089 幼女割拠
幼女ニュース Vol.010
週刊幼女のコラム。
「第一回の幼女フォーラムが先日、六本木で開催され大盛況のうちに幕を閉じました。幼TECの経営者たちが一堂に会する貴重な場となりました」
コラムの続き。
「そこで今回は業界に詳しい幼女アナリストの三氏にお集まりいただき『幼TECの十傑』を選んでもらいました」
コラムの続き。
「『何をもってランク付けするのか難しいのですが……』と前置きしつつも、三氏がそろって名をあげた会社が二つあります。『幼女株式会社(本籍は千代田区)』と『株式会社カノープス・システムズ(本籍は渋谷区)』です」
A氏のコメント。
「業界はいま群雄割拠ならぬ幼女割拠のような状態にあります。三年後がどうなっているかまったく予想できません。その上でこの二社は勝ち残っている可能性が大きいと判断しました」
コラムの続き。
「ではまず幼女株式会社について分析してもらいましょう」
B氏のコメント。
「この会社には三つの優位性があります。ずばりヒト・カネ・情報。優秀なスタッフ。健全な財務。一定のブランド力」
C氏のコメント。
「意外に思われるかもしれませんが、瀬古いのり代表は守りの人です。手堅く稼いでいます。若い経営者にありがちな乾坤一擲の勝負をしません。だから銀行サイドからの評判も良いです」
A氏のコメント。
「優秀なブレーンがついているのでしょう」
コラムの続き。
「幼女株式会社に弱点はないのでしょうか?」
B氏のコメント。
「あります。人材リスクです」
C氏のコメント。
「突然の退職……とはいかなくてもキーパーソンの一人が病気になる。そうしたら組織が機能不全になります。社員七名の会社ですから」
……。
…………。
(中略)
…………。
……。
コラムの続き。
「ずばり幼女株式会社とカノープス・システムズが真っ向勝負したらどちらが勝ちますか?」
A氏のコメント。
「幼女株式会社ですね。幼コレがサービス停止したら困ります(笑)」
B氏のコメント。
「私はカノープス・システムズに一票かな。サービスが軌道に乗ってきた印象があります」
C氏のコメント。
「困りましたね。一対一ですか。じゃあ、引き分けでお願いします(汗)」
コラムの続き。
「お集まりいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いします」
渋谷区に本籍を置くカノープス。
そこの経営者はうちの社長と旧知の仲らしい。
※ ※
三浦半島へ旅行した翌日。
俺がオフィスへ出社すると珍しい人物がいた。
神宮寺である。
今日もパーカーにミニスカートというギャルっぽい服装をしている。
そしてお茶を片手に雑誌を読んでいる。
「おはようございます。神宮寺さんがこの時間にいるのって珍しいですね」
自由すぎる神宮寺には定時なんてものがないのだ。
「須田ちゃんか。早いね。おはよう。今日はゆり姫と一緒に出社してきたから」
「それって姫井さんの家に寝泊まりしたってことですか?」
「そうだよ。……あれ、変なこといった?」
「意外だなと」
レストランで食事をしたあと、そのまま姫井の家へ向かったらしい。
せっかくなので一緒に寝たのだとか。
「神宮寺さんと姫井さんってよく喧嘩するじゃないですか? そんなに仲良しですっけ?」
「まあ、喧嘩はするけれども……ゆり姫だって根は良いヤツなんだよ。素直じゃないけれども。たまには腹を割って話したくなるんだよ」
神宮寺はサバサバした表情でいう。
昨夜のレストランとは別人みたいだ。
「三浦半島はどうでしたか? 天気は晴れでしたよね」
「それな」
神宮寺が雑誌を置いた。
「ゆり姫が可愛かったよ。犬にビビったり。湯あたりしてさ。お菓子のフィナンシェは美味しかったな。いつもあれくらい可愛げがあればいいのに」
「あっはっは……」
本人に聞かれると喧嘩になりそうだ。
幸いなことに姫井はいま社長と会話している。
「姫ちゃん、昨日はどうだった? 楽しかった?」
「任務を完璧に遂行しました。さっそく次回の計画を練っています」
「うん、プランはお任せするよ」
今日の姫井はピンク色のドレスを着ている。
いつもより華やいでおり本物のお姫さまみたいな印象を受ける。
「あすかを家に泊めたの?」
「はう……神宮寺さんがどうしても僕の家に来たいといって……あまりにしつこかったので……」
