027 社長の得意技?
「もし想像よりも狭かったらごめんね」
ワンピース姿が初々しい社長に新居となる家の中を案内してもらった。
まずは玄関。
予想はしていたけれど、猫の額くらいの面積しかない。
とはいえ20足くらい収納できそうな下駄箱があるし、俺は靴を5足しか持っていないから、キャパシティーの問題はなさそうだ。
「あれ? 社長も靴を5足しか持っていないのですか?」
俺は下駄箱に並んでいる靴を指しながらいう。
「うん、幼女の足は徐々に成長するでしょ。サイズが合わなくなったやつは捨てちゃったから」
「なるほど。それだと数を揃えるのに躊躇しそうですよね」
「そういうこと。プライベートで遠出する予定もないし、高い靴を買うのは気が引けるんだ。そこにある5足だって、まあまあ安物だよ」
「はあ……」
社長のいう『安物』はあまり信用ならないのだが、俺は適当に頷いておく。
「じゃあ、案内を続けるよ」
社長が手招きをしながらいった。
玄関の先はこの家で唯一の廊下となっている。
「こっちが水回りです」
左手側にはトイレ。
ちゃんとウォシュレット機能と便座ヒーターがついており、快適な生活を約束してくれそうだ。
「うぉ、ウォシュレット機能じゃないですか!」
「いまどき珍しくないけれど……喜ぶところかな?」
「俺のアパートは古い洋式トイレでしたから。築40年くらいの物件だったので、冬の便座が冷たくて冷たくて」
「そのレベルだとちょっと耐震面が心配かな」
俺のテンションが10%くらい上がった。
その様子を社長は微笑ましそうに見守っている。
「廊下の突き当りにあるのが脱衣所と浴室です」
「物件を選んだ決め手ですよね? 一番こだわっていた点だと」
「そうそう。浴槽がけっこう大きいんだよね。これなら十分くつろげるでしょ」
社長はそういってバスタブの中に体を沈めた。
「マサくんも入ってみなよ」
「失礼します」
誘われるがままにバスタブの中で体育座りをする。
対面にいる社長と3秒くらい見つめ合った。
「ほら! 男性と幼女が一緒に入っても大丈夫!」
「確かに大丈夫ですね。表現としては、いろいろ大丈夫じゃないですが!」
「そうかな? マサくんなら私に変なことはしないでしょ。あすかと違って」
「ええ……おそらくは」
ちょっと社長に意地悪をしてみたくなった。
浴室。
近距離。
二人きり。
そのシチュエーションのせいで、魔が差したといえなくもない。
「社長、髪に糸くずがついていますよ」
「えっ?! 本当?!」
俺は糸くずをとるフリをする。
「とれました。もう大丈夫です」
神宮寺に教えてもらったフェイクのやつだ。
これは社長の得意技なのだが……。
「……ありがとう」
「……どういたしまして」
社長は乙女のように恥じらっており、効果がバツグンといえるだろう。
見ているこっちも恥ずかしい。
「なんか体が熱くなってきちゃった。着衣のままなのに不思議だよね」
「すみません。たぶん俺のせいです。ごめんなさい」
「平熱が高いの? 本調子じゃないとか?」
「そういう意味では……」
俺は語尾をにごす。
「そろそろお風呂から上がろうか?」
「ですね」
「頭に糸くずがついていたなんて、情けないところを見られちゃったな~」
こちらのフェイクを知らない社長は、完全にデレデレのスイッチが入ってしまった。
情けないところを?
見られちゃった?
それって俺のことを男として意識している証拠なのでは?
