067 花園カヲリ(後)
「は〜い、正臣くん。お口をあ〜んして」
俺は山盛りのダークチョコレートラテと対峙していた。
そしてカヲリさんの手でホイップを食べさせてもらった。
「いやん。お口がちょっと汚れたね。うちがきれいに拭いてあげるわ〜」
ご奉仕のお口ふきふきをしてもらう。
当たり前だけれど胸がドキドキする。
「あれ? 頬っぺたにもホイップがついてる?」
「いや……それはカヲリさんが意図してつけたのでは?」
「お客さん相手やで。いのりちゃんの可愛い部下なんやろ。そんな無作法を働くわけないやん」
カヲリさんが一瞬だけ社長を見つめる。
そして挑発するような視線を送った。
この流れはマズくないか?
俺が油断しているとカヲリさんは体をぐっと寄せてくる。
「うちが舌で舐めとってあげる。だからじっとしといて……」
「えっ⁉︎ それって……」
さりげない色目。
それが大接近していくる。
俺が動けないでいると、ホイップのあった部分に濃密なキスをされた。
追加のサービスといわんばかりに、その表面を舌でちろちろと舐められる。
これは恋人でも躊躇しそうなプレイだ。
それを初見の俺に対して、社長と姫井の前でぶつけてきた。
体温がかっと急上昇する。
心臓のポンプがばくばくと暴れだす。
すごすぎる!
こんなに興奮したのは社長との初夜だけだ。
あの時は甘美なムードが漂っていたのだが、それをカヲリさんは何の準備もなしに、なんと即興でやってのけた。
軽いバケモノ。
そういう認識を強くする。
「どうや? うちの舌づかいは?」
「その表現はマジで危ないですってば……」
感想をいっておくと、舌の表面がもちもちしていて気持ちよかった。
これが唇と唇ならたぶん悩殺されていた。
もちろん社長の前でそんなことを告げるわけにはいかない。
だって可愛い幼女のキスなのだ。
これで喜ばない方がどうかしている。
しかもご奉仕という絶好の口実まで与えられている。
俺だけが悪いのではない。
カヲリさんが可愛いのも良くない。
「口では嫌がっても、表情はデレデレやん。正臣くんも素直な子やな。えらい面白いの」
「勘弁してくださいよ」
気づいているな。
社長と恋仲だってことに。
その上で俺の反応を楽しんでいるのだろう。
どうやら俺は積極的な女性に弱い。
そしてカヲリさんの積極さは社長のそれをやや上回っている。
「あ〜あ。楽しかった。てか、うちが楽しんだらあかんね。正臣くんを愉快な気持ちにさせてあげないとね」
次は太ももの辺りにボディタッチされた。
その手がすすすっとのぼってくる。
ヤバい⁉︎ ヤバいだろ⁉︎
その先には社長でさえ触れていない何かがあって……。
「いけません!」
俺は反射的にカヲリさんの体を持ち上げていた。
いわゆるノーマル抱っこである。
そして床の上にリリースしてあげる。
「お気持ちだけで十分です」
意外そうな顔をしたのはカヲリさんだ。
あと一歩のところでエサを仕留めそこねた女豹のように、ぺろり、と舌が動いた。
「なんや。正臣くん、なかなか力強いね」
「褒めようたって無駄です。たぶん23歳の男性の平均がこんなものです」
「ふ〜ん。冷静やね。……格好いい、仕事ができる、力持ち。七割くらいの男性はこの三つのキーワードに弱いのにね」
「あいにく俺は残りの三割です。残念でした」
「本当に残念さんや」
カヲリさんは大して残念でなさそうな口調でいう。
幼女のくせに大人の余裕があるな。
このギャップは強い魅力だ。
しかし社長……。
メチャクチャ不機嫌だったらどうしよう……。
ゆっくりゆっくり振り返ると烈火のごとく怒っている社長と目があった。
ふくれっ面なんてものじゃない。
炎にくべられた石炭のように顔を赤くしている。
ぷるぷると小刻みに震えている瞳。
少し刺激すると泣き出しそう。
ぎゅっと握った爪が肌に食い込んでいる。
そしてギリギリという音がしている。
これは怒りの化身というレベルだ。
それくらい俺が鼻の下を伸ばしているように見えたのだろう。
「マサくん……」
社長がひとすくい。
ラテのホイップを人差し指でからめとった。
「逆側の頬っぺたも汚れているよ!」
「そんな強引な!」
俺は指を避けようとして失敗する。
あろうことか社長のホイップ爆弾が思いっきり耳の付け根に直撃したのだ。
とてもこそばゆい。
というか耳の穴にホイップが……それも金箔つきのホイップが侵入している。
黄金を口にするなんて100年早いと宣言した手前なのに。
耳の穴に金箔を突っ込むという珍プレーの完成である。
「私の舌できれいにしてあげるね!」
