表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/278

065 花園カヲリ(前)

 やっぱり可愛いな。

 絶対に五本指に入る可愛さだ。


 俺はついつい見惚れてしまう。

 人を見た目で評価するのは失礼と知りつつ、思わず採点したくなる。


 アホ毛が100点。

 ツインテールが100点。

 まったり口調が100点。

 おしとやかな雰囲気が100点。

 小動物のように愛くるしい目が100点。


 合計で500点。

 あの神宮寺さん顔負けのテキトー採点といえよう。


 もちろんクオリティが高いのはオーナーに限った話ではない。

 内装だってその他の従業員だって工夫を凝らしている。


 経営者の強いこだわりが感じられる制服。

 メイドドレスのデザインが一人ひとり異なっている。


 個性あふれるネームプレート。

 もちろん各人の手作りだ。


 お客との会話の糸口をつかむためだろうか?

 ポケットの位置からキャラクターのキーホルダーを垂らしているメイドが目立つ。


「まあ、立ち話も何やし……」


 カヲリさんがパチンと手を鳴らすと、六名のメイドが一斉に動き出す。


「おしぼりのサービスくらいさせてください」


 奥まった位置にあるテーブル席へと案内してもらった。


 社長は上座の真ん中に腰掛けてもらう。

 その左右を俺と姫井が守るように座った。


「姫ちゃんはいつもこの席に座っているの? 特等席? たぶんお店で一番良いポジションだよね?」


 社長がテーブルに体をべったりと押しつけながらいう。


「さすが社長ですね。鋭いですね。なるべくその席を予約するようにしています。そして……」


 姫井が壁に視線を走らせた。

 そこには俺たちが心血を注いできたゲーム、つまり幼コレの一周年記念ポスターが飾られている。


「僕からお店に寄進したポスターです。今日のために特別用意したというわけではありません。毎日ここに飾られています。お店の中でもなかなか目立つ位置です」

「すごいな〜。こういう内装だと映えるな〜。わざわざ額縁に入れているんだ」

「お店のスタッフさんにも幼コレファンは多いです。もちろん……」


 カヲリさんがスマートフォンを見せつけてくる。

 ホーム画面の右上に幼コレのアイコンが存在していた。


「うちは強いよ。自分でいうのも何やけど。ゆりちゃんが落としたお金で課金しているから。お金は天下の回りもの。還元しないとね」


 首の動きに合わせてアホ毛がぴょんぴょんと揺れている。


 どういう仕組みになっているのだろう?

 ヘッドドレスにアホ毛の秘密がありそうだ。


「ん? この髪が気になるん?」


 カヲリさんと目が合う。


「まあ……珍しいですし」


 俺は素直に答えておく。


「企業秘密や。でも偽物のつけ毛でないのは事実やね。今日は一本やけど、日によっては二本にしたり三本にしたりしているよ」

「もしかして西日本の出身なのですか? カヲリさんはしゃべり口が独特ですね」

似非(えせ)やで。似非や。でも西日本出身の友達を参考にしたのは事実やね。……そうや! お兄さんの名前は? まだ聞いてなかったな」

「須田正臣といいます。自由に呼んでください」

「それならマサくんやね!」


 カヲリさんが俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。


 うわっ⁉︎ いきなり距離が近い!

 あと蜂蜜色の髪からトリートメントの甘美な香りがする。


 まるで恋人同士みたいだ。

 出会ってから三分しか経っていないのに親密すぎる。


「さすがにマサくんは……」


 すぐに反応したのは社長であった。

 交通事故でも目撃したように口をあんぐりさせている。

 そして動揺のあまり手をプルプルと震わせている。


 うにゃあ!

 大好物のエサを横取りされた猫のような顔つきで俺たちのことを睨んでいるのだ。


 まさか嫉妬しているのか?

 あの社長が焼きもちを妬いているのか?

