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076 待ち合わせ

「マサくん、お待たせ!」


 よく知る人物が小走りにやってきた。

 俺の体にぎゅっと抱きついてから、頬をスリスリさせてくる。


「幼女専用トイレが混んでいてさ。すごい行列だったよ。さすが品川駅だよね」


 これは社長だ。

 いつものツインテール姿が今日も可愛いらしい。


「社長、本当にその服装で行くのですか? 首から上だけ女の子になっていますよ?」

「いいんだよ。これは変装だからね。あすかの休日を邪魔したくないんだよ」

「社長が平気なら別にいいですが……」


 一口でいうと男の子向けのカジュアルな(よそお)い。

 小学生男子みたいな格好をしている。


 上に着ているのはフード付きの灰色トレーナーだ。

 なぜか胸元に『ASAP』とプリントされている。


 下に履いているのはハーフ丈のカーゴパンツである。

 露出した膝小僧のあたりが若々しい。


 なんか気になる!

 昔の俺みたいで恥ずかしい!

 いつも垢抜けているぶん、普段とのギャップが激しいといえる。


「社長、その胸元の『ASAP』には何という意味が……」

「なる早だよ。as soon as possible。英語の教科書にのっていたよね」

「ああ、そんな言葉がありましたね」


 少年よ、そんなに急いでどこへ行くつもりだ。

 俺が赤の他人ならそう突っ込みたい。


「どうかな? 私の男装は変かな?」

「いや、とても可愛いと思いますよ。ツインテールですし。どっからどう見ても100%瀬古いのりです」

「可愛いと意味がないじゃん。これでも格好いいつもりなんだけれども。ネットで選んだときはイケると思ったんだよね」


 男性の服を選ぶセンスはほぼ皆無。

 幼女化したときに置いてきたのだろう。


 俺はもう一度頭から爪先まで観察した。


 やっぱりツインテールの男の子だ。

 瀬古いのりの友人知人ならば一瞬でその中身に気づく。


「あすかと姫ちゃんに見つからないよう、今日はマサくんにも変装をしてもらいます。リュックサックを貸してください」


 俺は背負っていたリュックサックを社長に手渡した。

 その中から取り出したのは、


「じゃじゃん! 変装用のサングラスです! 大人用と子供用があります!」


 二本のサングラスである。

 さっそく装着してみる俺たち。


「うわっ! マサくんは完全に怪しい人だ! なんか悪人面になった!」

「いやいや、サングラスはそういう物ですってば。そういう社長だって……」


 あれ?

 普通に可愛い?


 男の子の服、ツインテール、サングラス。

 ちょっと気取った少年になっている。

 お金持ちの御曹司みたいな。


 ギャップのせいか。

 元々の素材が可愛いから。

 サングラスの怪しさと、服装のイケてない感じが絶妙にマッチして、新しい生き物になっている。


 いまの社長も新鮮ですよ。

 そういう気持ちを込めて頭をポンポンしてあげた。


「マサくん、今日は親子という設定でいこう。私が息子でマサくんはお父さん。間違っても姫ちゃんたちの近くで名前を出さないように」

「了解です」


 品川駅でスパイ行為。

 不思議と俺の気分までワクワクと高揚してきた。


「ねえねえ、パパ〜」


 さっそく社長が甘えてくる。

 俺の演技力をテストしているらしい。


「ぼく、キャラメルマキアートが飲みたい」

「キャラメル? それって完全に女の子の趣味じゃないかな?」

「飲みたい! 飲みたい! 飲みたい! 買って! 買って! 買って!」

「わかったから! 落ち着きなさい! 本当に社長……じゃなくて……えっと……瀬古太郎は我がままな子だな〜」


 瀬古太郎って……。

 勝手に名付けちゃった……。

 桃から生まれた桃太郎みたいに呼んじゃった。


「わ〜い! そこの喫茶店で買ってくるね! パパはカフェラテでいいよね!」

「待ちなさい、瀬古太郎! お金を持っていないでしょう! お小遣いをあげるから!」

「大丈夫! プラチナのクレジットカードがあるから! ゴールドカードから昇格したんだ!」

「それは子どもが持ち歩く物じゃありません! パパに返しなさい!」

「パパのじゃないよ! ぼくの名義だよ!」

「絶対にダメです!」


 メチャクチャな少年だよな、瀬古太郎。

 神宮寺たちに正体バレするのも時間の問題といえよう。


「さてと。まだ待ち合わせの時間には余裕があるのだが……」


 社長がスマートフォンで時間をチェックする。


「神宮寺さんなら見つけました。待ち合わせポイントに立っていましたよ」

「そうなの? まだ十五分前なのに? さては絶対にデートに遅刻しないタイプだな」

「姫井さんはまだ到着していないようです」

「よ〜し、服装をチェックしてやる」


 神宮寺はさっきから電光掲示板の近くに立っている。

 そして手元のルービックキューブを忙しく回転させている。


 色を揃えて。

 ぐちゃぐちゃにバラして。

 また色を揃えてはすぐに崩してしまう。


「プロだよね。なんか職人みたいなスピードだよね」

「指の残像が見えます。集中していますね」


 休日というのに脳トレか。

 そこが神宮寺らしいといえば神宮寺らしい。


「う〜ん、今日くらいはオシャレを楽しんでほしかったのだけれども……」


 社長がサングラスの位置をずらしながらいう。


 神宮寺の服装はいつものパーカーとミニスカートだ。

 下には黒色のニーソックスと茶色のショートブーツを履いている。


 通勤につかっている斜めがけのショルダーバッグ。

 やや控えめなメイクまで普段と一緒である。


「仕事の格好ですね。いや、遊びに行く格好で職場に来ている、と表現するのが正しいですが」

「だよね。毎日が仕事だからね。デート用の服とか持ってなさそうだよね」

「デートって……」


 レクリエーションという名の治療が目的なのだが……。

 俺はもう一度だけ神宮寺を観察してみた。


「よく見てください。今日は左手首にブレスレットをつけていますよ。レザー素材の」

「本当だ! あすかがオシャレしている!」

「あと耳の後ろに目を凝らしてください」


 そこに花が一輪咲いている。

 あれはヘアクリップの飾りだろう。


「いつもの髪型より立体感があります。あれは神宮寺さんなりのオシャレです」

「手抜きだな〜。それとも不慣れなのかな〜。でも不器用なりにも頑張っている感じがすごく可愛いよね」

「ですね。同感です」


 神宮寺でも外行きの格好とか考えるんだな。

 新鮮な一面といえよう。


「姫ちゃんも早くこないかな。どんな服装なのかな。きっと可愛いんだろうな。すごく気になっちゃうよ。ドレス姿の姫ちゃんは綺麗系なんだけれども、たまには別の姿も見たいんだよね。カラーは白色かピンクがいいな。露出は少なめで。それからね……」


 社長は頬っぺたに手を当てて、口元をニヤニヤと緩めて、猫が甘えるような声で、姫井のファッション予想を並べはじめた。

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