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064 暗黒天使ちゃん

 とある雑居ビルの二階。

 隠れ家のような雰囲気がする階段をのぼっていく。


 ここが絶対幼女領域・ろりぃたぱみゅぱみゅ。

 可愛らしいウェルカムボードが設置されており『成人女性・成人男性も大歓迎』とのこと。


 ある意味、これは役得といえる。

 休日なら大繁盛している幼女カフェ。

 仕事の一環として、常連客の同伴として、特別に招待してもらったのだから。


 今朝、姫井に声をかけて良かったな。

 俺はそんな現金なことを考えた。


「いいですか、社長、須田くん。こっから先は何を見ても驚かないでください。いまから非日常です。普段の僕とはキャラが違います。あと今日は社長のためにオープン時間を一時間も早めてもらいました。つまり貸し切りです。感謝の気持ちを忘れずに……」


 姫井がゆっくりとドアを開ける。


 からん、ころん♪

 ドアベルの音色が招き入れてくれたその先には……。


「「「お帰りなさいませ、ゆりお嬢さま‼︎‼︎‼︎」」」


 六人ばかりの幼女メイドさんが迎えてくれた。


 すごい。

 完全にVIP待遇のお出迎えだ。

 六人の息がぴったり合っている。


「ただいま戻りましたわ。お出迎えご苦労さま」


 姫井がお嬢さま然とした口調で告げる。

 くすんだ金髪を手でなびかせる仕草は、まさに上流階級の令嬢といった感じだ。


「今日は客人を連れてきました。遠慮はいりません。丁重にもてなしてください」

「「「はい‼︎‼︎」」」


 阿吽(あうん)の呼吸というやつだな。

 ゲストの姫井も。

 幼女メイドも。


 俺はカラフルな内装の店内に踏み込んだ。

 するとレジのところに立っている七人目の存在に気がつく。


 蜂蜜色の髪が可愛らしい幼女だ。

 それをふわふわした感じのツインテールに仕上げている。

 頭には白黒のヘッドドレスを装着しており、ちょうど旋毛(つむじ)の部分から


 アホ毛?


 のようなものが生えている。

 アニメキャラ特有の異様に跳ねているひと束が印象的なのだ。


 胡桃(くるみ)のように丸っこい目。

 花弁のように鮮やかなピンク色の唇。

 自然なスマイルが似合っており、出会った一秒後には魅了されそう。


『どうぞ中へ』


 目と目があった瞬間、催促するように小首を傾げてきた。

 すると俺の足が勝手に行進をはじめる。


 なんだろう。

 他の六人もクオリティは高いのに、レジ台の幼女は頭一つ抜けている。

 容姿がどうとか、髪型がどうとかじゃなくて、まとっている空気(オーラ)に凄みがあるのだ。


 例えるなら社長のような感じ。

 愛されキャラに必要なエッセンスがぎゅっと濃縮されている。


「彼女に目をつけるとは、須田くんの審美眼もなかなかですね」


 姫井が人差し指を立てながらいった。


「いや、存在感があるなと……」

「当然です。彼女はこの店のオーナーさんです。そしてナンバーワン幼女メイドです」

「どおりで……納得です」


 ナンバーワンという単語に反応したのは社長であった。

 ツインテールを揺らしながらレジ台のところまで歩いていく。


 じいっと。

 七秒ばかり視線をぶつけた。


「ん?」


 オーナーさんも目を逸らさない。

 というか表情ひとつ変えようとしない。


 まさかのライバル認定なのか?

 まさかのツインテール対決なのか?

 俺がハラハラしながら見守っていると……。


「お嬢さん、えらい可愛いな〜」


 アホ毛の幼女がおっとり口調でいった。

 接客業をしている人に特有の相手を持ち上げるような声質をしている。


「うちの店で働いてみん? 週一でええよ。間違いなくトップを狙える逸材やで。これでも幼女の目利きには自信があってな。うちの直感がいうてるんよ。……あ、トップというのはお店のトップやないで。幼女界のトップな。お嬢さんなら本物のナンバーワン幼女になれるわ。うん、時代の頂点に立てる逸材やな〜」


 営業トーク……にしては褒めすぎじゃないだろうか?

