姫井が抵抗するように足をバタバタさせるが、神宮寺を喜ばすだけに終わった。


「リュウゾーも挑戦してみるか? ゆり姫の重量挙げ。抱っこできたらご利益があるぞ」

「僕が怪我するのでやめてください! あと人を道具みたいに扱わないでください!」


 解放された姫井がドレスの乱れを整える。

 その顔が真っ赤なのは照れのせいか、怒りのせいか。


「そもそも神宮寺さんは体の発育がいいのです。そのことを自覚して手荒な真似は控えてください」

「ゆり姫は注文が多いな〜」


 神宮寺は胸の前で腕を組みながら笑う。


「お泊まりって……あの二人は社内恋愛しているんっすか?」


 龍造寺がこっそり尋ねてきた。


「ええと……泊まったのは仕事の一環みたいなやつです。社長の差し金みたいな」


 俺は表現をぼかしておく。


「へぇ〜、神宮寺さんが他の幼女とベタベタするのって意外だな〜。いつも仕事中心の人なんだよな〜」

「本人なりに変わろうとしているようです」

「なるほど〜」


 今日の渋谷行きだって休暇が目的だ。

 そのお陰でライバルの龍造寺と再会したのは、神宮寺に宿命づけられた皮肉という気がする。


 そして皮肉といえばもう一組。

 注目せずにはいられない人物がいる。


 幼女株式会社の瀬古いのり。

 カノープス・システムズの流川マキ。

 幼TECの二大巨頭ともいうべき幼女が遭遇したのだ。


『いまはライバル同士』

『仲良くしたら不自然でしょう』


 そのように断言した流川は、本物の瀬古いのりを前にして、はにかむような、バツが悪いような、複雑な表情をつくった。


 しかし、こういう場所で遠慮しないのが社長である。

 つかつかと寄ってから相手の服装と髪型をチェックした。


「やっぱりサイドテールが似合うね。ちょっと大人っぽい雰囲気があってさ」

「ありがとうございます。瀬古先輩もツインテールがお似合いですよ」


 先に火口を切ってきた社長に対して、流川は素直に感謝の言葉を述べた。


「こういう場所では流川さんと呼んだ方がいいのかな?」

「いえ、呼び捨てでいいですよ。長幼の序ですから。瀬古先輩はいつまでも瀬古先輩です」

「そうかい。流川のように才能ある後輩を持てたことは私の誇りだよ」

「身に余るお言葉です」


 流川がペコリと頭を下げる。

 わざと丁寧に振舞うことによって距離感を演出しているように見えた。


「最近、調子はどうだい?」

「お陰さまでビジネスは順調です」

「体の調子は? 社長業をやっていると時おり胃が痛むだろう?」

「ええ、毎日が勉強ですね。体を労わることをこの一年で学びました」

「人と金は足りているのかい? 成長スピードが早いだろう?」

「いくら集めても足りません」


 社長は矢継ぎ早に質問を浴びせてから、流川の肩をポンと叩く。


「いいね。流川はとても若い。すぐに私を超えるよ。カノープスのように。まっすぐ成長して。幼女株式会社よりも立派な組織をつくる」

「私は瀬古先輩の下で学びました。だから戸惑っています。私の会社の方が大きくなってしまった現状に。これじゃまるで……」


 流川の声が強くなった。

 かと思いきや、本心を押し殺すように口をパクパクさせる。


 そんな異変を見逃す社長ではない。


「カノープスは流川が育てた組織だ。それは誇ってもいい。私もカノープスの成長は嬉しく思うから」


 とても優しい言葉を返す。

 流川の肩から力が抜けるのが、俺の位置からでもわかった。


「瀬古先輩、幼女の権利を守る会に入りませんか? 千代田区統括は空きポストでして、隣の港区統括が兼務しています。いまなら瀬古先輩を千代田区統括に推薦できます」


 流川が手を差し出しながらいう。


「とても魅力的な提案だね」


 社長はその手を握らなかった。


「いちおう検討してみるよ。でも私は政治向きの話が苦手だからね。色よい返事は期待しないでいてくれると嬉しいかな」


 そして困ったように首をかしげる。


「瀬古先輩ならそう答えると思っていましたよ。ではまた。いずれ……」


 手を引っ込めた流川が歩き出す。

 それに釣られて他のメンバーも動き出す。


「いくよ、龍造寺くん」

「待ってくださいよ、流川さ〜ん!」


 神宮寺と話し込んでいた龍造寺は、上司の背中に追いつくべく、ミニスカートを揺らしながら走り去っていった。

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