091 幼コレの弱点
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幼コレ@公式アカウント
「幼コレのリリース400日突破を記念しまして人気キャラクター『サクヤヒメ』の特製フィギュアを抽選で二名様にプレゼント! たくさんのご応募をお待ちしております!
【応募方法】
(1)本アカウントをフォローします。
(2)このつぶやきをシェアします。
※当選者の方にはSNS内のDMにてご連絡いたします。
※写真は現物を手にする瀬古いのり代表」
フィギュアのキャンペーン案内。
投稿の一時間後には急上昇ランキングに食い込んでおり、幼コレ人気の高さを印象付けた。
※ ※
地下鉄で移動すること20分ほど。
迷宮のようになっている地下通路を進んでいく。
「出口……出口っと……」
エスカレーターには軍隊のように規則正しく人が並んでいた。
わずかな隙間に体を滑り込ませる。
東京に住んでいても慣れないものが三つある。
オシャレすぎる喫茶店。
オシャレすぎるレストラン。
渋谷・原宿エリアの人混みである。
つまり渋谷のオシャレな飲食店へいくのは苦手なのだ。
ちなみに社長とは別行動である。
『私は姫ちゃんと一緒に取引先へ顔を出すから。現地で落ち合おう』
フォーマルな服装で先に家を出ていった。
日曜日なのに普通に働くなんて熱心なことである。
俺は駅前の広場についた。
神宮寺からメッセージが一通きており『すまん。電車が遅延した。少し遅れるかも……』とのこと。
『了解です』
待ち合わせ時間まで10分くらいあるので、俺は幼コレのアプリを立ち上げた。
一緒に住むようになったせいか、社長からはよく幼コレの進み具合をチェックされる。
そしてイベント消化率が悪いと怒られる。
仕事が忙しいから……。
それを言い訳にすると叱られるので隙間の時間にコツコツと進めているのだ。
社長だって仕事は忙しい。
それでも幼コレと両立させている。
時間の使い方についてはプロ級といえよう。
「なあ、サクヤヒメのやつ応募した?」
気になる会話が耳に飛び込んできた。
「抽選で二名か……」
「欲しいなあ。厳しいけれども……」
幼女の三人組がスマートフォンを操作している。
そして俺と同じゲームをプレイしていた。
「こういう抽選って公正なのかな?」
「だと思うよ。友達が似たようなキャンペーンで当選したから」
俺が注目したのは彼女たちの腕の部分だ。
『幼女の権利を守る会』というピンク色の腕章がついていた。
ニュースとかで知っている。
いま日本でもっともホットな団体。
毎月2回か3回くらい集まって『幼女たちの恐ろしさ』を時の政権に知らしめている。
ピンク色の腕章はこの三人組だけじゃない。
ざっと見積もっても五十や百はいるので、今からデモに参加するのだろう。
「でも二名はちょっと世知辛いよな。運営元は儲かっているんだから、気前よく百体くらい配ってほしいな」
幼女の一人が愚痴っぽくいったときだ。
「けっこう一体の値段が高いので……」
思わず反射的に突っ込んでしまった。
怪訝そうな顔をされてから失言に気づく。
「なんだ、兄ちゃん。幼女株式会社の人間なのか?」
「ええと……」
マズいな。
あまり内部の人間が外でペラペラと話すのは良くない。
「取引先のさらに取引先みたいな……。担当さんと直接話す機会があったので……」
「へえ〜」
じっと好奇の目を向けられる。
「幼女株式会社、かなり儲かっているらしいな。やっぱり羽振りがいいのか?」
「世間様が想像するほどじゃないですが……」
またも失言。
「と担当さんはいっていました」
すぐに補足する。
「まあ、いいわ。どうせ幼女株式会社の勢いがあるのも一時だけ。もうすぐ幼コレも失速するからな」
「それってどういう意味ですか?」
「ここだけの話なのだが……」
幼女は周囲を気にしながら続ける。
「幼コレには致命的な弱点がある。そこに気づけば幼コレを超えるゲームを開発することは可能……と私たちの社長がいっていた」
これは聞き捨てならない情報だ。
「その弱点とは?」
「知りたいか?」
「ええ」
俺は先を促す。
「一部のユーザが幼コレを何と呼んでいると思う? ずばり貧コレだ。貧乳コレクションの略だな」