 恐るおそる社長のリアクションを待っていると……。


「本当⁉︎ 私でもトップを狙えるの⁉︎ それってダイヤの原石ってこと⁉︎」


 メチャクチャ食いついた!

 演技とかじゃなくて勧誘を真剣に検討している。


「うん! 余裕で狙えるよ! いい素材を持っているからな〜」

「迷っちゃうな。いまは別の仕事で忙しいけれど……」

「掛け持ちOKや。あくまで副業ね。社長なんやし」

「ふたりで組んじゃう? 二人三脚しちゃう?」

「それもええな。デュエットやな」

「お互いにツインテールだしね」

「そやね。ツインテ最強やね」


 さすがに放置するのはマズいと思ったらしい。

 姫井が、こほん、と咳払いをいれる。


「社長、ほどほどにしてください。今日は仕事で来ていますから。あと社長がこのお店のスタッフになると、人気に火がついて建物が壊れます。きっと。物理的に。それはそれで迷惑です。秋葉原の人災です。僕から心のオアシスを奪うつもりですか」


 その言葉に反応したのもアホ毛の幼女であった。


「ゆりちゃんは面白いな。お店が壊れるって……まあ、ありえるな。大人気の瀬古いのりちゃんやし」

「というわけで今日はちょっと迷惑をかけます。ふたりとも幼女カフェの初心者なので」

「構わんよ。迷惑とか思わないから。愛嬌みたいなものやし」

「あと写真を何枚か撮影します。よろしいですか?」

「大歓迎! プロモーションやしな」


 ふたりが一瞬だけ商売人の顔になった。

 利用すべき部分は互いに利用する。

 そういう打算が働いたのだろう。


 にしてもゆりちゃん呼ばわりか。

 いまさら驚きはしないが、これも姫井の意外な一面といえそうだ。


「ゆりちゃん、今日の衣装は黒ずくめやね。何かのコスプレかな? それともオリジナルの脳内設定でもあるん?」

「これは僕のオリジナルです。ちゃんとした設定があります。すばり……」


 姫井は胸元に片手を添えながら、


「ネガティブゲートの向こうより舞い降りし……堕天使・ルシファーの眷属(けんぞく)にして……この秋葉原を陰から牛耳る……またの名を黒ユリの魔術師……その正体は……暗黒天使・ユリエールです!」


 ゲームキャラのように名乗りをあげた。


 ゆり。

 ゆりエル。

 ユリエール。


 マジか⁉︎

 幼女カフェに顔を出すための黒ずくめロリータ服だったのか⁉︎

 てっきり気分が塞ぎ込んでいるものと決めつけていたが、俺と神宮寺の勘違いだったらしい。


 ぷはっ、と失笑したのはアホ毛の幼女だ。

 腹をよじる動きに合わせて蜂蜜色のツインテールが小刻みに揺れている。


「あっはっは! 面白いの! さすがゆりちゃんや! どんな脳内しているんや! ユリエールって! 暗黒天使って! 可愛すぎるやろ! 牛耳れる! 牛耳れるよ! その可愛さがあったら秋葉原を牛耳れる! ゲリラライブしたら大盛況やね!」

「思いついたらまず全身で表現してみます。行動あるのみです」

「ゲームをつくっている人は考えが違うわ!」


 アホ毛の幼女は涙が滲んでいる目尻の部分を指でぬぐった。

 見た目が可愛いのに動作までいちいち可愛いな。


「ご挨拶が遅れました。うちがこの店のオーナーをやっています、花園(はなぞの)カヲリです。短い時間ではありますが、精一杯ご奉仕させていただきます」


 人気カフェのオーナー。

 ポップな感じのロリータ娘。

 花園カヲリさんは優美にほほ笑んだ。

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