「いやいやいや! さすがに過激すぎます……」
「動かないで! 社長命令だから! 抵抗したら許さない!」
「そんな強情な……」
社長の可愛いお口が俺の耳に食いついてきた。
そして幼女のもちもち舌で舐められる。
逃げられない俺としては我慢するしかない。
れろれろ。
ぬちょぬちょ。
ぶちゅりぶちゅり。
たくさんの音がメドレーのように混じり合う。
社長になら何をされても許す。
何回だって許すだろう。
しかし心の限度が……。
耳の奥が気持ちよくなってきた。
社長の舌づかいが最強クラスにエロい。
聴覚の情報もあるぶん、カヲリさんのそれを上回っている。
やっぱり社長はすごいな。
負けず嫌いの性格に火がついたら手段を選ばない幼女なのだ。
自由にさせてあげよう。
俺が耐えればいいだけの話だ。
これで社長の気がすむなら満足じゃないか。
そう考えて30秒くらい玩具に徹した。
社長が息継ぎのためにぷはっと顔を持ち上げる。
「どうですか? 少しはきれいになりましたかね?」
「う〜ん、甘くて美味しいよ。マサくんのお耳。とっても甘美な味がするの」
「いや、それは俺の体じゃなくてホイップの甘さだと思います! お菓子の兵隊じゃないのですから!」
「マサくんも経験すればわかるよ。次は私の体で試してみる? おへそにホイップを塗ってもいいよ」
「その発想はまあまあヤバいです。試したいのは山々ですが」
俺の一番は社長ですよ。
そういう気持ちを込めて頭をポンポンしてあげた。
すると刺々しかった社長に少しだけ余裕が戻ってくる。
これにて一件落着してほしい。
そんな俺の願いは、次の社長の発言であっさり裏切られるのだが……。
「だいたいね! カヲリちゃんが良くない! マサくんは私の恋人なの! 必要以上にイチャイチャしないで! というかタッチは禁止! お口あ〜んも禁止! 甘やかすのも禁止! 横取りは厳禁!」
社長がばしんっとテーブルを叩きながらいう。
そしてもう片方の手を拳銃ように突きつけた。
「あら〜? そうなん? 恋人さんなんや? 初耳やわ。それは申し訳ないことしたね。キスしてしまったわ。恋人社長さんの目の前でね。だって正臣くんが喜んでくれたから。うちの奉仕精神がね。ついね……」
カヲリさんが唇に指を当てながらいう。
悔しいけれど惚ける姿も可愛いな。
視線がばちばちと火花を散らす。
どちらも少しも譲らない。
幼女のプライド。
「勝負しよう! ここで雌雄を決するの!」
「そやね。勝った方が真の雌やね。雄の座はあげるわ」
「いいや、私も雄の座はいらない! 真の雌の座を掴みとるの!」
「う〜ん。いうなあ〜。もちろん対戦するのは……」
ふたりが同じタイミングでスマートフォンを手に取った。
そして同じアプリを起動させる。
「幼女コレクション!」
「それで決まりやな!」
その言葉に反応したのは意外なことに姫井であった。
いきなり立ち上がって社長の肩に手をかける。
そして副社長としての忠告をする。
「いけません! 社長! カヲリさんの強さは社長に匹敵する……下手したら社長以上です! 僕が落としたお金で課金していますから! それにプレイ時間も半端ありません! 無策では負けます! これは挑発です! 元からこの展開を狙って、須田くんに色目をつかったのです! すべては社長から勝負を挑ませるための罠だったのです! そして返り討ちにしようという巧妙な作戦です! 負けたらSNSに晒されます! この勝負は分が悪すぎます! 戦う前から負けています!」
俺はカヲリさんを見つめた。
さっきから人を食ったような態度を崩さない。
姫井の言い分を暗に認めた証拠といえるだろう。
なるほど、社長に勝った画像をSNSにアップする。
ネタとしては十分な話題性がある。
しかし負けることを恐れる社長ではない。
というかまだ社長が負けると決まったわけではない。
我が社のエースなのだ。
幼コレの強さだけなら社内で一番。
カヲリさんの強さは想像に任せるしかないが、どんな強プレイヤーであっても、コンスタントに社長に勝つのは不可能である。
それが運営元の強さだ。
それが幼コレの生みの親だ。
かたや幼女株式会社の代表。
かたや絶対幼女領域・ろりぃたぱみゅぱみゅの代表。
まさにトップ同士の一騎討ちである。
「幼女には引けない時があるのだよ。いくら姫ちゃんの言葉でも、この戦いから逃げるわけにはいかない」
「しかし……社長はすでにカヲリさんの術中にはまっていますよ!」
「ならば正面突破あるのみ!」
急に降ってきた幼コレ対決。
ここに開幕である。




