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025 幼女プリン

 プリン。

 それはお金で買える幸せ。


 俺が生まれてそろそろ四半世紀になるが、不機嫌そうな顔をしてプリンを食べる人に、いまだかつて出会ったことがない。


「それじゃ、いただきますか」


 1個850円くらいしそうな焼きプリンが並べられていく。

 俺。

 社長。

 神宮寺。

 それぞれの手にプラスチック製のスプーンが握られた。


 左右の手をあわせて合掌。

 からのいただきます。


「おっいし~! 焼きプリンは正義だね。この素晴らしさをもっと布教せねば!」


 そういって笑顔を炸裂させたのは社長だ。

 嬉しさのあまり体が左右に揺れている。

 この手のリアクションは本当に小学生レベルといえるだろう。


「ねえ、あすか。うちの会社もプリンをつくろうよ」

「えっ?! プリンってこのプリン?」

「そうそう」

「社長の好物まで手がける余裕はないんだよな。ただでさえ人手不足なんだし……」


 神宮寺は淡々とプリンを食べている。


「どこかへ委託すればいいのだよ。あるいはライセンス契約するか。名づけて幼女プリン!」

「瀬古いのりプロデュースということ?」

「うん!」

「そうきたか~」


 プリンを食べる神宮寺の手が止まった。


「須田ちゃんはどう思う?」

「さすがに多角化は無理じゃないでしょうか? うちはIT屋ですし」


 俺はやんわりと難色を示してみる。


「だよね~。餅は餅屋というしな〜。プリンはプリン屋だよな〜。それでも挑戦するとすれば……」


 ガリッ!

 神宮寺の犬歯がプラスチック製のスプーンを噛む。


「ねえ、社長。これは姫井と相談なんだけれど、どこかの喫茶店とコラボするのが現実的じゃないかな?」

「デザートを扱っているカフェと協力するの?」

「まあ、プリン屋とコラボしてもいいけれど。一か月の限定販売とかにしたら、そこそこ売れるかも。社長が考えている幼女プリン。決めないといけないのは……」


『瀬古いのり』×『プリン』のコンビを組むのか。

『幼女コレクション』×『プリン』のコンビを組むのか。


「ゲームと喫茶店がコラボする例はたまにあるよね。ファンサービスの一環として。ウチと組みたい会社も探せば見つかるだろうし。こっちの宣伝能力をつかえば、相手さんにも恩恵があるから、悪い話じゃない……ような気がする」


 神宮寺はそう締めくくった。

 この人がプランを説明すると100%成功しそうな気がするから不思議だ。


「幼コレのカフェができるの?!」


 社長が目をキラキラ輝かせながらいう。


「いや、あくまで仮定の話だから……」

「夢が膨らむな~」

「あ~あ、頭の中がプリン一色になっているよ」


 俺は苦笑した。


 一時間前はすっかり気落ちしていたのに、たった一個のプリンでここまで立ち直れるのは、一種の才能といえるだろう。


 俺だけじゃない。

 神宮寺さん。

 姫井さん。

 その他の先輩たち。

 みんな社長のことが大好きだし、この会社でずっと働きたいと願っている。


 ここに入社して良かったな。

 俺はその認識を強くした。


「なあ、須田ちゃん。そろそろ社長と同居するんだろ? 会社の近くの物件にさ」


 神宮寺が意味ありげに含み笑いをする。


「話を知っていたのですか? いや、隠していたつもりじゃないですが……」


 ちらりと社長の方を見た。


「うん、私があすかに教えたから」


 社長は嬉しそうに頷く。


「ふっふ~ん♪ これでシャワーと休憩場所を借りられるな。スーパー銭湯の代わりにさ」

「銭湯の代わりって……」


 引っ越しのことをカミングアウトされたのはいいだろう。

 いずれ知れ渡ることだ。


 しかし、神宮寺さん。

 転がり込んでくる気が満々だな。


 フレンドリーというべきか。

 厚かましいと表現すべきか。

 容器の底にあるカラメルソースをかき混ぜながら、俺はそんなことを考えた。


「心配そうな顔をするなって。須田ちゃんたちの生活を邪魔しないよう、ちゃんと合鍵をつくってもらうから」

「合鍵だと出入りが自由じゃないですか?!」

「まあね。シャワーを浴びるたびに、玄関を開け閉めしてもらうのも迷惑な話でしょ」

「……」


 一理あるな。

 そう思った俺は黙ってスプーンをくわえた。


「あすかは会社の稼ぎ頭だからね。このくらいの特別待遇はしてあげないと。いわば信頼の証だよ」


 カラメルソースがついた唇を舐めながら、社長がフォローする。


「なるほど」


 考えたな、社長。


 神宮寺にシャワーを貸したら、その分だけモチベーションが上がる。

 すると会社の業績として跳ね返ってくる。


 合鍵一本をつくるコストなんて、タダも同然という計算だろう。


 得をするのは社長なのか?

 それとも神宮寺なのか?

 答えを出すのに一秒もあれば十分だ。


「マサくん、一緒に暮らしたら何をしようか? お(そろ)いのパジャマでも買っちゃう? それともふたりで料理する? 家でゆっくり映画鑑賞するのも悪くないよね」

「社長が楽しめることでしたら何でも。社長がやりたいことを片っ端からやりましょう」

「この一年は忙しかったから。これからはお互いのことをもっと理解しようね」

「ええ……」


 聞いているこっちが恥ずかしくなることを次から次へと並べていく。

 社長が天然の人たらしといわれる所以(ゆえん)だ。


「マサくんにはアレをお願いしたいな。私の身長を記録していくやつ。壁とか柱にさ、専用のウォールステッカーを貼ってさ。そこに印を残していくの。子どもの時はティッシュの箱とかで背の高さを測ったな〜」


 社長が頭に手をのせながらいう。


「なんだよ、お前ら。やっぱり新婚の夫婦かよ。アツアツすぎて微笑ましいな。まるで小学生カップルみたいだぜ」


 そういう神宮寺の顔もまあまあ楽しそうだった。

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