015 幼女コレクション
……。
…………。
社長とフレンド対戦した夜から三日後。
SNS上には次のようなつぶやきが流れていた。
幼コレ@公式アカウント(1/2)
「次回のメンテナンスで一部キャラクターのバランス調整を行います。
《対象キャラクター》
・赤ずきん
・サクヤヒメ
・ブリュンヒルデ
・正義の幼女・テミス
・海原の幼女・テティス
画像は開発中のものとなります。
実際の性能とは変更になる場合があります」
幼コレ@公式アカウント(2/2)
「次回のメンテナンスでショップに下記アイテムが追加されます。
・サクヤヒメ再臨記念パッケージ(480円)
販売期間はxx月xx日 24:00までとなります。
1ユーザ様につき1回まで購入可能です」
ユーザの反応。
「サクヤ様が完・全・復・活!」
「次はイオかレベッカの修正をお願いします」
「一緒にパッケージ販売してくるところが抜け目ない……」
「480円て運営費の足しになるん?」
「意外となる。ソースは俺」
中には好意的な反応もある。
「いのり社長にもっとお布施せねば!」
「幼コレに課金するのが生きる一番のモチベ」
メンテナンスまであと四日。
幼女株式会社はにわかに忙しくなる。
※ ※
ありふれた土曜日。
平日ならば通勤ラッシュの時間帯。
俺はいつもの電車に揺られていた。
脳みそをスリープ状態にして、吊革につかまったまま、車内アナウンスを聞き流している。
正直いうと眠い。
作業が立て込んでいて、終電の一本手前で帰ったから。
家について、シャワーを浴びて、布団に潜り込んだのが六時間前の記憶か。
その間に何を食べたのか、まったく思い出せない。
覚えているのは朝のアラーム音のみ。
しかし習慣というのは便利なものである。
次に気がついたら電車に乗っていて、その次に気がついたら勤務先までひと駅の地点にいる。
分かる。
会社の近くに住みたいといった社長の気持ち。
1,000円を払ってあと30分寝られるのなら、俺は喜んで1,000円を差し出すだろう。
「ねえねえ、お母さん」
同じ車両に乗り合わせていた子どもがいう。
どうやら俺の存在が気になるらしい。
「今日は土曜日なのに、どうしてあの人は会社へいく格好をしているの?」
それに対して母親が答える。
「世の中にはね、土曜と日曜がお仕事の人もいるのよ。この電車だって、駅員さんが動かしているでしょう」
「その人たちはいつ休むことができるの?」
「きっと火曜とか水曜が休みなのよ」
「へえ~、そうなんだ」
ごめんね、少年。
年間休日120日をきっちり休んでいるサラリーマンは少数派なんだよ。
急なトラブル対応
あるいは入院した同僚のピンチヒッター。
そういう理由で今日もたくさんの大人が駆り出されているだろう。
どこの会社だって頭数はギリギリなのだ。
ベンチ要員を置けるのはプロスポーツの世界くらいだろう。
『……次は神田、神田、お出口は左側です。東京メトロはお乗り換えです。……』
アナウンスの音声に続いて電車のブレーキ音がこだまする。
ホームに降り立った俺は、そこで大きく息を吸った。
全国の行楽地と同じように、ビジネス街にも二つの顔がある。
たくさんの人で溢れかえっている平日。
閑散としており、うら寂しささえ感じられる休日。
いつも通っているコンビニへ足を運んだ。
平日ならば幼女やOLの姿が目立つのに、この日は俺しか客がいない。
「お会計、247円になります」
「これで」
「千円お預かりします。おつりが……」
お茶とガムを手に入れた俺は、閑散としており、うら寂しささえ感じられるビジネス街へ繰り出した。
うちの会社の場合、土曜と日曜は必ずといっていいほど誰かが出勤してくる。
出現率が高いのは、社長、神宮寺さん、俺の三人。
次点で姫井さんあたり。
会社がそういう状態にあることはインターンシップの時から知っていたので一切の文句はない。
俺だけのためにエレベーターが降りてくる。
『7』のボタンを押すと、チンという電子音がして、鉄の箱が上昇をはじめた。
「昨日は先輩たちも遅かったよな〜。たぶん終電コースだよな〜。大人の俺でもキツいのに……」
小さい体でよくやるよ。
あのモチベーションの高さは本当に尊敬する。
オフィスに一歩踏み込んだとき、俺は人の気配のようなものに気づく。
照明がついているわけではない。
パソコンが動いているわけでもない。
人影もなければ、物音もしない、無人であるべきはずの空間。
まさか社長なのか?
