022 幼女カメラ
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◇十五年後の未来顔がわかる!
◇『業界の平均顔』とマッチング!
◇百万人を参考にデータベースを作成!
~幼女カメラの使い方~
(1)お使いの端末にアプリをダウンロードし、カメラ機能へのアクセスを許可します。
(2)被写体となる幼女の顔写真を撮影します。
(3)利用規約に同意して画像を送信する、を選択します。
(4)十五年後のイメージ顔写真が届きます。
(5)『業界の平均顔』とのマッチング結果と『業界の平均年収』をチェックできます。
【結果例 〜ここから〜】
あなたの十五年後の顔は『地方銀行員(女性)』の平均顔とマッチしました。
平均年収は『574万円』となります。
あどけなさ:★★★☆☆
いろっぽさ:★★★☆☆
かっこよさ:★★★☆☆
【結果例 〜ここまで〜】
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幼女向けのアプリケーションが上位を独占している。
※ ※
さっそく幼女カメラを試してみることにした。
まずは言い出しっぺの神宮寺から。
カメラマンは俺が務める。
この幼女カメラ、いくつか注意点がある。
なるべく屋内の明るい場所で撮影すること。
帽子、サングラス、マスクなどは外しておくこと。
平常の顔と大きく異ならないこと(口角が上がるなど)。
「写真を撮るとき、テンションが上がるよね」
神宮寺がツインテールのポジションを整えながらいう。
「そうですか? 俺は集合写真が苦手でしたけれど」
俺はレンズの中に神宮寺を収めながらいった。
「シャッターを切るタイミングで白目になる人かな?」
「いや、白目はないです。笑おうとしたら眉間にしわが寄っているやつです。だから社長とか神宮寺さんみたいな爽やかスマイルには憧れます」
「へえ〜。不器用さんだね」
神宮寺が白い歯を見せながら笑う。
「そろそろ撮っても大丈夫ですか?」
「うん、お願い」
ピントが合っていることを確認してからシャッターをきった。
ぱしゃり!
これで撮影は完了。
俺は『利用規約に同意して画像を送信する』をタップした。
三秒くらい待っていると、すぐに画像データが送られてくる。
「処理が終わりましたね」
「どれどれ」
俺と神宮寺はスマートフォンをのぞきこんだ。
「……」
そこに映っていたのは、どこか気品のある女性だった。
表面的に美しいというより、内面から大人の魅力がにじみ出ているタイプ。
えっ?! 誰なの?!
とは思わない。
十五年後の神宮寺だ。
しっかりと本人の面影が残っている。
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あなたの十五年後の顔は『六本木のホステス』の平均顔とマッチしました。
平均年収は『1,850万円』となります。
あどけなさ:★★★☆☆
いろっぽさ:★★★★★
かっこよさ:★★★★☆
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さすが神宮寺さん。
十五年後のイメージは女優顔だった。
有名な若手タレント十人の顔を足して割ったような感じ。
そして清潔感と親近感もある。
こんな女性と一日デートできたら、ついつい街中へ繰り出したくなるし、日頃の憂さを忘れられるだろう。
五段階の評価については色っぽさが最大。
いまでも幼女とは思えない色気があるし、十年とか十五年で大化けするかと思うと、末恐ろしい気さえする。
しょせんはアプリの評価。
とはいえ自慢してもいいレベルだろう。
「職業でホステスを引いてくるあたり、さすが神宮寺さんです」
「ホステスか~。酔っ払ったお客さんが酒をこぼしたとき、お召し物がびしょ濡れになったら、股間のあたりをキレイキレイしてあげるお仕事だよね」
「それもサービスの一環ですね。本来のサービスじゃないですけれど」
「でも私、トークは苦手だからな」
「興味のある話にしか集中できないタイプですか?」
「それそれ。接客業をやるとしたら、落第なんだよね、きっと」
神宮寺らしい冷静なリアクションといえる。
現実は現実。
妄想は妄想。
そういう線引きをきっちりと守っている。
「ほらね、遊びとしては楽しいでしょ。次はいのりの番だよ」
「やらないと、ダメ?」
「もちろん。私なんてホステスだからね。いのりはコメディアンとか引いたりして」
「からかうなよ~」
社長が恥ずかしそうにモジモジと体をよじる。
そんなに照れることなのだろうか?
