054 幼女遊戯(中)
会議室の机がギシギシと苦しそうな音をあげる。
一回や二回ではなく断続的に……。
まさかこれは……。
「えっ⁉︎ マジかよ⁉︎ 会議室の机をベッド代わりにしているのかよ……」
「神宮寺さん、爪がちょっとだけ痛いです」
「おう……悪い」
神宮寺が指の力をわずかに緩めた。
しかし気持ちは痛いほど伝わってくる。
机をベッド代わり……。
そのくらいの重圧をかけないとギシギシ音は出ないはず。
「ちょっと熱くなってきたね。いきなりペースを上げたからかな?」
社長が甘ったるい声でいう。
「いのりお姉さまのせいですよ。いきなり襲ってくるから。僕の呼吸がおかしくなりそうです。ただでさえ熱い胸がもうビンビンと……」
姫井が泣き出しそうな声でいう。
「ごめん。ごめん。驚かせちゃったね。姫ちゃんが可愛いから、つい強引にやっちゃったね」
「はう……本当にお上手なのですから……甘い言葉でいつも僕の心を惑わしてくる」
「だって狂おしいほど可愛いんだもん。どこが可愛いのか一から十まで全部教えてあげようか?」
「そんな……まだ心の準備が……はう」
また机がギシギシと鳴った。
俺の想像なのだが、ふたりの体が重なっているような気がする。
「姫ちゃんの……と……が可愛いよ。……でぐちゃぐちゃに汚したい。そこに……を塗ってさ。私の舌できれいに掃除してあげるよ」
肝心の部分で声のボリュームを落とされた。
勝手に盗み聞きしている立場なのだが、ものすごく損をしたような気分にさせられる。
「いのりのやつ、いま何といった?」
「ダメです。俺もよく聞こえませんでした」
「くそぅ……何となく予想はつくけど死ぬほど気になるな」
神宮寺が悔しそうに歯噛みする。
いまは全身を耳にしているといっても過言ではない。
「いけません! いけません! そんなことをされたら僕は一生お嫁にいけなくなります! いのりお姉さまのことしか愛せなくなります!」
姫井がよく通る声でいう。
やだやだと首を振って抵抗している……そんなシーンを俺は妄想する。
「姫ちゃんがお嫁にいけなくても問題ないよ。そのときは私のペットにしてあげるから。愛玩用のペットだね。それなら問題ないよね?」
「うぅ……飼われたいです……お姉さまに」
「ほら、想像してごらんよ」
「あう?」
次はゴソゴソと衣擦れの音がした。
興奮しているのは俺だけじゃない。
神宮寺も同じらしく、ドアと一体になりそうな勢いで耳を押し当てている。
「頭と首に……と……をつけてさ、頭から爪先まで……の格好をしてさ、家の中をお散歩しないとね。赤ちゃんみたいにハイハイするの。お人形みたいに可愛い姫ちゃんがね。最後は……のポーズを決めて……とか叫んじゃって、ご主人様に……の許可を求める変態プレイはどうかな?」
「はぅ⁉︎ いけません! いけません! 想像しただけで頭の中が溶けてしまいます! そんなことを実際にされたら! いのりお姉さまの前とか! 恥ずかしくて恥ずかしくて最高潮の気分になっちゃいます! もう一生いのりお姉さまの愛玩ド変態ペットでいいです!」
えっ⁉︎ えっ⁉︎
これは穴埋め問題ですか⁉︎
肝心の部分で声のボリュームを落とされるので、俺の想像力がどんどん暴走していく。
赤ちゃんみたいにハイハイ?
きっと正統な赤ちゃんプレイだよな?
お母さん役が社長で……。
赤ちゃん役の姫井にミルクとか飲ませてあげて……。
うん、そうに違いない。
まあまあ変態だけれども。
「姫ちゃんは本当にマゾ気質だな〜。普段はサディストを気取っているのが可愛いよね〜。なになに? ギャップ萌えが好きなタイプ?」
「あれは世を忍ぶ仮の姿……すべてはお姉さまをお守りするため」
「もう! いちいち発想が可愛いんだから!」
社長のテンションも急上昇していく。
そろそろ自重してほしい……けれども続きが知りたいという罰当たりなジレンマ。
俺の頭もどうかしている。
先輩のふたりが体を密着させているのに。
しかもその片方は将来を約束している幼女妻というのに。
相手が姫井なのがよくない!
美幼女と美幼女の絡みだから楽しくて甘々なのに決まっている!
「さっきの姫ちゃんのセリフ、全部録音しているから。私のスマートフォンでばっちり録音したから」
社長がふいに恐ろしいことを告げる。
「きゃあ! 僕の人生は終わりました! もう完全にゲーム終了です! もう死ぬまでお姉さまの奴隷です!」
姫井が色っぽい悲鳴を上げる。
「な〜んてね。嘘だよ。大切な姫ちゃんにそんな意地悪をするはずないじゃん。心配しないで。安心して。ほら……少しは笑ってみて。姫ちゃんは私だけのもの。この会話も私の記憶の中だけだよ」
「はう……また騙されました……でもそこが素敵すぎます」
「いや、でも……」
社長が上体を起こした。
そして俺と神宮寺の方を見つめた。
ドア越しなので単なる想像なのだが、社長がはっきりと俺たちの姿を認識したような気がした。
これが突拍子もない妄想なのはわかる。
でも社長と目が合ったような錯覚がしたのだ。
「ん? そこで誰かが盗み聞きしているのかな? ドアの向こう側でさ? あすかとマサくん? だよね? ふたりが私と姫ちゃんの会話を盗み聞きしているよね?」
「あうあう……そんなぁ……神宮寺さんまで……」
「う〜ん……ちょっといただけないな〜」
社長の頭が何かを計算している。
楽しいことを閃くのに天才的な能力を発揮するあの社長が、である。
なんか胸がふわふわしてきた。
初めて遊園地へいく子どもと一緒だ。
新しい刺激に出会えると知って心の興奮が収まらない。
「盗聴シチュエーション? 盗聴プレイ? 考えようによっては悪くないよね。うん、アリだね」
「いのりお姉さま⁉︎ 急になにを⁉︎ 正気ですか⁉︎ この部屋のドアは防音仕様じゃないのですから。声が漏れ放題ですよ」
「いいんじゃない。漏れちゃっても。姫ちゃんの可愛い声をもっと聞かせてあげようよ。仲間たちにさ。あすかとマサくんにさ。ドアに耳を押し当てて、飼い主に餌をねだる、むしろ発情した牝犬をねだる、盛りのついた牡犬みたいに、破廉恥で、邪で、助兵衛で、色気違いな連中に、私たちの声をガンガン聞かせようじゃない。好きなだけ妄想するといいよ。イチャイチャする声を頼りにさ。すべての主導権はこっちにあるから。あすかとマサくんは垂れてくる汁を舐めるしか能がない妄想家だから。あっはっは。会社って楽しい場所だね。本物のお城みたい。どっかの遊園地よりも何倍もスリルがあるよ!」
「ああん♪」
やべえ……。
とりあえず俺たちの盗聴はバレてしまった。




