004 幼女ランキング
幼女ニュース Vol.003
警視庁の広報ページ。
「幼女機動隊の発足から二か月が経過しました。現在は百名の隊員が活動しており、順次増員される予定です。こちらは交通安全イベントにおける『白バイまたがり体験』の様子。写真中央は犬神仁警部補(26歳)」
幼女新聞のコラム。
「働く幼女たちに注目が集まっています。カリスマ性やアイドル性に関心が向けられ、中には偶像化される幼女も出現しました。こちらはイケメン幼女として名高い犬神仁警部補(26歳)」
人気幼女として活動している犬神さん。
実はうちの幼女社長の方が知名度でいうと上だったりする。
※ ※
俺の名前は須田正臣。
彼女がいない独身サラリーマン。
給料日だけを励みにして生きている。
東京暮らし二年目の感想をいうと
『すっかり都会の色に染まっちまった』
の一言に尽きる。
満員電車に驚かない。
外国人の多さに驚かない。
たまたまロケ現場を見ても驚かない。
就職のため都会へ出てきた人なら似たような所感であろう。
こんな俺でも故郷のアイテムをちゃんと身につけている。
ずばり地元の神社で買った交通安全のお守り。
いつもの通勤カバンに忍ばせているのだ。
これは事故を起こさないためではない。
むしろ巻き込まれないためだ。
「あ~あ、朝から可哀想に……」
俺は交差点のコーナー付近で足を止める。
そこで乗用車が一台、派手にクラッシュしていた。
運転席に座っていたのは幼女だ。
警察か。
家族か。
保険会社か。
血の気のない顔でどこかへ電話している。
幸いなことに巻き込まれた歩行者はいなかったらしい。
ただの平日が愛車の命日になろうとは……。
同情しないといったら嘘になる。
幼女ドライバーは違法ではない。
しかし推奨はされない。
視野の狭さ。
手足の短さ。
そういった要因によりミスを起こしやすいのである。
警視庁の発表によると、交通事故の件数は増加傾向にあるそうだ。
もちろん原因は幼女である。
しかし免許をはく奪したのでは流通がストップする。
失業者が増えるというデメリットもある。
『幼女ドライバーは禁止すべき』
『あいつらは走る凶器だ』
『運転しない幼女まで迷惑をこうむる』
そういう国民の声が上がったのは言うまでもない。
困ってしまった政府は自動車メーカーのトップを集めた。
そして幼女向け自動車の開発を命じた。
操作しやすくて。
安全にも配慮していて。
可愛いらしいデザインの車。
いまも全国の技術者たちが知恵を絞っているだろう。
誤解のないようにいっておくと、ほとんどの幼女は善良な存在である。
今日だってサラリーマンや公務員としてこの国を回している。
そして社会に明るい話題を提供している。
例えばいま注目のランキングサイト。
清楚系。
エロ系。
不思議系。
かわいい系。
ぽっちゃり系。
……などなど。
全国に住んでいる幼女ファンが、お勧めの幼女を猛烈にプッシュしているのだ。
その流行に飛びついたのはマスメディアだ。
おかげで一部の人気幼女たちは全国区の知名度を誇っている。
「はい、信号が変わりますよ。歩行者は無理して渡らないでください」
交通整理をしているのは犬神仁警部補。
26歳。
戸籍上は男。
いまや幼女ランキングの上位に名を連ねる存在である。
さっぱりとしたショートカット。
鍛えられた肉体。
おばあちゃんの横断を助けてあげるという優しい心の持ち主なのだ。
この人、元々はイケメン機動隊員として隠れファンが存在していたらしい。
俺がいうのも変だが、公務員にしておくのは勿体ないルックスの持ち主であった。
それが幼女になった。
ファンはやっぱりファンだった。
幼女になった犬神仁を見捨てなかったのである。
交通安全イベント。
機動隊の出陣式。
テロ対策訓練。
そのような場で熱いラブコールを送っている。
爆発的な人気に目をつけたのは警視庁であった。
その甲斐もあってか(?)犬神仁が交通整理しているチャンスを狙って、全国から女性たちが駆けつけてくる。
「きゃ~、犬神警部がいる!」
「犬神警部じゃない、犬神警部補だ! 危ないから下がって!」
「きゃ~、かわいい」
そんな具合である。
「あまりしつこいと公務執行妨害になるぞ」
「むしろ逮捕して!」
犬神仁も大変そうだな。
警視庁のイメージアップに利用されているから。
風の噂によると、アイドルユニットを組んで楽曲を発表する予定なんだとか。
それが公務員の仕事というのだから泣けてくる。
俺も興味があるかって?
うん。
実をいうとちょっとだけ気になる。
『進め! 幼女機動隊!』みたいな熱い歌を出してほしいな。
絶対にダウンロードして応援するから。
「次はどこで会えますか?」
「来週の日曜日に警視庁のイベントがあるから。ぜひ友達も誘ってくれ」
「は~い」
俺はその姿に見とれてしまった。
ファンを大切にする姿はやっぱり格好いい。
犬神仁を追いかけている人の気持ちが何となくわかる。
うちの会社の幼女社長がいなかったら……。
俺のナンバーワン幼女の座は犬神仁に奪われていたかもしれない。
「そこの君! 横断歩道を渡るのか、渡らないのか、どっちだ!」
「えっと、渡ります」
犬神仁と視線がぶつかった。
その警笛がピッピッ〜! と鳴り、横断歩道に侵入しようとしてきた車を制止させる。
犬神さんが?
俺を守ってくれた?
ある意味、ラッキーだな。
幼女ファンなら垂涎もののシチュエーションなのだから。
「ぼんやり歩いていると危険だぞ。幼女と接触して怪我をさせる事例が相次いでいるから」
「はい!」
俺は頭を下げてから駆け出した。
ご苦労さまです、と心の中で唱えつつ。