神宮寺はまったく抵抗がない様子だったし、男の俺にはよく理解できない。
それに普段の社長なら、
『失うものは何もないしね』
といって気軽に挑戦するだろう。
新しいものには目がない、それが瀬古いのりの習性なのである。
「どんな結果になっても笑わないでよね」
「もちろんですよ、社長」
「じゃあ、お願いします」
俺はカメラのレンズに社長を収める。
手ブレがないことを確認してから『利用規約に同意して画像を送信する』をタップした。
「……」
三秒後に送られてきた画像データをのぞきこむ俺たち。
確かに十五年後の社長だ。
なかなか可愛らしい。
可愛らしいには違いないのだが……。
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あなたの十五年後の顔は『高級ソープ嬢』の平均顔とマッチしました。
平均年収は『1,850万円』となります。
あどけなさ:★★★★★
いろっぽさ:★★★★☆
かっこよさ:★★★☆☆
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さすが社長。
十五年後のイメージはアイドル顔だった。
実際にこんな顔立ちの声優さんとか歌手を見たことがある。
活発そうなイメージがあるし、お気に入りのツインテールも似合うだろう。
恋人にしたいというよりかは、血のつながった妹にして、近くで成長を見守りたいタイプといえる。
「……」
しかしリアクションに困る。
メチャクチャ困る。
まさかの高級ソープ嬢。
最強クラスの年収だし、これも一種のステータスといえるのだが、周りに自慢したくない職業といえる。
「ソープ嬢ってなんだっけ?」
神宮寺がしれっとこぼす。
「泡姫……みたいな仕事じゃないですかね」
俺はわざと表現をぼかす。
「ヌルヌルするやつ?」
「だと思いますよ」
「高級ということは、超ヌルヌルするやつ?」
「むしろ言葉遣いや接客レベルが高級という意味ですね。俺は未経験なので、それ以上の詳しいことはいえませんが」
「そうか、そうか」
神宮寺がぷっと噴きだした。
なにが面白いのか、腹をよじって笑いをかみ殺している。
「十五年後のいのりがソープ嬢……マジかよ……想像したらヤバい……だって……可愛すぎるだろ……ダメだ……ロリ顔だし……ツインテールだし……笑えてきた……天職かよ!」
「ちょっと神宮寺さん!」
「腹筋が壊れそう……」
「社長が深く傷ついています」
「えっ?!」
これは嘘じゃない。
社長が頭を抱えて落ち込んでいる。
全財産を一日で吹き飛ばしたギャンブラーのように。
「うわ、ごめん! いのり! 私が悪かった!」
神宮寺は態度を180度変えて謝罪する。
「いいんじゃない、高級ソープ嬢。これも立派な職業だよ」
そういう社長の声は失望の色を帯びている。
「今回の結果はたまたまだって。もう一回やったら別の職業がでるよ!」
「たぶん無駄」
「?」
「もう家で150回くらい幼女カメラを試しているんだよね。うん、何回やっても高級ソープ嬢だよ。あっはっはっはっは……そろそろ心が折れそう。そうか。ヌルヌルするのも立派なお仕事だよね〜。うんうん、きっと天職だよ〜。あすかのいう通りじゃない? 私向きの職業かもね〜」
俺は後悔のあまり顔面を手で覆った。
「私といい勝負じゃない!」
「ホステスはいいよ。40歳になったら、40歳の魅力があるでしょ。自分のお店を持てる可能性もあるし。でも高級ソープ嬢はね、キャリアの限界というやつがあるのだよ……」
だから幼女カメラを試したくなかったのか。
無理もない。
いや、無理強いさせてしまった三分前の俺と神宮寺を叱りたい。
「社長……」
「いまはそっとしておいてくれ……心が折れそうなんだ」
社長のメンタルは崩壊寸前といえるだろう。
普段は元気で明るいあの瀬古いのりが、である。
「……すみません。無神経なことを言っちゃって」
こんな痛々しい姿を見るのは初めてのことだ。
目からは一切の光が失せているし、ツインテールだって元気がない。
「ねえ、須田ちゃん。励ましてあげなよ」
「えっ?! 俺ですか? さすがにそれは……」
「このままだと社長が本当にソープ嬢になっちゃうよ。そうなったらうちの会社は解散。須田ちゃんもお払い箱さ」
「神宮寺さんはどうするのですか?」
「さあ、話の流れからすると、ホステスさんになるしかないよね。私に会社経営は無理だし」
高級ソープ嬢の社長。
六本木のホステスの神宮寺。
幼女カメラのアイディアは秀逸だ。
なのだが……。
『せめて水商売はマッチング結果から外した方がいいと思います』
俺は問い合わせフォームからリクエスト送信しておいた。
この声が採用されることを切に願いつつ。