「あぅ……ちゃんと髪はチェックしたはずなのに……」
この可愛さはもはや反則レベルだ。
俺はそんなことを考えながら小さいお尻を追いかける。
「こっちがリビングです」
次は家の中心となるスペースだ。
10畳ほどの広さがあり、すでにテーブルとソファが配置されている。
「このソファは社長の家から持ってきたのですか?」
「うん、そうだよ。買い替えるのはもったいないと思ってね」
「かなり上質なやつじゃないですか。ちょっと腰かけてみても?」
「どうぞ、どうぞ。これからは二人の共有財産みたいなものだから。遠慮はいらないよ」
社長が使い込んできたソファに腰を下ろしてみた。
「快適です。幅がちょうどいいですね」
「ひとり暮らしだと持て余しちゃってね。いまは小さな体だし」
社長はそういって俺のとなりに腰を下ろした。
ちょん、と。
さりげなく肩を寄せてくる。
「ソファはふたりで座った方がバランスいいでしょ」
「ですかね?」
俺が油断していると、膝の上に圧力を感じた。
「マサくんに甘えちゃおっかな~」
社長が子猫のように体を丸めて、俺の太ももを枕代わりにしてくる。
まさかの膝枕だ。
俺が『してあげる側』になる日がくるなんて……。
「快適! 快適!」
「俺の膝枕、社長の体のサイズには合っていない気がしますが?」
「……そうだね。この小さい体が恨めしい」
社長のテンションが10%だけ下がった。
俺は頭をナデナデしてあげる。
「次は私たちの寝室です。予算の関係でちょっとだけ狭いのだけれども」
「問題ないです。もともとタコ壺みたいな家に住んでいましたから」
5畳ほどの洋室がふたつ。
片方が社長の寝室となり、もう片方が俺の寝室となる。
部屋を横断してみた。
ベッドとパソコンデスクを設置すれば、かなりのスペースが埋まりそうだ。
クローゼットを開けてみる。
スーツが20着くらいは収まりそうな空間がでてきた。
パイプハンガーの上に棚がついたシンプルなつくりだが、俺には十分なサイズといえる。
「さっそく私の部屋に照明をつけたいのだよ」
社長が荷物の中から天井につける照明器具を取りだした。
「マサくん、手伝ってくれないかな?」
「俺がやりますよ。椅子を脚立の代わりにしたら届きそうですし」
「いや、ここは肩車でいこうよ。自分の部屋の照明は、自分の手でつける」
「えっ?! 肩車ですか?!」
「うん!」
俺はしぶしぶといった感じでしゃがみこんだ。
社長を肩車する。
落としたときのリスクを考えると、ちょっとだけ怖い。
「いいよ、持ち上げて」
「はい」
社長の全体重を受け止める。
「天井に届きそうですか?」
「うん、なんとか」
俺は手に意識を集中させた。
肌理が細やかな幼女肌といえる。
スベスベの手触りが罰当たりなくらい心地良い。
「あれ? なかなか入らない。これを右に回して……」
「照明の取りつけ、なかなか難しいですよね」
「外すのは簡単なんだけどね。手こずっちゃってごめんね」
「いえ、俺は平気ですから。落ち着いてください。確実にいきましょう」
視線を上に向けると真剣そうな社長の顔が見えた。
頑張ってください。
心の中で応援してみる。
「もうちょっとだけ右に寄ってくれるかな?」
「はい」
「ありがと。そして少しだけ後ろに」
「了解っす」
肩の上の社長がもぞもぞと動く。
そのたびに柔らかい感触が後頭部を襲ってきた。
「できた!」
カチッ!
しっかりと固定されたことを確認してから、社長を床に戻してあげる。
「ふたりの共同作業だね」
「それは結婚式とか子育てを指す表現なのでは?」
「あれ? そうだっけ?」
「世間一般ではそうだと思います」
「まいったな。私にはまだ10年早いよね」
「結婚式はともかく、子育ては10年早いでしょうね」
デレデレになった社長の顔には、幼気な笑みが浮かんでいた。
「子育てか〜。想像すると恥ずかしいな」
「……すみません。俺も自分でいっておきながら恥ずかしいです。忘れてください」
10年後を妄想するなんて……。
この幼女社長は頭の中まで可愛すぎる。




