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029 教官キャラ

「マサくんのお陰で部屋がきれいになったよ」

「どういたしまして」


 片付けがひと段落したあと、俺たちはソファでくつろぎ、一緒にスマートフォンを操作していた。


 プレイしているのは幼女コレクション。

 社長がこの世で一番愛しているタイトルだ。


「ねえねえ、マサくんは今月の課金アイテムをもう買っちゃった?」

「スタミナ回復券とかが超お得なやつですよね……実は迷っていまして」

「え〜、そこは脊髄反射で買っちゃおうよ〜。どうせ会社の売上になるんだからさ〜。ほらほら〜」


 社長は吐息がかかりそうなくらい距離を詰めてくる。

 するとワンピースの胸元が重力に引っ張られて、服の中身がチラリと見えそうになった。


 もちろんワンピースの下にはキャミソールを着ている。

 そしてインナーも一緒に肌から浮いている。

 まさかの胸チラ寸前なのだが……。


 ダメだ!

 俺は顔を背けることで紳士に徹することに成功した。


「わかりました! この場で買います!」

「やったね! 幼コレの売上がまた少し増えたね!」

「とはいっても俺は社員の一人ですよ。なんか自作自演みたいじゃないですか?」

「別にいいの。ほら、社員が買わないものをお客さんに買わせるのも変な話でしょ」

「まあ……おっしゃる通りで」


 社長のいうことに一理あるな。

 それを認めた俺は迷うことなく『購入する』のボタンをタップする。


「よしよし。大変よくできました〜」

「うわ! 急に頭をなでないでくださいよ! 俺は大人なのですから!」

「その割には嬉しそうだね〜」

「うぅ……まあ……」


 これは図星だ。

 俺としては黙って受け入れるより他にない。


「いま開催中のイベント、社長はどこまでクリアしましたか?」

「それなら8割は終わったよ。空き時間にコツコツ進めていたからね」

「えっ?! 早くないですか?! 俺なんてまだ3割しか消化していませんよ」

「なっ……」


 すると穏やかな空気が一変。

 それまで優しかった社長が急に不機嫌そうな顔をする。


 もしかして地雷を踏んだのか?

『女心と秋の空』は変わりやすいという格言もあるが、3秒前との大きなギャップが俺の頭を困惑させる。


「……いま何といった?!」

「いや……イベントをまだ3割しか終えていないと」

「この浮気者! 幼コレをサボって他のタイトルで遊んでいたのか!」


 やってしまった。

 社長は幼コレのこととなると鬼教官キャラが入ってくるのだ。

 とはいえ素材が『東京の千代田区で一番カワイイ社長』だから、鬼教官といえるほどの迫力はないのだが……。


 しかし何らかの弁解は必要だろう。

 社長が納得してくれて、俺のことも理解してくれそうな言い訳を探す。


「誤解ですってば。むしろ幼コレの運営が忙しくて……」

「面倒な仕事はすべて先輩に押しつけろ! マサくんは黙って幼コレをやっていればいいのだ! これは社長命令なのだ!」


 社長が手をブンブン振りながらいう。

 釈明に失敗した俺としては苦笑いを返すしかない。


「しかし他の皆さんも忙しそうですし……」

「ならば残業代をもらいながらでも幼コレをやるしかないだろう。神宮寺は実際にそうしているぞ。まあ、あいつは固定給だから、いくら残業しても会社が潤うだけなのだけれども」

「幼コレで残業って……そんな無茶な……」


 俺の発言が気に入らなかったらしく、勝手にスマートフォンを取り上げられる。

 どうやら社長直々のチェックが入るらしい。


「まったく。けしからん話だ。ディープな幼コレプレイヤーなら、イベントの実装から24時間以内にすべてのミッションをコンプリートするというのに」

「その人たちは重課金なんじゃ……。俺の手持ちだとダンジョンの攻略に時間がかかりますよ」

「運営スタッフにあるまじき発言だな。無課金や微課金のプレイヤーであっても、工夫次第でいくらでも楽しく遊べる。それが我々のコンセプトじゃないか」

「おっしゃる通りで……」


 俺は手持ち無沙汰になってしまった。

 すると社長が自分のスマートフォンを差し出してくる。


「私のアカウントの周回を頼む。その間にマサくんのパーティー編成を見直すから」

「了解っす」


 社長のアカウントとは何回もフレンド対戦をしたことがある。

 しかし操作させてもらうのは初めてだ。


「うぉ~、強え~」


 同じダンジョンをプレイしているからよく分かる。


 まずアタッカーの攻撃力がひと回りもふた回りも違う。

 その分だけ敵のHPを早く削ることができるし、一回あたりの戦闘もすぐに終わる。

 あと味方を回復させる手間ひまがいらない。


 ところが俺の場合はまったくの逆。


(1)攻撃力が低い

(2)バトルが長引いてしまう

(3)被ダメージが増えるので回復スキルの使用回数も増える


 社長の方が進んでいるのも当然といえよう。


「社長のパーティーはやっぱり強いですね」

「う~ん、もうちょっと改良の余地がありそうなのだけれども……」

「どの辺でしょうか?」

「例えばスキルモーションが小さいキャラを採用してみるとか。ダンジョンクリアに要する時間をあと3秒くらい減らせるかもしれない」

「それは職人技なんじゃ……。現行のパーティーでも十分ですってば」

「この不埒者(ふらちもの)!」


 社長がまた()えた。

 本日で二度目なのだが、まったく怖くない。


「神は細部に宿るというだろう。幼女のことで妥協する者は、いつか幼女のことで泣くのだ」

「しかし俺には社長のような潤沢な戦力はありませんよ」

「待っていろ。すぐに完成度の高いパーティーを組み上げてやる。まったく。私に勝負を挑んできたときの情熱は、どこに置き忘れてきたのやら」

「あっはっは……」


 ぷりぷりに怒った社長も可愛いな。

 俺はそんなことを考えながら30秒くらい待った。


「できた! これでダンジョンに挑戦してみなさい」


 社長が瞳を輝かせながらいう。

 俺は見直してもらったパーティーをさっそく試してみた。


「けっこう攻撃に寄せてますね」

「うん、最低限の回復しか積んでいないから」

「2体か3体くらい落とされそうですよ。本当に大丈夫ですか?」

「問題ない。最後の一人が立っていれば勝ちだから」

「なるほど。それは正論です」


 社長のいう通りであった。

 パーティーを半壊されつつも、ダンジョンはきっちりクリアできる。


 10回挑んで敗北したのは0回。

 そして一周するのにかかる時間は今までの半分だ。


「すごいです。これならイベントの完了も早そうです」

「次からは自分の頭で考えてくれたまえ」

「はい。その時は社長にチェックしてもらってもいいですか?」

「うむ。少々のアドバイスをするくらいなら、やぶさかでもないぞ」


 社長は腰に手をあて、ない胸を張り、自信たっぷりの表情でそういった。

 こういうキャラも俺的には好きだったりする。

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