気になって調べてみたが、席はもぬけの殻のようになっていた。
オフィスを巡回してみたが他の先輩たちの席も同じだ。
一切の私物は残っておらず、きれいに片付けられている。
「あと確認していないのは……」
見つけた。
休憩エリアのソファの上。
ひとりの幼女が休息している。
顔を確かめようとして、俺はぎょっとした。
よく知った人物が寝転がっている。
その姿がセクシーというか、可愛いというか、肉感的というか……。
ほとんど生まれたときの格好で、パンツとニーソックスだけを着用し、気持ちよさそうに寝息を立てているのだ。
床に散乱しているパーカー、キャミソール、ミニスカートたち。
限りなく全裸に近い半裸といえる。
暑くなって脱ぎ捨てたのだろうか?
少し離れた位置には茶色のショートブーツが転がっていた。
このまま放置するのは気が引ける。
かといって何と声をかければいいのか分からない。
俺は変なシチュエーションに足を踏み入れてしまった。
「ん……うぅ……」
幼女の体がピクリと震える。
「もしも〜し」
「…………」
困ったことに反応はなし。
体を揺すって起こしたいのも山々だが、相手は先輩だし、しかも幼女だし、肌に触れるのは気がとがめる。
「風邪を引きますよ〜」
「……」
俺が凝視しているのは、ちょっとだけ膨らんでいるバストの部分だ。
ゆるくウェーブした茶髪が肩から下へ伸びてきて、胸元とその周辺をうまい具合にカバーしており、ブラインドの役目を果たしているのだ。
いってみれば放送禁止にならないレベル。
朝から不謹慎なのはわかる。
しかし偶然にしては神がかったバランスといえないだろうか。
「……んん?」
小鹿のような目がゆっくりと開いた。
「おはようございます」
「ああ、須田ちゃんか……。君が出社してきているということは、もう八時過ぎ?」
「そうです。あと格好が色々とヤバいことになっていますが……」
「うわぁ! 須田ちゃんのエッチ!」
幼女は慌てて胸元をガードした。
その口元がふっとゆるむ。
「なんちゃってね。別に平気だよ。見られても減るものじゃないし」
「とりあえず上下の服は着ましょうよ。社会人の常識として」
「へいへい」
幼女はぺろりと舌を出した。
テクニカルマネージャーの神宮寺あすか。
会社の創設メンバーにして、幼コレのシステム面を担当しているエンジニア。
社長にとっては右腕のような存在といえる。
異色なのはそのルックスであろう。
一言でいうと服装とか趣味がギャルっぽい。
垢ぬけした女子高生がそのまま小さくなった感じ。
しかし軽そうな外見に騙されてはいけない。
普通ならば一年以上かかるソーシャルゲームの開発。
それをたった三か月で完遂し、しかも重大なバグを一件も発生させなかったという、リアルのぶっ壊れキャラなのである。
ソーシャルゲームの原価はほとんどが人件費だ。
期間が1/4で済んだらどうなるか?
競合他社が聞いたら吐血する。
「この時間に会社で寝ていたということは、家に帰っていないのですか?」
「う~ん、そうだね。もう三日連続でスーパー銭湯へ通っているかな」
「さすがにマズいですって。家のごみ箱とか。郵便物とか」
「大丈夫だよ。着替えはストックがあるしさ。いざとなったら、コインランドリーへ駆け込んで無限ループできるしさ」
神宮寺は無垢そうな顔をして過激なことを言い放った。
俺としては複雑な笑みを返すしかない。
「社長が聞いたら絶対に怒りますよ」
「そんなことはない。むしろ褒められて、頬っぺたペロペロまでありえるね」
「それはある意味、刑罰に近いのでは?」
「いえてる。それにしてもよく寝たな~」
猫のような仕草で目をこする神宮寺。
ゆるくウェーブした茶髪が、そよ風に吹かれるカーテンのように揺れる。
俺は不思議に思う。
この小さい体のどこに膨大なエネルギーを秘めているのだろうか。
体重だって俺の半分もないだろうに。
「そうだ、須田ちゃんに見せたいものがあるんだよね。私のセミヌードじゃなくて。ちょっとビジネスの企画でね」
落ちていたミニスカートを穿きながら、神宮寺がいった。
「少しは恥じらいを覚えてください。幼女の上半身裸はまあまあヤバいですから」
窓ガラスの向こうから射してくる光に、俺は目を細める。