 だとしたら楽しすぎるシチュエーションといえる。


 いつも社長に振り回されているから。

 時には社長も振り回される側の気持ちを知るべきなのだ。


「あれあれ? あれあれあれ〜?」


 ふくれっ面をつくる瀬古いのり。

 それを目ざとく発見したのはカヲリさんだ。


「マサくんって呼ぶのはNGやった? もしかして虎の尻尾踏みというやつかな? 無難に正臣くんの方が良かったのかな?」

「あの……そのですね……これは……」

「いのりちゃん、ご立腹やん」


 そしてさらりと問題の核心をついてくる。


「どんな敏腕社長さんかと思って身構えていたけれど、なかなか可愛い性格しとるね。考えていることが表情に出るタイプやな。ゆりちゃんとは大違いや。正直者の素直な娘やね。うちの好きな幼女やわ。接客ビジネスでも絶対に成功できるで」


 あっさりと社長の気質を見破ってきた。

 好きな幼女という表現もド直球といえる。


「本当⁉︎ 異業種でもいける⁉︎ それってプリン屋でもOKってこと⁉︎」


 ノリノリで食いつく社長。


「プリン専門は難しそうやけれども……プリンなら幼女カフェの売れ筋メニューやね」

「焼きプリンもいける⁉︎ プリンアラモードとか⁉︎ なんならプリンケーキとか⁉︎」

「いける、いける! いのりちゃんのお店なら飛ぶように売れるよ。なんならデュエットしようか? うちがノウハウと人材を出すから、そっちは名前を貸すみたいな。……資金と儲けは折半かな。八割くらい出資してくれてもいいけれども。幼コレのコンセプトカフェ。悪くない話やろ。人生は何事も経験やしな」

「やるやる! 絶対にやる! 今日からでもやる!」


 なんか社長が飼いならされている。

 さすが幼女カフェの激戦区で戦っている人だ。

 他人の心を掴むのがうまいし、口車に乗せるのはもっとうまそうだ。


 社長の人たらし術も幼女カフェでは不発か。

 カヲリさん、やや優勢である。


「いけません、社長。今日は業務提携をしにきたのではありません。落ち着いてください。それに事を急げば必ず失敗します」


 すかさず姫井が制止させた。


「でもチャンスの神様には前髪しかないって」

「ビジネスの世界には見逃し三振がないといいます」

「でも先んずれば人を制すという格言が古典にはあるし」

「ダメです! よく理解しないものに手を出したら死にます! 己を知り彼を知れば……」


 社長と姫井の論争が始まる。


 肯定派の社長。

 否定派の姫井。


 俺としては見慣れた光景である。

 しかし第三者からすると奇怪なシーンに映るだろう。

 どのメイドも置き去りにされて困惑した表情をしている。


 能吏タイプの姫井が珍しいのだ。

 ここでは突き抜けたキャラ設定を演じているから。


「仲がいいコンビやね」


 カヲリさんがポツリと漏らした。


「姫井さんは社長のお師匠さまみたいな存在です。世間では瀬古いのりの名が注目されますが、その裏で面倒な手続きを全部やっているのが姫井さんですね。陰から社長をコントロールしているともいえます」


 俺はそっと耳打ちした。


「ふ〜ん、ちょっと羨ましいな。ゆりちゃん、会社では堅物みたいなキャラしとるやろ? 根は天真爛漫やのにな。妄想を自分の体で表現するんやで。面白すぎるやろ? 良い子やろ? でもお利口さんやからな。仕事できるからな。うちと違って法律とか経営に明るいよ。若いのにすごいと思うよ。絵も描けるし。根性もあるし。あの才能は……」


 堅物みたいなキャラか……。

 それを的確に見抜いてくるカヲリさんの人物眼もなかなかだ。


 瀬古いのり。

 花園カヲリ。

 職業は違えどもこの二人には共通点が多いような気がする。


「……いいですか、社長! 自分たちの強みが何なのか冷静に考えてですね……」


 姫井のしゃべりが早口になってくる。

 社長が一言いうと、姫井は三言も四言もぶつけて反撃した。


 理論整然として冴えた切り返し。

 社長の旗色が悪くなる。

 まさに数の暴力だ。


「えらい饒舌(じょうぜつ)やな。姫井ワールドやな。いのりちゃん、何があってもゆりちゃんを手放さないやろうね。うん、羨ましい生き方やね」


 カヲリさんはしみじみとした口調でそういった。


 羨ましい生き方、か。


 姫井ゆりか。

 瀬古いのりか。


 カヲリさんの言葉がどちらへ向けられた羨望の気持ちなのか、俺はその可憐な横顔を見つめながら考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