「それで一緒に寝たんだ。一つのベッドだよね? 変なことはされた? ちゃんと寝られた?」
「大変でしたよ……神宮寺さんったら、なかなか寝なくて……その相手をさせられて……僕の体はクタクタです」
話が盛り上がりすぎて夜更かししたのか。
姫井も素直じゃない。
「ケッケッケ。ゆり姫のやつ、話を捏造していやがる」
そういう神宮寺も楽しそうだ。
「その雑誌……」
週刊幼女という情報誌だ。
コンビニの目立つ位置にいつも並んでいる売れ筋の雑誌である。
「ああ、加賀ちゃんの机にあったから。勝手に拝借しちゃった」
「今週はうちの会社の名前が出ているのですね。ちょっと誇らしいです」
幼TECの十傑。
つまりトップ10を選ぶ。
その中に幼女株式会社の名が出てくる。
「別に取材を受けたわけでもないしね。勝手にうちの名前を出してネタにしているだけだよ」
神宮寺が冷淡な口調でいう。
「三つの優位性があるとか、銀行サイドからの評判も良いとか、口当たりがいいことを書き並べやがって。……優秀なブレーン? ゆり姫のことか? ちょっと癪だな。人材リスク……この部分は正しいな」
「素直に喜びましょうよ。褒められたのですから」
「それは甘いね」
俺の考えはすぐに否定される。
「週刊誌の記者が書くことだ。来週には態度を変えることもある。やつらも商売で記事をつくっているからね。例えば……」
神宮寺がトントンと指差した。
そこにはカノープスの文字がある。
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コラムの続き。
「ありがとうございます。続いてカノープス・システムズについても分析してもらいます」
A氏のコメント。
「一言でいうと攻めの会社です」
B氏のコメント。
「幼女株式会社との共通が多いです。カリスマ性のある若い社長。腕利きのエンジニア」
C氏のコメント。
「子会社まで含めた社員数は七十名です。この一年でかなり増えました。成長スピードは幼TECの中でも頭一つ抜けています」
コラムの続き。
「カノープス・システムズにも弱点はあるのでしょうか?」
A氏のコメント。
「あえて社長の若さをあげます。あの瀬古いのり代表よりも一つか二つは若いです」
B氏のコメント。
「私は強すぎる社長のカリスマ性をあげます。実際にお会いしたことがあるのですが……ちょっとした人格者みたいでした」
C氏のコメント。
「人として完成されている印象ですね。トップは隙があるくらいがちょうど良いのですが……」
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神宮寺は、ふん、と鼻を鳴らした。
「あいつが人格者ねえ……お前の目は節穴かよ。世間が思っているより泥臭い幼女社長だよ」
「神宮寺さんもご存知なのですか? カノープスの社長さん」
「何回か一緒に仕事をしたことがある」
幼TEC最年少の社長。
雑誌ではそのように紹介されていた。
「失敗したら叩かれる。うちも。カノープスも。それが自然な反応だ。だから雑誌の内容にあまり踊らされるな。例えば……」
神宮寺はページの最後の部分を指差した。
『真っ向勝負したらどちらが勝ちますか?』
かなりストレートな質問といえる。
読者の興味は掻き立てられるのだろう。
「どっちが勝つかなんてわからないよ。ビジネスの世界は複雑なのだから。それに私たちはカノープスと真っ向勝負しているわけじゃない」
「仮定の話って感じですよね。アレクサンドロス大王 vs チンギス・カンみたいな」
「それそれ。ナンセンスな考えなのだよ」
記者も仕事でやっている。
いかにも神宮寺らしいクールな考えだ。
俺は雑誌に目を通した。
一枚の集合写真がのっている。
その真ん中の位置に瀬古いのりがいた。
なんだか遠い世界の住人みたいだ。
それが率直な感想である。
「それにしてもカノープスの社員数は七十人かよ。かなり増やしたな。うちの十倍じゃねえか。そんな給料払える金をよく集めたものだぜ」
神宮寺は他人事のようにぼやく。
勝負しているわけじゃない。
ナンセンスな考え。
仮定の話。
幼女株式会社 vs カノープス。
雑誌が勝手にデザインしただけのバトル。
運命の歯車が回り出したとき、それらの言葉が半分正解で半分間違いだったことに、俺も神宮寺も気づくのである。