「それって弱点なのですか?」
「もちろん」
幼女は自信満々に頷く。
「幼女というのは成長して少女になる。やがて大人になる。なのに幼コレのキャラはずっと幼女のままだ。つまり貧乳のままだ。そこが弱点なのだよ……と私たちの社長がいっていた」
「まあ、それが幼コレのゲームコンセプトですから。貧乳というか、胸が成長していないのは仕方がない部分ですね」
「聞くところによると一人の人間がキャラクターデザインの原案を考えているらしいな」
姫井のことだな。
「ロリコンにすべてを任せるのが良くない。貧乳、貧乳、貧乳のオンパレードだ。これではプレイヤー層にかなりの制限を加えることになる……と私たちの社長がいっていた」
「ちょっと待ってください! それは選択と集中の結果ですよ! そこは我々の強みですよ! あと幼コレはシナリオ面でも高評価を受けています!」
ついつい熱くなってしまった。
「我々の強みって……やけに幼コレの肩を持つね」
「いや、担当さんが似たようなことをいっていたので。代弁しちゃいました」
「兄ちゃん、もしかして……」
「はい?」
疑惑を含んだ視線を向けられる。
「幼女株式会社の人間だな!」
とうとう正体を看破されてしまった。
周囲にいた『幼女の権利を守る会』のメンバーが一斉に色めき立つ。
「なんだって⁉︎」
「あの瀬古いのりの部下が⁉︎」
「この中に紛れ込んでいたのか⁉︎」
「しかも男かよ! 幼女じゃないのか!」
「騙された!」
どんどんヒートアップしていく幼女たち。
あっという間に包囲網が完成してしまった。
「瀬古いのりは意地でも『幼女の権利を守る会』に入らないらしいな!」
特攻服のようなものを着た幼女が迫ってくる。
俺を脅迫するように首の関節をポキポキと鳴らした。
「我々は幼女4,000万人の代弁者であるぞ! そこに瀬古いのりが協力しないとは何事である!」
別の幼女が拡声器を通して訴えてくる。
やばい、吊るし上げだ。
「いや、社長は本業が忙しいだけであって、何か他意があるわけでは……」
これも大失言だ。
火に油を注ぐだけの効果しかない。
「我々が暇だといいたいのか!」
「金儲けに夢中なのか!」
「傲慢であるぞ!」
逃げたい。
でも強行突破すると怪我人が出てしまう。
頭が真っ白になりかけたとき、凛とした声が響いた。
「そこまでだ!」
俺のことを非難する声がピタリと止んだ。
広場に束の間の静寂が降りてくる。
「通したまえ!」
すべての幼女が道をゆずる。
特攻服の幼女も、拡声器の幼女も。
神聖なる存在に触れまいとするように避けていく。
その光景はモーゼの十戒神話……真っ二つに裂けた海を連想させた。
「社長!」
「流川さん!」
「流川社長!」
「マキさん!」
方々から上がったのは驚きの声。
カシス色のジャケットを着た幼女だ。
下にはタイトなスカートを履いている。
そして綺麗な黒髪をサイドテールにまとめている。
その腕には
『幼女の権利を守る会』
『渋谷区統括』
という腕章がついていた。
一つ目はいい。
もう何回と目にしてきた印だ。
問題なのは二つ目。
俺の認識が正しければ渋谷区のリーダーということになる。
「殿方が怯えているじゃないか」
俺はその顔に覚えがあった。
幼女フォーラムの集合写真。
瀬古いのりの隣に立っていた幼女だ。
「我々は世間から注目されているのだよ」
勝ち気そうな目をしている。
写真よりも活発そうな印象を受ける。
「あまり荒々しい真似はするなと日頃から注意しているだろうに」
とても若々しい声。
実年齢だって俺とそれほど変わらない。
なのに老成したような落ち着きを感じさせる。
「やる気があるのはいいことだ」
圧倒的なカリスマ性。
言葉を交わさなくても伝わってくる。
「だが我々の品性を貶めるような行為は困るよ」
俺と口論していた幼女が何かを訴えようとした。
それをこのリーダーは眼光だけで黙らせる。
「うちの者がご無礼を働きました」
俺は緊張のあまり生唾を飲んだ。
株式会社カノープス・システムズ。
代表取締役社長。
幼TECの最年少社長ともあろう人物が一介のサラリーマンに向かって深々と頭を下げたのだ。
「彼女たちの上司として謝罪します」
瀬古いのりのかつての戦友。
流川マキ、その人だった。




